第一話~再会は突然に~
『聖救世主学園』
どの国にも属さない独立融資組織が運営する、未来の救世主候補生達を育成する教育機関。
<智><信><仁><勇><厳>の教育理念の下、あらゆる技術と最高の英知が集まる場所。
『聖救世主学園』仰々しい名前はけして飾りじゃない。
正式な記録として、創設から現在までの間に2度、学園の卒業生が世界を滅亡の危機から救っていた。
もちろん救世主だけじゃない、次代の英雄、時の権力者、後世に名を残す偉人の多くは皆この学園の卒業生であった。
『 <求めよ、さらば与えられん>
<尋ねよ。さらば見出さん>
<門を叩け、さらば開かれん> 』
能力在る者には等しく機会が与えられる。
集え「聖救世主学園」に己の価値を知りたくば。
集え「聖救世主学園」に己の世界を知りたくば。
集え「聖救世主学園」に己の運命を知りたくば。
―――集え「聖救世主学園」に世界を滅亡の危機から救うために―――
「浄化」
サヤの力ある言葉に応え、半径約30レンクス(30メートル)の泉を囲った魔方陣が一瞬淡く光って消えると、不気味に赤く濁っていた泉が本来の透明な色に戻った。
おお!と外野にいる人達から感嘆の声が上がる。
よし、とりあえずは成功。
「泉の祓いは終わりました。明日の朝もう一度穢れが無いか経過を確認して、大丈夫であれば祭りの準備を再開して下さい」
「ありがとうございます、ありがとうございます、本当に助かりました。ありがとうございます」
刻まれた顔の皺を深くして喜ぶ村長に、サヤも一先ずの仕事の完遂に笑みを浮かべる。
聖救世主学園の生徒であるサヤ・ヒューンは実技演習を兼ねた派遣救世主として今日この地の救済に来ていた。
実技単位とバイトを両立させるために。
「それと一つ注意事項を。泉の周りに布いた陣が安定するまで、半日はかかるので今夜は誰も泉に近づかないで下さいね」
小さな村の年に一度の豊穣際。
今回学園にきた依頼は、祭りの前に起こった泉の濁りを取り除く事。御神体を守る泉の結界の綻びを修復することだった。
「態々こんな田舎までメシア様に来ていただいて・・・」
「いえいえ、これも学園の仕事ですから」
何も世界を救うことばかりが救世主の仕事ではない。土地の浄化や精霊とのコンタクト、希少生物の保護など、実際は地味な作業の繰り返しの方が遥かに多いのだ。(賢者や勇者と呼ばれる本物の救世主が活躍するレベルの世界的危機などそう簡単に転がっていてたまるか)
学園で組み分けされている階級からいえば、サヤのいる位置は所詮近所の便利屋さん的レベルである。有りがたがって拝まれてしまうと居心地が悪かった。
「祭が近いせいで宿が混んでいてな・・・メシア様には悪ぃが、相部屋で頼むわ。二階の西部屋奥だ」
髭面で愛嬌のある顔の宿屋の主人から合鍵を受け取り頷く。
大きくもない村に宿屋は一つしかないらしく、年に一度の豊穣祭を祝うためにやって来た人々や旅人、祭目当ての行商人でパンク寸前だった。
主人の話しによると、去年村の豊穣祭に偶々参加したセントラル在住の女性が、祭りの帰りに買った『魔術鉄道横断宝くじ』で見事に一等賞金1千万ドラクマを当選させたとか。その話が本人の写真付で大陸新聞の二面にデカデカと載り、彼女と同じく御利益にあやかろうとした人々が迂遠からも押しかけているらしい。
(だから村長もあんなに必死だったんだ・・・)
目立った産業や観光名所も無い村としては、新名所の誕生につなげるため今回の祭りをなんとしても成功させたいのだろう。
サヤは何処も大変だなと思いながら、扉を開けた。
「―――・・、貴様ァァーッ!よくも私の前にその顔を出せたな!」
ぱたん。
閉める。
「・・・」
カタ。
開ける。
「―――・・れでも!私は会えて嬉しいのです」
「―――まれ!今直ぐここで殺してやる!」
ぱたん。
閉める。
「ここ<205>号室・・・だよね」
部屋の番号は合っている。というか、合鍵で扉が開くのだから間違いない。
(修羅場中?痴話喧嘩?)
