第75話 ダブルストーナメント準決勝
ダブルストーナメント準決勝。
対戦相手の男性が試合前、雄太に軽く会釈するのが見えた。
雄太も同じように挨拶を返している。
「雄太。知り合い?」
ちょっと気になって聞いてみた。
「知り合いっていうか、本選出場常連って奴だ」
「本選出場常連……」
「予選を通過する実力はある。でもトップには手が届かない。何年もそんな位置にいる同士、顔と戦い方くらいは覚えるようになる」
カードをシャッフルする動きも手慣れている。
女性の方も見るからに手際が良く、今日、昨日始めたというわけでもなさそうだ。
私は女性プレイヤーってマヤヤさんくらいしか知らなかったけど、今度、レディーストーナメントがあるというし、『アナザーワールド』を楽しんでいる女性とは仲良くなりたいものだと思う。
女性プレイヤーさんと仲良くなるなら、今日みたいな機会が絶好なのだろうけれど、勝てば嬉しい反面、負ければ悔しい。
だから、大会中は難しいかなと思う。
何組もの人達から勝利をもぎ取ってきたのだから。
でも、私達が勝ち上がってきた分、敗れた人達がいる。
だからこそ、彼ら、彼女達の分も、まずは全力を尽くさないと。
互いにデッキを交換してシャッフルし、試合開始。
相手の男性が先攻を取った。
相手1→味方1→相手2→味方2の順番でターンが進んでいくので、次が私。それから相手の女性、最後が雄太になる。
雄太が顔を微かに歪めたのが分かった。
とにかく早く場を展開するのがタレントデッキの本領。
一ターンの遅れが命取りになりかねないからだ。
そして、その心配は現実のものとなる。
一ターン目は全員がキャラクターを仲間にして終了。
二ターン目はそれぞれキャラクターを軽いカードでコンタクトしたりして、補給線を強める形になった。
「まずいな」
隣に座る雄太が唇を噛み締めたのが分かった。
理由も当然理解している。
だって、相手の二人の場に現れたキャラクターは、どちらもタレントアイコンを持つ白のキャラクター。
ネクサス主流のデッキだからだ。
つまりは初戦と同じで白単の……。
私は二ターン目、手札に来てくれていたフォルティオスを場に出した。
集まってきた観客も、対戦相手も驚いている。
私はフォルティオスに補給用のパワーを集める。
一度仲間になったキャラクターには、パワーを控えめに。
今回は男性でほぼアイコンを揃えたし、相手が白のタレントデッキなら、彼らを横取りできるキャラクターはほぼいないはず。
相手の女性もキャラクターを増やし、雄太も軽いキャラクターをコンタクトして場のキャラクター数を増やしていく。
ただ、雄太は相手と属性が丸被りしているので、キャラクターを放置できない。
補給線用のドローキャラクターに『IPフォン』を装備した後、パワーを可能な限り味方のキャラクターに与えて終了した。
全員の手番が二回りし、三ターン目。
相手男性のターン。
「コンタクト! 一色澄香!」
「!」
「コンタクトしていないキャラクターのパワーは、全て捨て札になります」
相手に雄太の主力キャラクターを先出しされた。
本来なら三ファクターの仲間と三コストが必要な一色澄香。
でも、同じアイコンならコストゼロでコンタクトできるキャラクターがいる。
白のネクサスは特に多いと聞く。
相手はそれを利用して、三ターン目に主力を出してきたのだ。
同じキャラクターは一つの場に一人しか出せないという『アナザーワールド』のルール上、雄太は横取りをしない限り、同じキャラクターを場に出せない。
しかも、今まで使ってきた通り、こちらのコンタクトしていないキャラクターのパワーカードが全て捨て札にされる。
私はフォルティオスにパワーを集中させていたので、被害はそこまでない。
けれど、雄太の場はパワーカード五枚のうち、四枚が持っていかれる形になる。
「『IPフォン』の能力を使用して、コンタクトキャラクターにカードを移します」
多分、万が一の事態も想定していたのだろう。
雄太は失われるはずだった四枚のうち、二枚のパワーカードをコンタクトキャラクターに移した。
パワーカードは三枚残ったけれど、他のキャラクターのパワーはなくなり、身動きが取れなくなった形だ。
そこに追い打ちをかけるように、雄太に対して攻撃が宣言される。
「貴方に対してアタック宣言します」
ダブルスでは、誰にアタックするかも決められる。
フォルティオスを擁する私は、返り討ちに遭うと見たのだろう。
一色さんの攻撃が雄太に向けられた。
雄太はそれを自身で受ける。
数枚のカードがダメージに落ちた。
三ターン目の主力降臨はかなり急いだと見えて、補給線はまだ整いきっていない。
メインの一色さんにパワーを一枚残し、補給線用のキャラクターを増やして、男性はターンを終えた。
次は私のターン。
手札にはオクルス君が来てくれた。
一段目の堕天使と、二段目のモノウイング、両方。
なので
「勢力エリアのキャラクターを堕天使 オクルスでコンタクト。さらに上段に成長させます」
「!」
一気に上段まで完成させる。
これでこちらの場は盤石。
ただ、その分、余計に雄太へ集中攻撃が向かってしまう可能性が高くなる。
だから、少しでもパワーを減らしたい。
「アタック宣言します」
私はパワーが許す二回分、男性にアタック宣言した。
その二回を、男性はどちらもキャラクターガードで止める。
この時点で四つの場のキャラクターを参照したフォルティオスの攻撃力は、二〇〇〇を超えている。
本体に通せば大ダメージを食らうだろうから、当然だ。
後はスペルカード一枚だけを残し、フォルティオスとオクルス君にパワーを全差しして終了した。
次に私のターンが来れば、多分、倒しきれる。
でも、それを相手が許してくれるだろうか?
