第二話~幼馴染の関係は~
横からカグヤ、サヤ、マリアンヌの順で並び、ぶらぶらと祭の準備で忙しい村を散策する。
衝撃の再会の後(自分たちの暴れっぷりを棚上げし)散らかった部屋では、ゆっくり話も出来ないからと、怪しむ親父さんに多めにチップを渡して逃げ・・・ゲフンゲフン、部屋の掃除を頼んで出てきた。
帰る頃には片付け終わって・・・いればいいなぁ。
「えっと、六歳の時に分かれて以来だから、九年ぶりの再会だよね。元気にしてた?」
まあ、あれだけ暴れ回れるのだから十分元気だろうけど、一応。
「ああ。本当に・・・久しぶりだな」
「サヤちゃんもお元気そうで安心しました」
まっ、眩しい。
口元を僅かに上げる仕草が魅力的、シャープで美人系のカグヤ。
ニッコリと、人受けが良い笑顔の可愛い系マリア。
同い年で昔から素材が一級品だった幼馴染達は、誰もが振り返る美少女に成長していた。
「まさかサヤとこんな所で再開するとは思わなかったぞ」
「わたくしも驚きました。まさかこんな村でサヤちゃんに会うなんて」
「あのねぇ、一応<グラナード村>っていう立派な名前がついてるから」
こんな所とか、こんな村とか、大概失礼な子達である。
成長したのは外見ばかりで、中身は唯我独尊のままなのか。
「グラナード?そんな名前だったのか」
「“富める村”って意味らしいけど・・・」
「明らかに名前負けしてますね」
「・・・」
笑顔で毒を吐くマリアンヌは健在だった。
「そ、それでカグヤとマリーは一体何をしにきたの?」
マリーはともかく、村の名前さえ知らなかったカグヤが祭り目当てでグラナードを訪れたとは思えない。
「私は探しものをしている途中でこの村に寄っただけだ」
「わたくしは観光で」
やっぱり。
サヤが思った通り、二人の目的は別々だった。
「それじゃあ、二人共村の中で偶然再会したんだ」
「偶然じゃありません!これはきっと運命の再会です!」
「気色悪いことを言うな!偶然に決まっているだろう!!」
太陽スマイルと渋~い顔。
うん。その反応で大体分かった。宿屋で再会して、即ガチンコバトルになったと。そして私がそのバトル中に合流したと。
「そう言うサヤちゃんは、聖救世主学園のお仕事でこの村に来たのでしょう」
「へ?」
マリアンヌの鋭い指摘に思わず出た間抜け声。
彼女の言い方は疑問系じゃなくて断定だった。
「正式には単位習得と実益を兼ねた実技実習でなんだけど、なんで分かったの?」
「その制服を着ていればわかる」
眉を寄せ、カグヤがサヤの着ている制服の紋章を一瞥した。
成る程。そういえば着替えていなかったっけ。
「勿論紋章も有名ですけど、聖救世主学園の制服はデザインが可愛いことでも有名ですから」
「優れているのはデザインだけじゃないけどね」
サヤが現在着ている制服は、学園が生徒に着用を義務付けている最もスタンダードな型だ。
マリアンヌが言うように、深いオリーブグリーン色を基調とした制服は、デザインクオリティーの高さから世代を問わず幅広く評価され、一般の人達の認知度が非常に高い。
が、見た目が可愛いだけで終わらないのが聖救世主学園らしいところで。
使われている素材は対衝撃、対魔法、耐久性等に優れた一級品。
救世主候補生達には備品として普通に学園から支給されるが、同じ性能のローブを買おうと思えば、田舎に家付きの土地が買えてしまうくらいの大金を積まないと手に入らないほど高価な服として、冒険者の間では有名だった。
「似合っていますよ」
「そうかな、私が着るには可愛すぎやしない?」
褒められるのは嬉しいけれど、平凡な私が着るよりマリアンヌの方が絶対に似合うと思う。
「カグヤちゃんもそう思いますよね」
「貴様は私に話かけるな」
マリアンヌが笑顔でふった話題を、真顔でばさりとカグヤが切って捨てる。
「うぅ、カグヤちゃんが冷たい。わたくしだって、カグヤちゃんやサヤちゃんと仲良くお話しがしたいのに」
「はっ。誰が貴様と仲良くなどするか」
カグヤ>>>>>>>>>>>>>>>マリアンヌ。
相変わらず二人の温度差も健在だった。
「た、大変です、サヤちゃん!カグヤちゃんはツンデレのはずなのに、デレの要素が欠片も見当たりません。カグヤちゃんのデレは一体何処に!?」
突然大人しく隣を歩いていたはずのマリアンヌに左腕を掴まれ、がくがくと揺さぶられる。
「うわっ!ちょっ、ま、マリー、引っ張らないで、離れて・・・歩きにくいから!」
豊かに育ちまくった胸をぎゅうぎゅうと押し付けてくるのは私への挑戦か!?