覗き見た狭い部屋の中で、得物を手に火花を散らしながらぶつかり合っていた金と銀。
先程サヤの鼻先を掠めていったのは、間違いなく刃物の光だろう。
「お、お、おおおおお、おやっさーーんっ!」
二階の踊り場にダッシュで戻り、吹き抜けで繋がっている一階に大声で訴える。
「無理!無理無理無理無理だから!部屋の交換を要求します!」
年の近い女の子同士だから大丈夫だよねと、不承不承に了解した相部屋。
全然大丈夫じゃないよ!相部屋(予定)の住人が問答無用で殺し合いをしてるよ!
「悪いな嬢ちゃん!もう部屋は何処も開いてないんだよ。なんならおじさんのベットで一緒に・・」
「変態は死ね!」
親父と同衾するくらいなら、火竜の巣のど真ん中でアイマスク装着で寝る方が百倍もましだ。
屋根付きの部屋を諦めて野宿をするか・・・。
嫌だ。断固拒否。
路銀節約のため、この村に着くまでに散々野宿をしてきた。いい加減に温かい布団の中で眠りたい。
むしろ布団の中で死ぬなら本望だ。
サヤは覚悟を決めると、音を立て無い様に割り当てられた部屋の中に滑り込んだ。
(うわっ、予想通り・・・いや、予想以上に酷い)
焦げた柱。三つある備え付けのベッドの内、二つは半壊。掛け布団に詰められたは綿は飛び出て散乱している。多分サイドボードであった物は原型を留めていない。壁には極端に短い柄の小刀が数本深々と刺さっていた。
「っ~~~、マリアンヌ!いい加減に刀の錆になったらどうだ!」
凛々しい言葉と共に刀と呼ばれる片刃の剣を鋭く振るう銀髪の少女。
「うふふ。カグヤちゃんは相変らず元気いっぱいですね」
踊る様に優雅な動作で刀の刃を神経白刃取りする金髪の少女。
カオスだ。
数多の犠牲を出し、二人の少女達の修羅場は佳境に入っていた。
無事な枕を胸元に手繰り寄せ、こそこそと物陰に隠れて静かに二人の少女を観察する。
今の位置から顔は窺えないものの、確かに声の質は若い。親父の情報通りなら多分私と同じ位の年齢だろう。
刀を振回し、着物という東の国特有の前合わせの民族衣装を着た銀髪少女が<カグヤ>で、体のラインに沿った機能重視な軽装、やたら喋り方が丁寧な金髪少女がどうやら<マリアンヌ>というらしい。
<カグヤ>と<マリアンヌ>
よし覚えた。
二人の過失で怪我を負った場合、きちんと治療費を請求出来る様にしっかり記憶に刻む。
<カグヤ>と<マリアンヌ>
んん?
特別珍しい名前でもないのに、私は妙に引っかかりを覚えた。
<カグヤとマリアンヌ>
二つの名前が揃っていることに意味があったような・・・。
やだなぁ、物忘れをするには若すぎでしょ自分。
<カグヤとマリアンヌ>そして<私>。とってもデジャブを感じるこの光景。
・・・。
あれ?
ひょっとして
「カグヤとマリー?」
呟きはたいして大きな声でもなかったはずなのに、瞬時に少女達が振り返った。
「「サヤ(ちゃん)!?」」
(うわぁ~~)
間違いない。
サヤは教えてもいない名を呼ばれ確信した。
金髪と銀髪の少女改め、美少女二人組は、九年前に分かれた幼馴染『混ぜるな危険』コンビだった。




