第76話 後悔の前に
「やったな! 美空!」
「うん。ありがとう。雄太のおかげ!」
試合時間はそんなに長くなかったのに、とてつもなく長く感じた。
準決勝。
ダブルネクサスのタレントデッキに、雄太の主力を先出しされて集中攻撃。
あわや敗北という局面だったから、逆転して勝利するまで本当にヒヤヒヤした。
「いいや。違う」
「え? 何が違うの」
私の言葉に、雄太は首を横に振る。
「今回、勝ちを拾えたのは全部、お前のおかげだ」
「そんなことはないよ。最後に雄太が一色さんを場に出してくれたからだもの」
「美空が信じて、チャンスを作ってくれたから。『マッシドアロー』で一色のパワーを剥いでくれたからだ」
「ううん。あんな局面になる前に使えば、雄太のダメージを増やさずに済んだかもしれないのに」
前の段階で犯した、明確なプレイングミスを思い返すと寒気がする。
もし、雄太に向けられた横取りコンタクトを阻止できていれば、もっと早くに場を立て直せたかもしれないのに。
「れば、とか、たら、はやめようぜ。言ってもどうしようもないことだ。俺達は、全力を尽くした。そして勝てた。それでいい」
「うん。改めて、ありがとう」
「礼を言うのはまだ早い。次はいよいよ決勝。師匠達のペアとの戦いなんだからな」
「そうだね。本気のお二人に勝たないといけないんだもんね」
危なげなくAブロックを勝ち上がってきたお二人。
どんなデッキで来るのだろう。
実は、お二人がパートナーの入ったデッキ以外を使っているところを、私は見たことがない。
ダブルス用に調整しているのか?
それとも、普通にいつものデッキで戦っているのか?
「……美空。ちょっと頼みがあるんだ」
「頼み? 何?」
「俺、決勝戦用にちょっとデッキを変えようかと思ってる」
「デッキを?」
『アナザーワールド』の大会では、途中でのデッキ変更が認められている。
初戦の相手や周囲の動向を見て、メタを読み、それに合ったデッキに変更しても大丈夫なのだ。
レギュレーションさえ守っていれば、極端な話、毎試合デッキを変えても構わない。
今回はダブルス。
自分がデッキを変えると、パートナーとの噛み合いが悪くなる可能性もあるから、そんなにひょいひょい変える人は多くなさそうだけど。
「美空はいつも通りでかまわない。ただ、チャンスがあればでいいから、今回みたいに『マッシドアロー』や攻撃で敵の主力のパワーがゼロになるチャンスを作ってみてくれないか」
雄太の意図はよく分からない。
でも。
「分かった。できる限りやってみるね」
相手は店長さんとマヤヤさん。
得意色は青と緑。
どちらもパワーカードコントロールのプロフェッショナル。
というか、鬼だ。
そんな隙を簡単にくれるとは思わないけれど、でも、チャンスは逃さないようにしようと思う。
(『そういうことであるのなら、美空様、少しお話があるのですが』)
(「何?」)
デッキの中から、言葉ではない声がする。
多分、オクルス君だ。
言葉に出して答えると不審者扱いされてしまうので、心の中で返事をする。
フォルティオスと同じなら、これで通じると思う。
(『私は今回、少し沈みます。私が場に立つと相手は、キャラクターのパワーをゼロにすることに警戒を高めるでしょうから』)
(「あ、そうか」)
オクルス君は、パワーのないキャラクターに対して圧倒的な力を持つ。
彼とまともに戦うためには、キャラクターに二枚のパワーをつけておかないといけない。
そうなると、念のため多めにパワーを与えておこう、なんて考えになるかもしれない。
(「でも、出てくることだけじゃなくって、出てこないこともできるの?」)
(『出現の可能性を低くする、程度ですが』)
それは結構便利かも。
オクルス君はこのデッキに五枚入っている。
下段三枚と上段二枚。
それが出にくくなるということは、他のカード、スペルなどにアクセスできる可能性が高まるということだから。
少しズルいかもしれないけれど、お二人もそれぞれパートナーカードを持っているし、呼び出しの『力』も使っているはずだ。
この決勝戦については、チートと言われようが、使えるものは全て使って勝利を目指すと決めた。
(『氷雪公も今回は抜いておいてもいいかもね。代わりにさっきのスペルや、次元ラビリンスなどを増やしてみたらどうだい』)
(『必要になったらお呼び下さい。可能な限りは参ります』)
(「ありがとう! フォルティオス。ありがとう。オクルス君」)
二人にアドバイスをもらい、私は休憩時間の間に、なんとかデッキ調整を終えた。
私達の様子を見ていたのだろうか。
「おや、この期に及んでデッキ調整かい?」
「付け焼き刃~とか、泥縄~ってあんまり良くないよ。後で変えなきゃ良かったってのもあるあるだし」
店長さんとマヤヤさんが諫めるように笑うけど。
私は、真っ直ぐお二人に視線を合わせた。
せめて気持ちだけでも、主導権を取られないように。
「今は、自分のできることを全部やる。それだけです。後悔はそれこそ後でいいんで」
「俺も……ここまで来たんです。
もう、権利獲得は決まりでも、手は抜きたくありません。絶対に、二人で勝ちます」
私の後ろを支えるように。
ううん。しっかりと支えて、雄太も言ってくれた。
この最高の舞台で、師匠二人との対決。
私達にとって絶対に逃げられない、逃げてはいけないバトルだ。
「……結構。それでこそ、叩きのめしがいがある、というものだ」
「マヤヤも負けないぞ~。トップテンのホンキ。見せちゃうからね!」
気が付けば、周囲には結構なギャラリーが集まっている。
卓の周辺にはスタッフさんが設置したバリケードがあるから、直接カードの動きは見えないけれど、なんだか撮影スタッフも入っていて、決勝戦は近くのモニターに映し出されるようだ。
後で配信もされるかも。
ネコちゃんもきっと見てる。
恥ずかしい戦いはできない。
「行こう。美空」
「うん」
そうして、私達は肩を並べ、お二人の待つ決戦の舞台へと歩を進める。
自分を、相手を。
そして、カードを信じて。




