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残響のプレリュード  作者: erg
第2部

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52/82

第2部 第5項

 ステージの照明が一段と明るくなる。

 最初はオリジナルの《シューティングスター》が3人の音が軽快に場の温度を上げる。

 そしてニ曲目《A列車で行こう》

 ドラムのカウントで幕が切って落とされると、バリトンサックスの低音が床を振動させ、テナーが自由に旋律を描く。

 拓海の合図とともに――ホーン隊がフラッシュモブのように舞台袖から飛び出した。

 観客の目が一斉に向く。

 ざわめきと驚きの笑いが混ざり合い、会場全体の空気が一気に変わった。

  ホーン隊のトランペットやサックスが加わり、ステージの音が一層厚く、華やかになった。 直子のフルートも華やかに彩りを装飾する。

 結月はニコニコと笑いながらリズムを刻み、ルナはテナーを吹きながら、目を細めて楽しむ。 拓海は三人の間で、軽く目を合わせ、自然にニヤリと笑った。 その笑顔に、観客も引き込まれる。

「わあっ!」歓声が上がり、手拍子が会場に響く。

 フラッシュモブで飛び出した仲間たちも、演奏に合わせて笑顔を見せ、観客に拍手を促す。

 音と視覚が一体になり、デルタの初ステージは、序盤から熱気に包まれた。

 そして何より――拓海が、純粋に楽しそうに音楽を鳴らしている。

 その姿が、観客、仲間、そしてステージ上の三人自身を、思わず夢中にさせた。


「げっ、これじゃプラチナムーンがかすむじゃんよ……」


 マサが苦笑いを浮かべる。

 その横でハルシュタのエリカは、ふん、と肩をすくめながら言った。


「それでも、私は強い」


 なぜか「私たち」ではない。周りは思わず顔を見合わせ、くすりと笑う。

 デルタのステージが大盛り上がりで幕を下ろす。

  観客の拍手がまだ鳴りやまぬ中、ステージ上では次の準備が始まる。


「さて、プラチナムーンの出番だな」


 ミツキさんの声が響き、観客も期待の目を向ける。

 拓海はドラムの配置を少し変更し、結月はバリサキからキーボードへ。

 二人はデルタの熱気を胸に抱えたまま、今度はプラチナムーンとしての自分に切り替える。

 マサやコウ、モモも、それぞれ笑みを浮かべ、ステージの緊張と高揚を受け止める。 デルタの時とはまた違う呼吸。

 今度はプラチナムーンとして、観客と音を一体化させる瞬間がやってくる。

 そして、ライトがステージを包み、静寂の中で一音目が鳴る――。

 拓海の演出は、やはりすごい。

 デルタの高揚感で霞むかと思われたプラチナムーンのステージだが、瞬く間に場の雰囲気を変えた。

 大人の空気感と落ち着いた迫力が混ざり合い、会場を包み込む。

 観客は息を呑み、手拍子と歓声が絶妙なタイミングで沸き上がる。

 デルタとはまた違う、成熟した熱気だ。

 そしてプラチナムーンの最後の一音が余韻となって消えた瞬間、空気は自然と次のハルトゲシュタインへとつながっていく。

 観客の視線も、ステージ上の演者たちも――次の熱気を待ち構えていた。


 ハルシュタは、ヒカリの超絶技巧と、エリカのダイナミックなベースラインを軸に、若者らしい疾走感を会場いっぱいに放った。

 もはや、対バンや対決感などは関係ない――ただ純粋に、音楽の高揚だけがそこにあった。

 デルタ、プラチナムーン、そしてハルシュタ。 STAR DROPを代表する二つのバンドとその前座が、それぞれの個性と熱をぶつけ合い、最高のステージを作り上げたのだった。

 この奇跡的なライブに立ち会った観客たちは、目の前で繰り広げられる音の奔流に息をのんだ。

 デルタの遊び心、

 プラチナムーンの大人の迫力、

 ハルシュタの疾走感。

 ――すべてが一体となり、ステージと観客をつなぐ。

 ルナは自分の出番の後は、従妹のしのぶと純粋に楽しんだ。

 直子も吹奏楽とは違う、初めてのライブに興奮を抑えない。

 拍手と歓声は、ただの反応ではなく、音楽そのものへの祝福だった。

 笑顔と興奮が会場中に広がり、誰もが心の中で確かに叫んでいた――


「音楽って、こんなに自由で、こんなに熱くて、こんなに楽しいんだ!」


 ミツキの顔は、苦々しい。

 デルタのフラッシュモブ仕込みについては、まったく知らされていなかったのだ。

 一方、PAのサクは、少し得意げな顔をしている。

「演出のために、知ってたんです」と、内緒話のように小さく言った。

 ステージ上の熱気を見渡しながら、ミツキは息を吐いた。

 ――しかし、確かに盛り上がった。

 演出の妙を、嫌というほど感じさせられる瞬間だった。


 --------------------


 打ち上げは、デルタとプラチナムーン、ハルシュタの面々。

 そしてSTAR DROPのスタッフ全員で行われた。

 場所はミツキが手配した居酒屋だ。

 もちろん未成年のメンバーは、アルコールには手を出さない。

 それでも、テーブルいっぱいに広がる料理と、熱気の残る会話で、店内は賑やかだった。

 スタッフたちは笑いながらお互いの苦労話やステージの裏話を語る。

 若者たちは若者たちで、演奏中には言えなかった感想や、互いの演奏に対するリスペクトを、照れくさそうに語り合う。

 拓海も結月もルナも、笑顔でその輪に溶け込みながら、あのステージの高揚感を胸に刻んでいた。

 外に出たモモは、夜風を胸いっぱいに吸い込む。 しばらく無言で立っていたが、ルナがそっと後ろから歩み寄る。


「……モモ先輩?」


 ルナの声は少しだけ震えている。

 モモは振り向きもせず、夜空を見上げて答えた。


「……すごかったな。あんなライブ、初めて見た」


「うん……拓海先輩、楽しそうだったね」


 ルナも視線を空に向ける。


「結月先輩も、あんな顔するんだって思った」


 モモは小さく笑った。


「そっか……そうか」


「……モモ先輩?」


 ルナが少し顔を近づける。


「やっぱり、デルタの三人なら……音楽を心底楽しめるんだな、って思っただけ」


 その声には、昔の苦さも、今の安堵も混ざっていた。

 ルナは微かに笑みを返す。


「……うん。私も、そう思う」


 二人はしばらく、夜風に当たりながら静かに並んでいた。 言葉少なに、でも心の中で確かに、あのライブの余韻を分かち合っていた。

 拓海が夜風の中に現れる。


「どうしたんだ?」


 モモは少し肩をすくめて、そっけなく答える。


「何でもない」


 ルナは顔を輝かせて、正直な思いを口にした。


「拓海先輩の昔話、聞きたいなと思って」


 拓海は一瞬だけ目を細め、にやりと笑う。


「そうか。昔話ね……じゃあ、ちょっとだけな」


 モモは少し息をつき、ルナは期待で胸が高鳴る。

 ――夜風に混じる三人の笑い声が、静かな夜に溶けていった。

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