ちくしょう!受けて立つぞ、女の胸は大きさじゃない、形だ!
「貴様!サヤから離れろ!下品な胸をサヤに押し付けるなっ!」
「いっ!」
今度は右腕をカグヤに力いっぱい引っ張られる。
あ、カグヤはペッタンコだ。
「嫌です。カグヤちゃんがわたくしに優しくしてくれるなら離れます」
「虫唾が走る!」
「痛たたた!千切れるから!左右から引っ張らないで!腕千切れちゃうからっ!」
肩の骨がミシミシと鳴る音が・・・!
「サヤが痛がっているだろう、とっとと離したらどうだ」
「代わりにカグヤちゃんに抱きついてもいいなら直ぐに離れますが」
「死ね!」
サヤの腕が千切れる前に、カグヤの我慢に限界がきた。
「貴様を切り捨てサヤを開放する」
カグヤが素早く刀の柄に手をかけた。
て、冗談でしょう!?
「ストップ!ストーップ!!宿を出る時約束したよね!喧嘩は無し。やるなら私の居ない所でやってって」
「安心しろサヤ。一瞬でこの女を始末する」
「安心出来るか!」
「助けてサヤちゃん」
「マリーは私を盾にすんな!」
サヤの我慢の限界もここまでだった。
「いい加減にしなさいっ!!」
ゴン。ゴン。
と、二度鈍い音が平和なグラナードの村に響きわたった。
「まったく、小さい頃から全然変わってないんだから・・・」
九年たっても、少しも変わっていない幼馴染達に喜べばいいのか、悲しめばいいのか・・・。
サヤはブツブツと呟きながら、広場の屋台で売られていた饅頭片手に一人散歩の続きをする。
ちなみにカグヤとマリアンヌは拳骨をお見舞いした後、正座を言いつけ道の端に放置してきた。
サヤは理由を知らないが、昔からカグヤはマリアンヌを毛嫌いしていた。
逆にマリアンヌはカグヤが大好きで、嫌がるカグヤの後を追いかけ回していたのだが、それが益々カグヤのマリアンヌ嫌いに拍車をかけていると、どうして本人は気が付かないのか。
「カグヤはパーソナルスペースが目茶苦茶狭いんだから、マリーも必要以上に構わなければいいのに」
振り返り、誰も居ない空間を睨みつければ「ばれていましたか」と、ひょっこり建物の影から顔を出すマリアンヌ。
「正座はどうしたの?」
「後でまとめてします」
この要領差も不仲の原因の一つかも・・・。
「あ、カグヤちゃんはきちんと正座してますよ」
「知ってる。カグヤは根が真面目だから」
「ん~、それは違うと思います」
「?」
「カグヤちゃんは確かに真面目ですが、無駄が嫌いです。誰も見ていないのに真面目に正座を続けるのは、それがサヤちゃんの云い付けだからですよ」
「・・・」
「サヤちゃんの言葉は、昔からカグヤちゃんの絶対だから」
「・・・・・・本当に二人共九年前から全然変わってないね」
徹底的にマリアンヌを嫌うカグヤは、何故か始めからサヤの事を認めていた。
何か問題を起こした時、周りの大人達がいくら諌めても全く話しを聞こうとしなかったカグヤが、何故がサヤの一言で大人しくなる。
まるで神の啓示の様に。
「たった九年じゃ何も変わりませんよ」
「私達三人が一緒に過ごした時間よりずっと長いけど」
「ふふっ」
「何かおかしなこと言った?」
くすくすと急に笑いだしたマリアンヌに訝しむ。
「いいえ。ただ、サヤちゃんも何も変わっていないと思いまして」
「・・・・・・」
安心しましたと笑うマリアンヌ。
カグヤと一緒じゃない時のマリアンヌはどうも苦手だ。キャラが違いすぎる。
「前から聞こうと思ってたんだけど、マリーって私のこと嫌いなの?」
「何故?わたくしがサヤちゃんを嫌う理由なんてないですよ」
「でも好きでもない?」
「惜しい。不正解です」
「じゃあ正解は?」
「正解は・・・・・・時間切れですね」
マリアンヌがサヤの背後を指差す。振り返ると奥の方から殺気交じりに土埃を上げて走って来る人影が一つ見えた。多分カグヤだろう。
「残念」
カグヤと合流したらまた幼馴染のマリアンヌに戻るのだろう。
「残念ですか?本当に?」
隣に並んだマリアンヌが未だ黒い点にしか見えない人影を、眩しい光でも見るかのように見つめる。
「うん。残念」
「サヤちゃんはカグヤちゃんと違って、嘘吐きですね」
「そうだよ。マリーと同じで嘘吐きなの」
本当はホッとしたなんて言わない。
自分でマリアンヌの中に踏み込んでおいて、尻込みしたなんて絶対に教えない。




