第73話 ダブルストーナメント開始!
デートの翌日は決戦の日。
自分で鏡に向かってお化粧をして、ルージュを引く。
まだお化粧には慣れないけれど、今日はマヤヤさんには頼れない。
自分の力でやらないと。
きゅっと引き締まった赤い色が、私に勇気を与えてくれる気がする。
ドレスはマヤヤさんからもらったワンピース。
立ち上がり、もう一度鏡の中の自分を確かめてから、私はデッキをバッグに入れた。
「行こう。フォルティオス」
「ああ」
今日のフォルティオスは人型で同行せず、カードに戻っている。
でも、側にいてくれているのは解るので、不安はない。
『今日は、僕は普通に君を助けていいかい?』
「うん。チートとか、ズルとかは今日は言ってられない。雄太の為にもなんとしても資格を取りたいの」
『あくまで僕が君の所に行けるだけだから、そんなにズルではないよ。
僕が出ても負けるときは負ける。最終的な戦術、戦略を駆使して勝敗を決めるのは君達だからね』
「ありがとう」
家を出ると、雄太はもう外で待っていてくれた。
「美空。今日はよろしくな」
「うん。こちらこそ!」
差し出された拳に、私も拳を合わせて気合を入れる。
二回目の公式戦。初めてのダブルス。
緊張で心臓がバクバクいっていた。
「無理はしなくていい。フォルティオスのことは俺が守るから。
お前は自分のするべきことをやってくれればいい」
デッキ調整と検討を繰り返し、最終的に私はエーヘルシトとソルシアの黄色&青デッキ。そして雄太は白と赤のタレントデッキになった。
私自身のデッキから天華の守りのカードがなくなったのは少し不安があるけれど、パートナーを信じるのがダブルスだ。
「解った。頼りにしているね」
今日は店長さんとマヤヤさんとは敵同士なので、別行動。
私と雄太の二人で大会会場に向かった。
今回のトーナメントも会場はサンシャイン。大きなゲームイベントの中で開催される。
Wトーナメントは当日登録型なので、待機列に並び、ちゃんと順番を守って入場した。
買い物やイベントは後回しにして、まずは参加登録。
会場にはもうそれなりな数の参加者が集まっていた。
でも、この間の秋トーナメントに比べると一段少ない。
ペアであることを考慮しても百人はいない印象だ。五十人強って感じ?
男女混合ダブルスが規定だから。そして、女性のカードゲームプレイヤーはそこまで多くないから、仕方のないところではあるのだろうけれど。
『チャンピオンカーニバル』への最短距離の一つ、女性プレイヤーを捕まえられれば、と揶揄されるのが良く解る。
その時、会場が小さく、でも確かに騒めいた。
「あ、店長さんとマヤヤさん」
見れば、お二人が登録手続きをしている。
周囲の人達の嘆息が明らかに大きくなり、その数を増した。
日本のトッププレイヤー二人のタッグ。
しかも十年来の付き合いで、互いのパターンを熟知している。
ネットでも、
『大人げねえ』『一般人殺し』『優勝はもう決まり』
と、下馬評、堂々のトップだ。
私達を見つけたらしいマヤヤさんは「やっほー」と、いつもと変わらない笑顔で手を振ってくれる。
けれど、雄太の目は余裕の笑みを浮かべる店長さんしか見ていない感じ。
「店長が相手だろうと、負けねえ。
絶対にここで、獲る!」
「雄太……」
雄太はかなり肩に力が入っているように見えた。
確かに、世界大会への出場資格を得る絶好のチャンスではあるだろうけれど、勝ちたいと思っているのはみんな同じだ。
何か声をかけてあげたいな、とは思うのだけれど。
う~ん。難しい。
私がどうしようかと考えていると。
「お・姉・様!」
ぴょこん、と私の胸元に柔らかい感触が飛び込んできた。
「ネコちゃん!」
「昨日はありがとうございました。対戦前ですけど応援したいのでちょっと来ちゃいました。……なんか、皆さんピリピリしてますねえ~」
「試合前だからねえ」
「世界大会への切符がかかってるんでしたっけ?」
「うん。世界大会への最短距離だって」
「みたいですね。入場してからも何人かに一緒に出ないか、って声をかけられました。
そんな付け焼刃で上に行けるとは思えないんですけど」
「私もそう思う」
女性の中にも真剣に『アナザーワールド』に向き合っている人は少なくないし、雄太みたいにここで世界大会を狙いたいって思っている人もいるだろう。
今も眉を寄せて参加者を睨みつけている雄太に、ネコちゃんはトコトコと近づいていく。
「雄太さん」
「……なんだよ」
「ちょっと、口開けてもらえませんか?」
「はあっ?」
ぽいっ!
