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残響のプレリュード  作者: erg
前日譚

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46/82

前日譚9

 駅前の通りは、新学期特有の、少し落ち着かない空気に包まれていた。

 結月は、校舎とは逆方向―― 駅のほうから歩いてくる人影に気づく。


(……拓海先輩)


 制服の上着を羽織ったまま、少し俯き加減で歩いている。

 出会いから一年。

 学年は上がって、拓海は三年生。自分は二年生。

 なのに。


(……なんか、変)


 いつもなら、もう少し余裕のある歩き方をするはずなのに。

 今日は、眉間にしわ。

 完全に、困っている顔。

 その理由は、すぐにわかった。

 拓海の周りを、文字通り“くるくる”と回りながら、一人の女の子がついてきている。


「ねえねえ、拓海先輩~ 聞いてます?」


 距離、近すぎ。

 拓海は、逃げるわけでも、強く断るわけでもなく、ただ、歩いている。


(……嬉しそう、じゃない)


 拓海が、ちらりと前を見る。

 その視線が、結月に当たった。

 一瞬。

 ――助けて、と言わんばかりの目。

 結月は、思わず足を速めた。


「おはようございます、拓海先輩」


 声をかけると、拓海の顔がはっきりと安堵に変わる。


「お、おはよう、結月」


 女の子が、ぴたりと動きを止めて、結月を見る。


「……誰?」


 少し、警戒した声。

 結月は、にこっと笑う。


「同じ部活の、後輩です」


 あえて、吹奏楽とは言わなかった。

 拓海が、小さく頷いた。


「部の……大事なメンバー」


 その一言で、胸のざわめきが少しだけ静まる。

 女の子は、拓海と結月を交互に見て、唇を尖らせた。


「ふーん」


 拓海は、咳払いをして言う。


「えっと…… もうすぐ、朝練の時間だから」


 完全に、とってつけた嘘。

 でも、女の子は一瞬考えてから言った。


「じゃあルナ、行きますね!また後で!」


 そう言って、くるりと踵を返す。

 去っていく背中を見送りながら、拓海は、深く息を吐いた。

 それほど離れていないところから、モモがこっちを見ているのが見えた。


「……助かった」


「困ってたんですね」


 結月が言うと、拓海は苦笑した。


「新入生。元気すぎる」


 春の風が、二人の間を吹き抜ける。

 新学期、一週間目。

 結月は、なぜか胸の奥が少しだけ、落ち着かなかった。

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