前日譚3
拓海の表情が最近、ほんの、ほんとにほんのちょっと柔らかくなった。
男子しかいなかった工業高校の吹奏楽部に、女子が一人入った。名前は……確か、結月ちゃん。
南高の吹奏楽部は部員が多く、わたしが入部した時トランペットが足りなくて、借りるために工業の吹奏楽部室に入ったことがある。
あの鉄扉が閉まり外界と隔絶され、大きな体の男子と対すると、とんでもなく怖い。
そんな場所に飛び込んだ結月ちゃん。勇気があるというか、無謀というか、とにかくえらい。
拓海は、どうやらその結月ちゃんのことを結構気にかけているらしい。
普段は口数が少ないのに、彼女のことはよく口にする。
男子部員が気を使いすぎて却って彼女が孤立しそうになると助けたり、パート練で使っていた小部屋を女子更衣室にしたり。
「ふ~ん、拓海ってその子のことそんなに気にかけるんだ」
「なんだよ。当たり前だろ」
その様子を話す拓海を見ていると、気にかけている以上の感情が、ほんのわずかに見え隠れする。
そして、ついに結月ちゃんと出会う。
楽器店SOUND DOCKで、拓海からトランペット購入のアドバイスを貰ってた時だ。
結月ちゃんは「偶然…...です」と言ってたけど、表情には後を付けてきたと書いてあった。
そして、拓海はあっさりとバンドの事を言った。
校則に抵触するからと学校には秘密にしてきたことを。
何事にも慎重な拓海がだ。