ネコちゃんの促しに従った訳ではないだろうけれど、意味が解らずポカンと開いた雄太の口に、ネコちゃんは背伸びして何かを放り込んだ。
「! 飴?」
「はい。そうです。飴ちゃんです。それ食べて、少し肩の力抜くといいと思います。
なんだか、今の雄太さん、とっても怖い顔してますから」
「あ……そう、か?」
「はい。試合前で硬くなるのは解りますけど、今回はダブルスなんですから自分一人で! って考えて思いつめすぎるのは良くないです」
「…………」
「お姉様を信じて、カードを信じて、自分を信じて、頑張って下さい。
応援してますから!」
「ああ、ありがとな」
「いえいえ」
口の中でころころと飴ちゃんを転がす雄太は、さっきまでとは明らかに違う顔をしている。
眉間の皺も消え、少しだけ表情が柔らかくなったみたい。
凄いなあ。ネコちゃん。
相手の心に寄り添う手腕の見事さは、やっぱり創作とかしているからなのかな?
「あと、お姉様にも渡したいものがあって」
「渡したいもの?」
「はい。これ。お貸しします。良ければデッキに混ぜて下さい」
差し出されたのは、一枚のカードだった。
VFの『モノウイング オクルス』
「これって、パートナーカードじゃない?」
「カードとしては普通のVFだからルール上は問題ないって、店長さんが言ってました。
自分のパートナーカードを他人に貸す人はあんまりいないとも言ってましたけど、オクルス君とフォルティオスなら、喧嘩もしないですよね」
「でも……」
「私やオクルス君もお姉様たちのお手伝いしたいな。
そういう気持ちなので気にしないで下さい。デッキに入れたからって何ができるわけでもないですけど、お姉様も、フォルティオスも一人で戦ってるんじゃないって思ってもらえれば心強いかな、って」
「ありがとう」
ネコちゃんの優しさに、私は心から感謝してカードを受け取った。
「このお礼は後で絶対にするからね」
「いえいえ。お礼は優勝でいいですから」
「何気にハードル上げてない?」
「お姉様達なら大丈夫ですって。実力をちゃんと発揮できればフォルティオスもいるし負けっこないですよ」
「うん。頑張るね」
スリーブを入れ替え、デッキにオクルス君を入れると、なんだかいつもよりカードが暖かく感じる。
フォルティオスとオクルス君が笑い合っているみたいだ。
「間もなく受付終了。試合を開始します」
「ほら、時間ですって。行ってらっしゃい。
応援してますから!」
「ありがとう。行ってきます!」
私は雄太と並んで会場に向かう。
ネコちゃんは、私達の姿が見えなくなるまで手を振ってくれていた。
「ホントにいい子だな。あいつ」
「うん。見習わなきゃ。そして、思いと期待にも応えなくっちゃね」
「ああ。頑張ろうな」
会場には既にダブルストーナメントの組み合わせ表が大きく張り出されている。
今回もトーナメント方式。
一度負けたらそれで終わりの勝ち上がり型だ。
ダブルストーナメントはチーム名をつけて参加するのが決まりだった。
私達の『スターダスト』はBブロック。
思わず探してしまったマヤヤさんと店長さんの『美女と教授』は……。
良かった。Aブロックだ。
決勝戦まで当たらない。
席に着き、対戦相手と向かい合う。
私の前に男性、雄太の前に女性。
男女交互に手番を繰り返していく。
「ダブルストーナメント 第一回戦 レディー、ファイト!」
「よろしくお願いします」
私達の運命を大きく変える『世界大会』
その第一歩となる試合が、今、始まろうとしていた。




