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残響のプレリュード  作者: erg
第1部

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18/82

第1部 第14項

 吹奏楽部の練習は、いつも通り厳しかった。

 拓海先輩も、結月先輩も、宣言通り一切、手を抜いていない。軽音同好会を立ち上げたからといって、吹奏楽が疎かになることはない。


「練習で出来ないことは、本番では出来ない」


 それが二人の共通認識だった。

 だから拓海のマレットは迷わない。

 結月のバリトンサックスも、指先まで集中が通っている。

 ルナは、その背中を見ながら、自分の立ち位置を改めて噛みしめていた。

 中学から吹奏楽をやってきた。

 大編成、五十五人。

 今は小編成、二十五人。

 人数は半分以下になったけれど、音楽の重さは、少しも軽くなっていない。

 むしろ一人ひとりの責任は、確実に増している。 

 テナーサックス。

 大編成でも、小編成でも、この楽器はだいたい一人か、せいぜい二人。

 この部では、一人。

 誤魔化しはきかない。埋もれることもない。

 出した音は、そのまま空間に残る。

 ルナは、ゆっくりと楽器を構えた。

 拓海先輩のティンパニが、淡々と、しかし確実に拍を刻む。

 派手じゃない。でも、揺るがない。

 その上に、木管と金管が重なっていく。

 ルナは、息を吸う。

 ただ音程を合わせるんじゃない。

 ただ強弱を守るんじゃない。

 “そこにいる”音を出す。

 拓海先輩のリズムに、寄りかからない。

 でも、背を向けない。

 一音一音、ちゃんと向き合って、真正面から応える。

 テナーの音が、音楽室の空気を少しだけ変える。

 その瞬間、

 ―― 拓海のマレットが、ほんのわずかに、呼吸を合わせた。

 偶然かもしれない。

 意識していないかもしれない。

 でも。

 ルナは確信する。

 届いた。

 言葉じゃない。

 視線でもない。

 音だ。

 これでいい。

 今は、これでいい。

 無理に近づかなくていい。

 無理に関係を変えなくていい。

 同じ曲の中で、同じ時間を作れている。

 それだけで、十分だ。

 曲が終わり、指揮者の手が下りる。


「―今の、良かった」


 その一言が、全体に向けられたものだと分かっていても。

 ルナは、そっと楽器を下ろしながら、胸の奥で小さく息を吐いた。

 音楽は、嘘をつかない。

 だから、心を込めれば

 ―― きっと、拓海先輩にも、届く。

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