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残響のプレリュード  作者: erg
第2部

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59/82

第2部 第10項

 STAR DROPの入口のドアが開く音。

 反射的に、結月は顔を上げる。

 ――違った。

 入ってきたのは、機材搬入のスタッフだけだった。


「あ、ちぇー」


 ルナが、わざとらしく肩を落とす。


「今日も拓海先輩いないのかー。つまんなーい」


 軽口。いつものルナだ。

 結月は、何も言えなかった。

 カウンターに肘をついて、ステージを見る。

 アンプは揃っている。

 ドラムも、キーボードも、サックスも。

 でも、中心がいない。

 練習はできる。

 音は出る。

 曲も回る。

 それでも。


(……違う)


 何が、とは言えない。

 でも、確かに違う。

 ルナがちらっと結月を見る。


「……結月先輩?」


 結月は、少し遅れて視線を返す。


「なに?」


 声は、いつも通りだった。

 それが、余計におかしい。

 ルナは、少し首を傾げる。


「なんかさ、拓海先輩いないと、空気ちょっと軽くない?」


 悪気はない。事実としての感想だ。

 結月は、一瞬だけ言葉に詰まる。

 軽い。

 確かに、軽い。

 でも、軽すぎる。


「……そう?」


 結月は、それだけ返した。

 ステージ脇の椅子に座る。

 楽器ケースを開ける手が、少しだけ遅い。


(いつからだろう)


 拓海がいない時間を、「待つ」ようになったのは。

 前は、来たら合わせる。

 いなければ、それなりにやる。

 それだけだった。

 ミツキが、カウンター越しに様子を見ている。

 結月の変化に、気づいている。

 でも、声はかけない。

 今は、誰かに言われるより、自分で気づく時間だから。

 音を出す。

 結月のバリトンが鳴る。

 正確で、安定している。

 でも、どこか慎重だ。

 拓海がいない分、自分が支えなきゃいけない。

 そんな意識が、無意識に入る。

 ルナが、少し元気に吹く。

 場を明るくしようとしているのが、わかる。

 だから余計に、結月は言えなかった。


  「寂しい」とも

  「不安だ」とも。

(……言えない)


 言ったら、「重い」になる。

 言ったら、「依存」に見える。

 言ったら、拓海を縛る。

 結月は、それが一番怖かった。


 ---------------------


 STAR DROPの照明が、いつもより白く見える。

 音は鳴っているのに、どこか、空気だけが置き去りだ。

 結月は思う。


 ―ルナは「つまらない」と言える。

 ―自分は......

 ―何も言えないほど、怖くなっている。


 それが、拓海がいない時間が増えたことの、本当の意味だった。

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