第69話 楽しいWデート 後編
土曜日の昼だから、映画館は結構混んでいた。
「四人並んで座れる席、残っててよかったね」
食事待ちの間に開始時間を確かめて席を予約した。後方寄りの真ん中ブロック、通路際。
人の多さもだけど、二人は壁を埋め尽くす巨大スクリーンに驚いていたようだ。
「凄い大きさだね。プラネタリウムで全天に星を映し出していたのもびっくりしたけど、こっちもまた凄い」
「映像を映し出す為の部屋なのに、こんなに広いことにも驚かされますね。城の大広間よりも広いのでは?」
テレビや映画などの娯楽映像そのものは『アース』にもまったくない、というわけではないそうだ。
アニメもドラマもある。声優さんやアイドルがいるわけだしね。
ほぼネクサスの専売らしいけれど。
「一種の戦時下だから、技術力がそちらの方に取られがちなのかもしれない。ある種の技術に関しては、こちらより上と思われるものもあるよ。
戦闘兵器とか、格闘ロボットとかも。
クローンやサイボーグ技術も実用化されているし」
異世界だからといって、こちらが全て上というわけではなさそうだ。
二人は帝国出身だし、最近フォルティオスはネットサーフィンしてこちらの情報を色々と集めているようだから、特に差が大きく感じられるのだろう。
そういえば、まだネクサスの人とは出会ったことがない。会って話をしてみたいな。
「じゃあ、二人は映画を見るのは初めて?」
「うん。初めてだ」
「僕は最初の時以外、帝国から出たこともないですので」
とのこと。楽しんでもらえるといいな。
何を見せるかはネコちゃんと話し合って、鬱展開の少ないアニメにすることにした。
丁度、忍者の学校を舞台にした話があったから、それに。かなり評判がいいのだ。
ポップコーンとジュースを買って席に着くと、パンフレットをめくりながら、感心したようにフォルティオスが声を上げる。
「へえ。こちらの世界にも『忍者』がいるんだね」
「天華にも『忍者』がいるの?」
「いるよ。でも、あんまり表には出てこない。
鈴音達の護衛でちょっと会っただけかな?」
「護衛。なるほど。忍者だもんね」
「表に出ずに、裏から動くのが基本。技術を学校で教えるという発想はあまりないな」
「こっちの世界でも本当の忍者は多分、そんな感じだと思う。
これは架空の、楽しむ為の物語だから」
「システムとして完成されれば、むしろ忍者の学校というのは有益だと思うけれど」
フォルティオスは政務にも関わっているから、本気で色々と考え始めたみたいだ。
真面目だなあ。
「あ。始まるよ。
上映中の私語は基本控えて。どうしてもの時は小声でね」
「解った」
実際に見てみると、男性戦士二人にもかなり楽しかったようだ。
基本はギャグ漫画だけど、細かいところでリアルな戦闘が描かれているので、思うところ、感じるところが多いらしい。
「学校の先生もだけれど、敵の長の身のこなしが凄いな」
「年が下の子どもを、教師や年長者が常に守ろうとしているのが素晴らしいですね」
所々で吐息のように零れる言葉に、二人の感動が伝わってきて嬉しかった。
一時間半の上映は、あっという間に終わってしまう。
「どうだった? 初めての映画は」
思わず気になって聞いてみてしまう。
二人の輝く目や表情から、楽しんでくれたことは分かっているけれど。
「凄く、面白かった。絵がまるで生きているかのように動いていることもだけど、背景も描きこまれていたし、何より戦闘がリアルだった。あの話を描いた人は『戦争』をよく知って、問題を提示していると感じたよ」
「所々に冗談のように笑える描写が差し込まれ、でも全体では真剣な戦闘もの。
能力者が圧倒的な力で場を支配するのではなく、子ども達が工夫や努力で劣勢を覆していく姿に感動しました」
私とネコちゃんもにっこり。
自分が好きな作品を、勧めた相手が楽しんでくれるのはとても嬉しいことだ。
「このような良質の作品を、大人だけでなく、子どもも含めて誰もが見られるというのは、信じられません」
「本当に。こちらの世界における『人を楽しませる』技術と熱意には驚かされるよね」
でも、やっぱり異世界人の目線なのだなあと感じる。
二人とも本当に、真面目、だよね。
「これからどうする?」
