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残響のプレリュード  作者: erg
第2部

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51/82

第2部 第4項

 軽音同好会は、1年限定の期日を目の前に控えていた。


「先生、少しお話ししてもいいですか?」


 結月は生徒指導の渡辺の前に立ち、少し緊張しながらも、胸の内のワクワクを抑えきれずに口を開いた。


「軽音同好会、去年、拓海先輩と二人で試験的に始めたんです。1年限定との条件でした。でも、高橋ルナさんが入ってくれて、活動人数の要件もちゃんと満たせました。」


 結月の声は自然と明るくなる。


「活動は本当に楽しくて、毎回の練習が待ち遠しいくらいです。曲を合わせて、音が重なっていく瞬間、みんなで笑いながら工夫したり……そんな時間が、私たちにとってすごく大事なんです。」


 少し顔を上げて、先生の目を見ながら続けた。


「大きい声では言えませんが、校外でのバンドも続けています。その成果が、先生が認めてくださった文化祭のライブです。学校に支障は全くありません。安全面やマナーにも気をつけていますし、問題行動もありません。今は拓海先輩も社会人ですが、私たちが間違ったことをしないように、見守ってくれています。」

 

 校則の運用規定が緩和されたことで、少なくとも違反ではなくなった。

 結月は最後ににっこり笑った。


「だから、同好会はこのまま続けたいと思っています。先生にも、私たちがどれだけ楽しく活動しているか、感じてもらえたらうれしいです。」


 先生は、結月の話を遮らず、最後まで黙って聞いていた。 腕を組むことも、書類に目を落とすこともせず、ただ静かに。 一呼吸置いてから、ゆっくりと言う。


「……楽しそうなのは、よく伝わったよ」


 その一言で、結月の肩の力が少し抜ける。


「正直に言えばね」


 先生は穏やかに続けた。


「学校として一番気にしているのは、“楽しいかどうか”じゃない。続けられるかどうかだ」


 結月は、頷いた。 反論せず、言葉を待つ。


「人数、活動実態、安全管理。どれも形だけ整っていても、長続きしない同好会は多い。去年は、正直“様子見”だった」


 先生は、結月をまっすぐ見た。


「でも今年は、違うな」


 結月の目が、少しだけ見開かれる。


「君の話し方がね。『続けたい』じゃなくて、『続いている』人の顔をしている」


 一瞬、結月は言葉を失った。


「だから」


 先生は机の上の書類を指で軽く叩く。


「校外活動の範囲も変わったし、条件付きだ。同好会としての継続は認める」


 胸の奥で、ぱっと何かが弾ける。


「ただし、活動記録は今まで以上にきちんと出すこと。校外活動との線引きも明確に。それが守れるなら、私は止めない」


 結月は、深く頭を下げた。


「ありがとうございます!」


 顔を上げたとき、先生は少しだけ笑っていた。


「それとね、長谷川か。ついこの前まで、ここにいたのにな」


 結月は、はっとする。


「社会人が関わる以上、責任も増える。でも――」


 先生は言葉を選ぶように、一拍置いた。


「君が“見守られている”と言えるなら、それは悪いことじゃない」


 結月は、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。


「音楽は、学校の中だけで完結するものじゃないからね」


 その言葉に、結月は小さく、でも確かに頷いた。

 ――軽音同好会は、まだ同好会のまま。 でも、確かに“居場所”として認められた。

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