63.chapter
「バグが起きたから何だ? 起きてもまだ世界は壊れていないぞ。なら好き勝手にやってみればいいだろう」
好き勝手にやってみろ……?
何それ。
そんなの、できるわけ無いじゃない。
世界は、確かに「まだ」壊れてない。でも、いつ壊れても不思議じゃない。
少年は、そう言っていた。
「何言って……勝手なこと言わないで下さいよ! 貴方に何がわかるんですか? 部外者のくせに、好き勝手言わないで!」
思わず感情的に反論する。すると不審者は――
どこか、淋しそうに、笑った。
「部外者か。――冷たいものだな」
「な、何が冷たいんですか? ほんとのことですよね。あなたは、何にも知らない。犠牲の上に安穏と過ごしてる、無責任なこの世界の住人でしょう!?」
言ってから、俯く。
……違う。
こんなこと、思ってない。
……こんなの。こんなの、私の隣にいてくれる、「脇役」の形で存在している人たちにあんまり失礼だ。
でも。
でも、心のどこかで、そうだと肯定する声があるような気がして。
どうして私だけがこんなにも縛られなければいけないのかと、黒い感情が暴れて。
自分の醜さに、思わず涙が滲んだ。
「……そうだな」
不審者は私の言葉に、あっさりと頷いた。それに私が顔を上げると、不審者は笑みを消し、
「私は、確かにお前と言う犠牲の上で存在しているのだろう。知っている」
「え……」
「そして、私はそれを知っている上で。お前が嫌い、厭う「間違い」を、おまえ自身が犯しているこの状況に、感謝する」
静かな台詞に、私は思わず目を見開いた。
どうして。
世界を壊すかもしれない、私の行動に感謝する? 意味がわからない。
「あ、頭がおかしいんじゃないの?」
「なかなか辛辣だ。だが反論はしないでおいてやろう。私は寛大だからな」
不審者はまた笑う。
「お前が間違いを起こさなければ、私は今ここにいない筈だからな。だから感謝する」
……あぁ、なるほど。
バグキャラクターだからか。
私が間違いを犯さなければ、バグは生まれない。つまりこの男も生まれなかったということ。
だから、自分を存在させている私に感謝していると?
「…………………です」
「ん? なんだなんだ?」
「ッ超、迷惑、ですッ!」
噛み付くように言ってやると、不審者はきょとんと呆けた顔をした。
「何がだ?」
「貴方の言動? こう、イベント前にちらちら出てきて意味のわかんない助言らしきものをしていくのに肝心の意味が全くわからない感じのところとか! 人のことをおちょくっているとしか思えないところとかですかね!! あと訂正、私は心底、貴方が嫌いですからね! ツンデレじゃないですから! っていうかそのポジティブシンキングやめてください! 噂も、イベント成立の為のものですから!! 貴方への好意とか、1ミクロンもッ、ございませんから!! 不審者を好きになるほど頭のネジはイカれていないので!!」
私がそう言うと、不審者は、
「不審者! そうか、貴様にとって私は不審者だったな! ちょうどいい、名前だけ教えておいてやろう!」
いやあの全然聞きたくないんですけど。
「私の名前が知りたいんだろう? いやいやそう遠慮するな! そうだな、私のような男を見れば誰だって名前が知りたくなるだろう!」
貴方のような人間を見たら誰でも通報したくなるかと思います。
「私の名は剣だ。覚えておけ、月華院 泉」
フルネームまじやめろ。
とか私が言う前に、不審者――剣はこちらに背を向けて何処かへ帰り始めた。
騒々しい奴だった……
と溜め息をつこうとしたところで。
「あぁそうだ月華院 泉」
「……なんですか、不審者 剣」
「バグをどうしても消したいというなら。――バグをすべて、全力で拒絶しろ。「私は知らない」と。そうすればバグを起こすことも、「諦める」かもしれん。ではな」
…………え。
その意味を私が問う間もなく、剣は何故か、高笑いをしながら走り去っていった。
……あれを全力で拒絶しろということか? もうしてる筈なんですが…………
「もういいや。訳わかんなくなった。帰って寝よ……」
そうして私は、明日のイベント、部活動交流会に備えてぐっすり寝ることに決めたのだった。




