第1部 第3項
翌日、学校の廊下は朝の光に包まれていた。
私はライブの疲れを少し残しながらも、カバンを肩に掛け、設計室へ向かう途中だった。
「おはよう、結月」
背後から穏やかな声が聞こえる。
振り返ると、拓海先輩がゆっくり歩み寄ってきている。
制服姿の彼は、ライブのときとは違い、いつもの物静かな雰囲気そのままだ。
でも、その穏やかな声に、自然と心が落ち着くのを感じる。
「おはようございます、拓海先輩」
疲れてはいるが、少し声を張り気味に挨拶する。
先輩はただ軽く頷くだけ。
そのやり取りの中で、ライブでの距離感を思い出す。
私たちが通うのは工業高校だ。高卒で社会に出ることを前提とした職業訓練をする高校。
拓海先輩は機械科。私は建築科。今日は一日実習なので、実習棟へ向かう。
二人は必要以上の会話をせずに並んで歩く。けれどその沈黙は気まずさではなく、自然で心地よいものだった。 拓海先輩は科も学年も違うので、朝の交流はここまでだ。
「じゃ、放課後に部室で」
拓海先輩は軽く頷き、それぞれ機械科と建築科の廊下に分かれる。
言葉は少ないけれど、互いに存在を認め合う、そんな静かな時間が流れた。
昨日のライブの熱気と今日の静けさ。
その間で、拓海先輩との距離が、少しだけ、確かに縮まったことを感じていた。




