表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残響のプレリュード  作者: erg
第1部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/82

第1部 第19項

 九月。


 支部大会を目前に控えた、強化合宿。


 場所は、国立公園の中にある青年の家。

 森に囲まれ、携帯の電波も少し弱い。

 音楽と向き合うには、これ以上ない環境だった。


 他校の合宿も重なっているが、施設には大きなホールが二つある。

 練習場所の棲み分けは問題なし。


 ――交流があるとすれば、食堂くらいだ。


 夕方の基礎練習を終え、楽器を片付けて食堂へ向かう。


 長いテーブル。

 違う色のジャージ。

 学校名の刺繍。


 ざわざわとした空気の中で――


「あーっ!拓海!結月!!」


 やけに通る声。

 二人が顔を上げると、トレーを持った女子が、満面の笑みで手を振っていた。

 立花桃花。

 プラチナムーンの、メインボーカル。

 そして――南高校吹奏楽部・トランペット担当。


「……やっぱり来てた!」


 モモは、拓海と結月の前まで来ると、勢いよくトレーを置いた。


「支部前の合宿でしょ?もしかして、って思ってたんだよね」


 拓海は一瞬だけ目を見開いて、それから小さく頷いた。


「南高も?」


「そー!うちも大編成で地区抜けたしたからさ」


 結月は、少し苦笑いする。


「……世界、狭いね」


「音楽やってると、特にね!」


 モモは屈託なく笑う。その様子を、少し後ろでルナが見ていた。


 ――桃花先輩


 拓海たちのバンドで、歌っていた人。

 中学時代の吹奏楽部の先輩。

 ステージの上とは、まるで別人みたいに、無邪気で、明るい。


「一緒に食べよ!」


 半ば強引に、モモは拓海と結月の間に座る。


「え、ちょ……」


 拓海が何か言いかけるが、モモは気にしない。


「合宿中は、吹奏楽モードだからさ。バンドの話は禁止ね?」


 冗談めかして言う。

 結月が、ほんの少しだけ、目を細めた。


「……了解」


 ルナは、少し離れた席に腰を下ろす。

 クミとサキが、ひそひそ声で囁く。


「知り合い?」


「……南高の人。時々先輩たちと一緒にいるところ、見るよ」


 ルナは、何も言わなかった。

 食堂のざわめきの中で、モモの声だけが、やけに明るい。


「ねえ拓海、ティンパニどう? 小編成、きつくない?」


「……大変だけど、やりがいはある」


「でしょ? あんた、昔からそういうの好きだもんね。ファーストトランペットも、プレッシャーえぐいよ」


 二人は、“同じ立場”の話をしている。その輪の中に、ルナはいない。

 でも。

 拓海は、時々、ルナの方をちらりと見る。ほんの一瞬。確認するみたいに。

 モモは気づかないふり。

 結月は、気づいている。


 合宿の夜。


 食堂を出たあと、各校はそれぞれの部屋へ戻る。

 廊下ですれ違いざま、モモがルナに声をかけた。


「ルナ、久しぶり」


 突然のことで、ルナは少し驚く。


「……はい」


「音、きれいだった。 さっきの合奏」


 そう言って、にっと笑う。


「支部、楽しみだね」


 それだけ言って、去っていった。

 残されたルナは、胸の奥が、少しだけざわつく。


 ――また、新しい風。


 でも。

 音楽は、逃げない。

 ホールの奥から、誰かが基礎練の音を出し始める。

 ロングトーン。

 まっすぐで、揺れない音。

 拓海のティンパニの音が、頭の中で、自然と重なった。

 合宿は、まだ始まったばかりだ。

 それぞれの想いを抱えたまま、音は、また一段、深いところへ進んでいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