第68話 楽しいWデート 前編
あの声優ライブの日から一週間後の土曜日。
「今日は練習しなくていいんですか? 明日がダブルストーナメント当日でしょう?」
私はフォルティオスとの以前の約束、映画デートに出かけた。
ただ、今回はネコちゃんとオクルス君も一緒。
フォルティオスから、オクルス君と話がしたいからどこかで時間を作ってほしい、と頼まれていたのだ。
「うん。雄太も今日はゆっくり休むって。映画にも誘ったんだけどね」
店長さんは大会の前日はゆっくり休め派。
どんなに考えてデッキを組み立てても、最終的なところは運と相手次第だから、気持ちを切り替えて挑むことが大事、というのが教えだから。
それでも雄太は多分、色々考えてしまうタイプ。
見かけによらずって言ったら失礼というか、嫌がると思うけど、おじ様に似て頭がいいから、あれやこれやと状況を考えてシミュレーションしちゃうのだ。
私達が側にいると、おそらく気持ちが休まらない。
だから今日は少し離れようと合意した。
もう互いのデッキの構成は覚えたし、役割分担も理解した。
後は当日、全力を尽くすだけだ。
「店に行かないなら、やりたいこととか予定もあったんじゃない?」
「いえいえ。私の方こそ誘って貰えて嬉しいです。
オクルス君、いつも遠慮ばっかりで、私が美味しいもの食べよう、とか誘ってもなかなか頷いてくれないんですよ」
「あ~、解る。フォルティオスも同じだから」
「いつまでもお兄ちゃんの服を着せておきたくないんで、今日は新しい服を買うよ、って言ってあるんです。フォルティオスの服、とってもスタイリッシュだから羨ましくて」
「じゃあ、最初にフォルティオスの服を買ったブティックに行こうか? それからご飯食べて、映画! あとスイーツ天国にも行ってみない?」
「いいですね! どこも行きたくても、一人じゃなかなか行けないですから。
それにオクルス君に、こっちのケーキ食べさせてあげたいって思ってたんです!」
フォルティオスとオクルス君。
二人が肩を竦めたのが解った。
いや、分かってるけどね。
彼らが気が進まない、っていうか、私達にお金を出させることを申し訳ないって思ってるの。
「あんまり僕達の為に無駄遣いしなくてもいいよ」
「僕はこちらの世界のお金を持っていませんからね。
向こうでも自由に使えるお金がそんなにあるわけでもありませんが」
女の子、しかもリンカーにお金を出させることに遠慮があるのだろう。
二人とも真面目だから。
「無駄遣いじゃなくって、ちゃんと役に立っていることだから。あんまり気にしないで!」
「そうですよ。私が見たいんです。フォルティオスやオクルス君が甘いもの食べて嬉しそうにしているところとか、かっこいい服を着ているところとか!」
ネコちゃんは私にそう同意してくれると、スマホに指を滑らせる。
「ほら! このイラスト見てください!