祈るような思いで、私は状況を見守る。
相手の女性のターン。
女性は雄太の場を見て、
「貴方のドローキャラクターを、こちらの千堂里美でコンタクトします」
「くっ!」
静かに、雄太にとってはほぼ死亡宣告にも等しい一言を放った。
『タイムジャンパー 千堂里美』は、雄太のデッキにも入っているタレントデッキの主力。
場に出た瞬間、支払ったコンタクトコストをパワーにできるという、チートな力を持っている。
つまり、場に出た瞬間から攻撃できるのだ。
しかも雄太は、主力の二人を先に相手に出され、あと一人残っている切り札以外のネームキャラクターを場に出せなくなった。
「アタック宣言します」
今回も狙われたのは雄太。
三回分の攻撃を、雄太は黙って本体で受けた。
ダメージは増え、デッキは削られる。
今回は二人合わせて十五ダメージを受けたら敗北だけれど、もう十一だ。
私もアグレッシブ回しで一ダメージを受けているから、次に大きな攻撃を受けたら死亡待ったなし。
私は、一枚残ったカードに力を込める。
『自分を信じて、相手を信じて。そしてカードを信じて頑張ってください』
ネコちゃんの励ましが、力をくれる。
「ターン終了します」
「その終了にレスポンスして、ファストスペルを使用します。『マッシドアロー!』 ……一色澄香のパワーカードを一枚捨て札にします」
「!」
手札はゼロになってしまうけれど、今、このタイミングで使うしかないと思った。
タッチ色を青に変更した最大の理由は、パワーカードコントロールの即効性が高い、このカードを使うため。
相手のパワーを問答無用で一枚減らせるこのカードは、相手のコンタクト時に使用することで、コンタクトを失敗させることもできる。
そうだ。
千堂里美がコンタクトしようとした雄太のキャラクターに『マッシドアロー』を使えばよかったんだ。
パワーを支払えなくなったキャラクターは捨て札になる。そうすれば、コンタクトそのものを防げた。
味方のキャラクターを自分の手で捨て札にする。
そんな発想、私にはなかったから思いつかなかった。
私のプレイングミス。
でも、もう後悔している場合じゃない。
今は、このタイミングしかない。
次のターンに受ける雄太への集中攻撃を減らし、最後の希望を繋げるためには。
ここしかない!
「マッシドアローの使用にレスポンス。『空間歪曲』で対象キャラクターを別のキャラクターに変更します!」
「『魔切り術』で空間歪曲を捨て札」
「! ……ありません」
女性が一色澄香を守ろうとしてスペルを打ってきたけど、雄太は手札に握っていたカウンタースペルで打ち消してくれた。
これで私のスペルの効果は発揮されて、一色澄香のパワーはゼロに。
そして、雄太のターンに移る。
一枚、二枚、三枚。
ドローを終えた雄太は、静かに、でも確かな勝利の笑みを浮かべ、呟いた。
「ありがとな。美空」
「雄太?」
「横取りコンタクト! 相手の場の一色澄香を、こちらの一色澄香に!」
やった!
良かった。持っていてくれた。
雄太の手札に一色澄香があれば、彼が守ったパワーとキャラクターで横取りできると思ったのだ。
一色さんの再出現で、相手の場の未コンタクトキャラクターのパワーカードは綺麗に吹き飛んだ。
残っているのは、女性の場にいる千堂里美の二枚だけ。
さらに雄太の反撃は続く。
「そちらのドローキャラを、こちらのアイドルメイドでコンタクト!」
男性の補給線用のドローキャラクターを、0コストのチャージコンタクトカードで奪い取り、こちらの場に味方が増える。
逆に男性の場には、もうパワーカードもキャラクターもほとんど残っていない。
今回の二人のデッキは、『一色澄香』をとにかく先に出すことに特化していたようだ。
どちらのデッキにも『一色澄香』を限界まで入れて、とにかくどちらかが先に出す白単を洗練させたもの。
だから。
相手に先に出される、もしくは取られてしまうと、打つ手がほぼなくなってしまう。
「後は、頼んだぞ」
「うん」
場に出せたキャラクターを奪い返されないように、守りとパワーを固めた雄太は、ターンを相手に回す。
ドローキャラクター一枚、パワーゼロの相手男性は、ほぼ何もできずにターン終了。
ここで勝負は決まった。
「フォルティオス。アタック宣言!」
私は女性に集中攻撃を開始する。
千堂里美さんは、出現したターンに素早く攻撃を繰り出せるのが売り。
全体的な戦闘力はそこまで強くないし、今のフォルティオスなら上から踏み潰せる。
「ほ、本体で受けます」
二回の攻撃で、あっという間に本体のダメージは十を超えた。
そして、
「モノウイングもアタックです!」
こちらは男性の方に向けて攻撃した。
相手のパワーはゼロ。
パワーゼロのキャラクターとのバトルダメージを受けず、ガードもされないオクルス君は止められない。
こちらも二回の攻撃でダメージが八を超え、私達の勝利が確定した。
「勝者! 『スターダスト』!」
「やったね! 雄太!」
「ああ。助かったぜ。美空!」
しょんぼりと俯くお二人には申し訳ないけれど、私達は両手を叩き合わせた。
準決勝突破。
決勝戦進出だ!
顔を上げた私達の視線の先。
「勝者! 『美女と教授』!」
隣の卓では、同じように勝利を決めたらしいお二人が、こちらを見つめていた。
嬉しそうな笑みを浮かべながら。




