表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残響のプレリュード  作者: erg
前日譚

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/82

前日譚1.3

「おい、長谷川のやつ、小鳥遊の事名前で呼んでるぞ」


「この前の女子の事、モモって呼んでたよな」


「あいつ、もしかしてそういうやつか?」


「天然たらし......か?」


 --------------------


 拓海先輩以外のひとたちは、正直に言えばどう見てもヤンチャそうだった。

 腕は太く、声は大きく、笑い方も豪快で、初対面では少し身構えてしまう。

 けれど、一緒に音を出してみて、すぐにわかった。

 この人たちは、音楽をやっている人たちだ。

 チューニングが合わなければ自然に声をかけてくれるし、リズムがずれればさりげなく合わせてくれる。

 失敗しても笑って流し、できたところはきちんと褒める。


 ――人は見た目によらない。


 その言葉を、これほど分かりやすく体現している人たちはいなかった。

 ただ一つだけ、結月が辟易したことがあった。

 男子の中に女子が一人。その事実が、先輩たちを少しだけ過剰にさせた。


「重くない? 譜面、持つよ」

「休憩、先にいいよ」

「座ってていいから」


 気遣いのつもりなのはわかる。でもそれは、対等な仲間としてではなく、「特別扱い」だった。

 まるで、女王様にでもなったかのような扱い。


(……まずいかもしれない)


 頭の中に、よくない言葉が浮かぶ。


 ――サークルクラッシャー。


 自分は何もしていないのに、周囲の空気だけが歪んでいく感覚。

 それが一番怖かった。

 そんな空気に、最初にストップをかけたのが、拓海先輩だった。


「ちょっと、やりすぎ」


 穏やかな声だったが、不思議とよく通った。


「結月は見学じゃなくて、もうメンバーなんだろ。だったら、みんなと同じでいい」


 先輩たちは一瞬、きょとんとした顔をしたあと、はっとしたように笑った。


「あ、そっか」

「悪い悪い、そうだよな」


 それだけで、空気はすっと元に戻った。

 誰も責めず、誰も傷つけず、でも曖昧にしない。

 拓海先輩は、そうやって自然に場を整えていた。

 その姿を見て、結月は思った。

 ――この人がいるから、この部は大丈夫なんだ。

 拓海先輩は、前に出て引っ張るタイプではない。

 けれど、気づいたときには、皆がその背中を信頼している。

 結月がこの吹奏楽部に居場所を感じたのは、音楽の楽しさと同時に、この「空気」を信じられたからだった。

 もちろん、男女差の気遣いが完全になくなるわけではない。

 重い物は自然と持ってもらえるし、更衣や体調のことも考慮してくれる。

 でも、それは「特別扱い」ではなく、部員として、仲間としての配慮だった。

 結月は、ようやく肩の力を抜いて部活に参加できるようになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