フォルティオスの現パロ、私服絵。
みんなに褒めてもらって万バズしたんですよ!」
ネコちゃんがこの間上げたイラストだ。
フォルティオスの私服姿、そのまんま。
本人が見た時には恥ずかしさに真っ赤になってたけど。
私も見せてもらったけど、本当にカッコよかった。
データを貰って時々眺めてる。
「私達だけじゃなくって、みんなを幸せにする福利厚生だと思って諦めて下さい。
あ、なんならモデル料でもいいですよ。オクルス君の私服も後で描いてあげるつもりですから」
「もちろんボディーガードとしても頼りにしてるからね」
二人がかりで全力説得したので、優しい二人はそれ以上固辞せず受け入れて、というか諦めてくれた。
「仕方ない。今回は諦めて甘えようか。オクルス」
「そうですね。このお礼は働きで返すとしましょう。役に立てる場面があるかどうかわかりませんが」
そうして私達は、ネコちゃん曰くのダブルデートの一日を開始したのだった。
まず行ったのは約束通りのブティックで、そこでオクルス君(オクルスさんと呼ばれるのは緊張すると本人が言うので、私もネコちゃんの呼び方を真似る)の私服を改めて購入する。
「あんまり砕けた格好は、逆にちょっと落ち着きません。
しっかりとした、こちらでいうところのスーツのような服の方がいいです」
とのことなので、少しラフではあるけれど、ベストにネクタイ、スラックスに白シャツといういで立ちになった。
その上にジャケットを羽織ってもらう感じ。
「オクルス君は顔立ちが可愛いから、トレーナーとか、だぼっ、とした感じも似合うと思うのに」
「でも、これはこれでギャップ萌えと思えばアリです。フォルティオスと並ぶと、彼に仕える従者か執事って感じでいいですよね」
照れているけど、実際とても似合っているし、ネコちゃんの妄想も理解できてしまう。
同じ金髪同士なのに、フォルティオスは明るい昼。オクルス君は月の夜、という印象だ。
光と影、という言葉で単純に表してしまうのは、あまりにも陳腐な表現だと解っているけれど。
「僕はフォルティオス様の従者ですから、そう言っていただけると嬉しいです」
「従者ではなく友達だって言ってるのに」
「僕は貴方の側にいて、共に在ることが一番の喜びなんです」
いや、もう見ている方が照れる。
「それじゃあ、軽くご飯食べて、映画見て。それからケーキバイキングに行きましょう! ランチは何にする?」
「ラーメン、もいいですけど。デート向きじゃないですよね。オクルス君、何食べたい?」
「僕は、皆さんが決めたもので……って、フォルティオス様?」
「オクルス……」
オクルス君もフォルティオスと同じかあ。
帝国ってホントに罪作り。
私が息を吐き出したことに気付いたのだろう。
フォルティオスがオクルス君の肘をつつくのが見えた。
「せっかく聞いてくれているんだから、自分のリクエストがあるなら言った方がいい。
あまり遠慮しすぎるのが、逆に失礼になるときもあるんだよ」
「そうそう。遠慮しないで」
前のデートの時のことを覚えてくれていたようだ。
素直に嬉しい。
で、オクルス君は少し考えたあと、
「えっと、じゃあ、パスタでいいですか? 麺そのものは向こうにもあるのですが、フォルティオス様が向こうで作って下さった『なぽりたん』は正直別次元で。
とても美味しかったんです」
「そういえば手打ちパスタを作ってくれたことあったね」
最近フォルティオスは、ネットで覚えた料理を向こうの世界で実践しているらしい。
料理チートの流れだ。
天華やネクサス、ソルシアはそれほどこちらと文化レベルが離れているわけではないらしいけれど、帝国は特に酷いらしいから。
こっちで私相手に練習して、成功したら向こうでもやっている様子。
ただ、ライスは上手に炊くのが難しいし、パンもふんわり焼こうと思うと酵母とかイーストとか大変。
「ああ、ソルシアからケチャップを貰って作った時のアレだね。ラーメンよりは再現しやすくて助かったよ。オーブンも使わずに済むし」
意外と異世界で生パスタが作りやすかった、というのは解る気がする。
「おっけー。ネコちゃんは、パスタ嫌いじゃない?」
「嫌いじゃないです。むしろ大好きです。うちは家族住まいなんで、あんまりオクルス君と外食とかできないから、こういう時にぜひ美味しいもの食べてほしいです!」
「いや、ネコはいつも必要ないって言っても、菓子パンやお弁当を分けてくれるじゃないか?」
「だって、一人で食べるより、誰かと一緒に食べたほうがずっと美味しいんだもん」
「それは……解る気がするけど」
私とフォルティオス。二人の首も同時に縦に動く。
ネコちゃんの言葉には同感しかない。
「よーし。近くに美味しい生パスタのお店があるらしいから行ってみようか?」
軽くググれば美味しい店がすぐに出てくる。
いい世の中だ。
「生パスタ、というのは普通のパスタと何か違うのかい?」
「フォルティオスは向こうで手打ちパスタ作ってるなら、それと同じ。
でも、プロが作っているのはやっぱり美味しいよ。きっと」
「それは楽しみだ」
私とフォルティオス。ネコちゃんとオクルス君。
二組のペアは肩を並べて、楽しいデートへと歩き出した。




