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第67話 新しい考え方と見えない力

 声優さんの生の声を目の前で聞くイベントなど、そうそうあるものではない。


 私の人生では、これで二回目。

 でも、やっぱり専門の教育を受けた人というのは凄いなあ、と素直に思う。


「こんにちは! 今日はよろしくお願いします!」


 ただ挨拶をしただけなのに、会場の空気が変わった気がした。

 大きな声を出している訳でもないのに、不思議なくらいはっきりと耳に届く。

 私も学校で人前に立って話すことくらいはあるけれど、こんな風に人の心を惹きつける声なんて出せない。

 プロって、本当に凄いんだなあ。


 これが、アイドルの力なのだろうか?


 マヤヤさんの配信にも似た感じを受ける。

 カリスマというか、憧れというか。

 この人が好き。この人を応援したい。


 そう感じさせる不思議な力を。


 他の人が真似しようと思って真似できる類のものではないと解っている。

 生まれながらに持っている才能を努力で磨いた、一握りの人間がこうして輝くことができるのだ。


 そういえば『アナザーワールド』にも、アイドル声優とか、スーパーアイドルとか、そういう系統のカードは少なくない。


 というか、多い。


 アイコンも独立した『タレント』というのがあるくらいだから。


「ねえ、向こうの世界にもアイドルとか、歌手はいるんだよね?」

「いるよ。アイドルという名前ではなくても、勢力を問わずね。歌は人の心を支配する力があるからね。僕には、どうも今一つ解らないけれど」


 帝国での歌手は本当に、人々を歌声で鼓舞するのがメインだから、あまり人を楽しませる系統の歌は歌わないという。

 だから、だろうか。

 フォルティオスはあまり音楽に興味を示さない。


 この間ゲームセンターに行った時も、音楽ガン無視の身体操作ゲームとして音ゲーをやって、完クリしていた。


「あ、でも一度、ネクサスのトップアイドルと会ったことがあってね。

 彼女の存在感には圧倒されたよ。本当のスーパーアイドルっていうのは、ああいうのを言うんだなって」

「もしかして、小鳥遊奏さん?」

「そうそう。心が弱い時に彼女に誘われると、どんな堅物でもアイドルになりたくなっちゃうらしい」


 ネクサスのネームカードに、小鳥遊奏さんというカードがある。

 スーパーアイドルで、パワーがなければどんなネームキャラクターでもコンタクトできるという鬼カード。


 彼女に誘われると、歌声に魅了されてアイドルになっちゃうという設定のようだ。

 出現にも維持にも山のようなパワーが必要になるので、そこまで使用頻度は高くないらしいけれど。


「そうだ……アイドルデッキだ」

「雄太?」


 声優さんのトークと歌声を黙って聞いていたように見えた雄太だけど、どうやらずっと『アナザーワールド』のことを考えていたらしい。

 リンカーの鑑と言おうか、何と言おうか。


「アイドルデッキ?」

「ああ。ネクサスのアイドル達は、場全体に影響を与えるカードが多い。それもほとんどが出現時に効果を発揮するから、特殊能力やスペルで防げないんだ」


 私はそんなにカードに詳しくないけれど、場に出た瞬間に対戦相手のコンタクトしていないキャラクターのパワーカードを全て捨て札にする、なんて凶悪カードもあるらしい。


「アイドルデッキは足も速いし、補給にも長けているから、キャラを増やしてフォルティオスを支援するというコンセプトにも合う。ただ……」

「ただ、なあに?」

「……悪い。コンサート中だし、もうちょっと考える。話はコンサートの後で」

「解った。後で教えてね」


 ぶつぶつと考え込み始めた雄太。

 あれは、もう声優さんの歌声なんか耳に入っていない気がする。


 でも、何かのヒントが掴めたのなら良かったと思おう。


 そういう訳で、私は声優さんの歌声とトークに視線を向け直す。

