第2部 第1項
工業高校の出身者で、大学に進学する者は少ない。
拓海も例にもれず、卒業後は地元の企業に就職した。
本当は、地元を離れるつもりだった。
小学校時代の苦い記憶を胸の奥にしまい込んだまま、吹奏楽を続けてきた。
けれど、それも高校で終わりにするつもりだったし、実際にそうした。
それを区切りに、知らない街へ行きたかった。
過去に縛られない、新しい自分を見つけるために。
――でも、離れられない理由ができた。
結月とルナ。拓海は別に、気が多いというわけではない。
ただ、音楽を通して分かり合えた仲間と、これからも繋がっていたかっただけだ。
----------
拓海が卒業してからも、軽音同好会は結月とルナの二人で活動を続けていた。
拓海がいないのはやはり寂しい。
それでも、SOUND DOCKやSTAR DROPに行けばだいたい彼がいて、そういう意味では、今でもいつでも会える存在だった。
プラチナムーンとは別に、拓海、結月、ルナの三人で新しいユニットも立ち上げた。
ドラムにテナーサックス、バリトンサックス。少し変わった編成で、ビッグバンドの名曲をカバーしていた。
--------------------
拓海の卒業前のことだ。
ルナが入ったことで、軽音としての方向性を改めて考えるようになった。
「キーボードに、そこまでこだわらなくてもいいんじゃないか」
そう言いながら、拓海は譜面を配った。
「ビッグバンドの曲を採譜してさ。ドラムとテナー、バリトンで演奏できるようにしてみた」
曲名を見て、結月が目を上げる。
――《A列車で行こう》。
「テナーでメロディライン、バリトンで低音とリズム。どうだ、合わせてみないか」
結月とルナは顔を見合わせた。
二人とも、「そんな方法があるのか?」とでも言いたげな表情をしている。
だが、プラチナムーンで拓海のアレンジを知っている結月は、うなずいた。
「やってみよう」
スティックを構え、軽く笑う。
「いくよ。ワン、ツー、」
スリー、フォーは、わざと言わない。
三人はアイコンタクトだけでタイミングを合わせる。
初見だが、思ったほど難しくはない。
進行していくにつれ、音が噛み合い、楽しくなってくる。
三人は三角形に位置取り、内側を向く。
目を見合わせながら、互いの呼吸を感じ取る。
そして、ラスト。
「やったぁ!」
「これ、楽しい!」
拓海が満足そうに口元を緩めた。
結月が感じていることがある。コンクールが終わって吹奏楽部を引退した拓海は、以前より口数が多くなった。笑うようになった。




