前日譚8.5
あの夜のセッションと、拓海の音楽室がすべての始まりだった。
拓海と、モモと、結月。
この三人を軸に、少しずつ、音が集まっていく。
拓海は、急がなかった。
完成形を急ぐこともしなかった。
「合う音」を、待った。
やがて、リードギターにマサが加わる。
無駄に前に出ないが、ここぞという瞬間に、旋律を射抜く男だった。
続いて、ベースのコウ。
低音で全体を支えながら、拓海のドラムと呼吸を合わせられる稀有な存在。
音を合わせた瞬間、拓海は確信した。
――これだ。
誰かが欠けても、誰かが主張しすぎても、成立しない。
五人で初めて、音が立ち上がる。
「名前、どうする?」
何気ない問いに、少しの沈黙。
「……プラチナムーン」
モモが、ぽつりと言った。
夜の光。
完全じゃないからこそ、輝くもの。
誰も、異論はなかった。
こうして、拓海、モモ、結月、マサ、コウ。
五人のバンド―― プラチナムーンが、静かに生まれた。
それはまだ、小さな始まりだった。
だが後に、この月の光が、「ハルトゲシュタイン」と交差し、ライブハウスの夜を塗り替えていくことを、このとき誰も知らなかった。




