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残響のプレリュード  作者: erg
第1部

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29/82

第1部 間奏曲 第21.5項

 放課後の生徒会室。

 窓の外は、文化祭準備のざわめきに満ちていた。

 ヒデは椅子にもたれたまま、書類を机に放り出す。


「文化祭で、バンドやれ」


 一瞬、空気が止まる。


「ヒデ……」


 拓海は、小さく視線だけを向けた。

 結月が小さく息を呑む。


「自分たちで勝ち取った場所だろ」


 ヒデは腕を組み、まっすぐに二人を見る。


「軽音っていう“居場所”をよ。だったら——」


 少しだけ口角を上げる。


「全校に見せつけてやれ」


 その言葉は、挑発にも、信頼にも聞こえた。


 拓海が静かに口を開く。


「……でも、二人しかいない」


「他校のメンバーのことは、オレが先生にうまいこと言ってやるよ」


 即答だった。ニヤッと口角を上げ、


「俺が、STAR DROPに行ったことないと思うか?」


 ヒデはすでに、モモの存在も、バンドの実態も知っている。

 二人じゃないことを、最初から前提にしている。


「ルールは守るためにある。でも——」


 一拍置く。


「変えるために使うのも、ルールだ」


 その言葉は、生徒会長としての論理だった。


 ------------


 翌日の職員室。


「軽音同好会は校内活動ですが——」


 ヒデは淡々と話す。しかし、その言葉の組み立ては、逃げ道をすべて塞いでいた。


「学校同士の交流で一緒に音楽を作ることは、教育の一環として重要ではありませんか」


 吹奏楽部の合同演奏で、すでに前例がある。


 沈黙。


 教師たちは顔を見合わせる。


「……うむ」


 やがて、生徒指導の渡辺が口を開く。


「わかった。許可しよう」


 形式上の壁が、音もなく崩れた。


 ------------


 文化祭当日。


 体育館の特設ステージ。

 有志バンドが次々と演奏していく。


 楽しそうだが、どこか“文化祭の延長”を出ない音。


 その空気が変わったのは——


「次、プラチナムーン」


 名前が呼ばれた瞬間だった。ざわめきが、一段階低くなる。

 校則ギリギリの、グレーな存在。

 ステージに現れたのは、見慣れた顔と、見慣れない顔。


 ドラム、拓海

 キーボード 結月

 ギターボーカル 南高のモモ

 リードギター 北高のマサ

 ベース 北高のコウ


 “学校の枠”を越えた編成。


 それだけで、空気が違った。


 ――そして。


 一音。


 ギターが鳴った瞬間、ざわめきが消えた。


 音が、“前に出てくる”。


 ただ鳴っているだけじゃない。

 空間を掴んで、引き寄せる。


 ドラムが入る。

 ベースが絡む。

 キーボードが重ねる。

 リードギターが、空気を切り裂く。

 落ち着いた声。


 “音楽”が、完成している。


 文化祭の出し物じゃない。


 “ライブ”だった。


 ------------


 客席。


「……なにこれ」


 クミが呟く。


「軽音の練習と、全然違う……」


 隣でサキが、静かに目を細める。


 ただの技術じゃない。

 音の“意味”が揃っている。


 ------------


 後方。


「……チッ、優等生贔屓とか言ってたけどよ」


 ヤンチャな連中の一人が笑う。


「これはアリだろ」


「つーか普通にカッケェ」


 反発は、熱狂に変わっていた。


 ------------


 ステージ袖。


 渡辺が腕を組む。


 緩みかけた頬を、あえて引き締める。


「……いい音楽だな」


 その言葉は、小さく、しかし確かに認めていた。


 ------------


 演奏が終わる。


 一瞬の静寂。


 そして——


 爆発する拍手。


 ------------


 この文化祭をきっかけに、校則第5条の運用規定——いわゆる“禁止校外活動”の扱いは見直されることになる。


 ------------


 そして、


 ルナは、客席で立ち尽くしていた。

 知っているはずの音なのに、違う。

 遠くまで伸びていく。

 自分の知らない場所まで、届いていく。


 ――すごい。


 そう思う。

 でも。

 小さく息を吐く。


(……追いつく)

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