映画に夢中になってしまって、大容量のポップコーンはほとんど手付かず。
袋に入れて手に下げると、フォルティオスがさりげなく持ってくれた。
「ちょっと小腹がすいたし、時間も丁度いいから予定通りケーキバイキングに行こうか」
「ケーキバイキング?」
「そう。定額を払えば用意された料理が食べ放題、ってお店があるの」
「店側が損をしないのかい?」
「しないシステムになっているらしいよ。行こう!」
そして私達は、ケーキバイキングのチェーン店に向かった。
チェーン店だけあって当たり外れが少ないし、デザートだけじゃなくってフードメニューも充実しているから、私も友達とたまに行く。
明るい店内は女性が多いけれど、デートの男女ペアもいるので私達もそんなに悪目立ちしない。
フェアリーハット様様だ。
もし実際に顔を見られたりしたら、美形外国人二人を連れたJKなんて騒ぎになっただろうし。
券売機でお金を払い、席に着くと同時に二人は目を輝かせた。
カウンターに並べられたスイーツは数十種。フードメニューも充実していて、カレーやパスタ、フルーツやアイスもある。
「これ、全部、自由に食べていいのかい?」
「好きなものを食べられるだけお皿に取る形ね。お皿に取ったものは残さないのが決まりだよ」
「でも、これは種類も量も多すぎますよ。……パスタまでありませんか?
しかも何種類も!」
「こっちはお昼の生パスタに比べるとサイド扱いだから、少し落ちるかもだけど。
興味があるなら、一つ一つを小さめにして種類を食べるようにしてみたら?」
「そうします」
オクルス君は戸惑いながらもパスタ二種類を少しずつ皿に盛り、あとは季節のケーキを三種類くらい盛っていた。
「フォルティオスも、遠慮しないで好きなのを食べて」
「好きなものというか、全部魅力的過ぎて困るね。僕はとりあえず甘味多めで行こうかな」
「飲み物も飲み放題だから」
「! いや本当にこの店、儲けが出ているのかい?」
その後はみんなで映画の話をしながら、ケーキバイキングを満喫した。
季節のスペシャル、お芋や栗を使ったケーキが最高だったし、オクルス君は結局パスタを全制覇していたし。
「お店やフォルティオス様の作って下さる生パスタが美味であったことは変わりないのですが、こちらはこちらで味わいがあって美味です」
「パスタそのものはシンプルだから、色々な味付けが楽しめるのがいいよね」
「でも、せっかくなんだからケーキやアイスももっと食べたら?」
「ありがとうございます。こちらの食生活にあまり慣れてしまうと、国の料理が食べられなくなってしまいますよ。
ああ、幸せとしか言えない味です」
「同感。食というのは、やはり生きる喜びそのものだと思う」
帝国というのはアンデッドメインの国なので、食文化が死んでいるのだというのは何度も聞いた。
本当に幸せを噛み締めるように料理を口にする二人を見て嬉しいと思いつつ、私はどうしても、あることを思わずにはいられなかった。
「ふう、食べた食べた。おなか一杯」
「制限時間までまだもう少しあるけど、ちょっと隙間を空けてきたいな。
ネコちゃん、付き合ってくれる?」
「了解です! 私もちょっと限界でしたから」
私達が立ち上がると、オクルス君が立ち上がりかけたけど、フォルティオスが手を引いて止めてくれた。
うん。お手洗いにまでついて来られると困るから助かる。
「すぐ戻るからゆっくりしてて」
軽く手を振って、私達はお手洗いに向かった。
「付き合ってくれてありがと。ネコちゃん」
「いえいえ。お手洗いに行きたかったのは本当ですし」
フォルティオスはオクルス君と二人で話したいことがあったみたいだから、少し時間をあげたかったのだ。
「それに、私もお姉さまに相談したいこと、あったので」
「ネコちゃんも?」
周囲の人目を確認してから、私達はお手洗いの戸を閉めて視線を合わせた。
「フォルティオスを」
「オクルス君を」
「「帝国から、解放できないかな?」」
視線だけでなく、心も完全に重ね合わさって。
私達は、その後かなり真剣に話し込んでしまい、バイキングの制限時間ギリギリになってしまったのは小さな失敗だったけれど。
得るものが多い一日を過ごすことができた。
フォルティオスとオクルス君にとっても、そうだったら嬉しいのだけれど。