 イベントはとっても楽しくて、この声優さんを応援していこうと本気で思ったくらいだ。


 私は最近『アナザーワールド』にハマってから、アニメとか、他のゲームとか全然やらないんだけど、『アナザーワールド』のアプリ版の声優さんもしているというしね。

 担当キャラクターは、ソルシアの魔術師さんか。

 覚えておこう。


 そういう訳で、イベント終了後、私達はすぐに店には戻らず、近くのハンバーガー屋さんで作戦会議をすることになった。


 ちなみに、フォルティオスもオクルスさんもジャンクフード系が大好き。

 繊細な日本料理系も嫌いじゃないけど、生魚とか寿司とかは苦手だそう。

 天ぷらは気に入っていた。

 唐揚げとか、とんかつの方が好きだと言っていたけど。

 こういうところ、男の子だよね。


 以前も聞いたけれど、帝国は食生活が中世なので、『アース』でも壊滅的に酷いらしい。


「フォルティオス様が作って下さる料理が、帝国で一番美味ですよ。主に食事を作らせ、頼るなど恥ずかしい限りではありますが」


 オクルスさんがポテトを齧りながら、そうつぶやく。

 フォルティオスは貴族待遇で、帝国に家を持っている。

 そこには使用人が何人かいて、彼の生活を助けているのだそう。

 オクルスさんは、そこに従卒兼副官として住み込んでいる。

 そして、フォルティオスは最近、こちらで覚えた簡単な料理を向こうの身近な人達に披露しているようだ。


「僕が美味しいものを食べたいだけだよ。座って待っているだけじゃ、美味しい料理は出てこないからね」


 料理人にこっちの料理を見せて、作ってほしいと頼むことで、ようやく向こうでも柔らかいパンや旨味のあるスープ、揚げ焼きなどが出るようになってきたという。


「もっと他の偉い人や、周りの人に美味しい料理を教えたら、みんな喜ぶんじゃないの?」


 食生活改善は異世界チートの定番だけど。


「そもそも皇帝陛下も、王宮に仕える上級貴族の多くもアンデッドだからね。望み薄だと思う。いい食材を手に入れることそのものが困難だし」


 皇帝自身がアンデッドで、食事に意味や興味を持っていないから、アンデッドでない部下も生命維持の為の栄養補給という意味しか感じていないのだとか。

 辛いなあ~。


「まあ、徐々に変えていきたいとは思ってるよ。一般兵とかに味を覚えてもらうとかね」

「一度この味を知ってしまえば、後戻りできなくなると思うのですけどね。こういうハンバーガーのようなものなら、糧食にも向いていそうですし」

「ソルシアやネクサスには、こちらに似たファーストフードの店もあるしね」


 向こうでの彼らの助けには、まだなかなかなれないけど、できるだけこちらでは美味しいものを食べさせてあげよう。

 私はネコちゃんと顔を見合わせ、頷き合った。

 私達の思いは一つだ。


 で、ちょっと話はずれたけど、雄太が、


「美空」


 と、私の名を呼ぶ。

 結構マジな目線。


 自分の分の食べ物にも手を付けていない。

 だから、私もフォルティオスと視線を合わせ、彼に応える。


「なあに?」

「俺を信じてくれるか?」

「私は、いつも雄太を信じてるよ。私の『アナザーワールド』の原点で、師匠だもの」


 店長さんも師ではあるけれど、雄太とは少し次元が違う。


 私にとって雄太は、『アナザーワールド』に導いてくれた大事な始まりの存在。

 今はだいぶ変わっているけれど、デッキや戦い方のスタートは雄太だった。

 彼を信じられなかったら、私は『アナザーワールド』をしないし、できない。


「なら、今回のダブルストーナメント、俺を信じてデッキを預けてほしい。フォルティオスごと。プレイングも全て」

「解った。いいよ」

「……自分で言うのもなんだけど、即答だな? いいのか?」


 一瞬のシンキングタイムもなしに応えた私に、雄太は少し目を見開いた。

 でも、これは最初から決めていること。


 私にとっては、悩む必要もない当然の話だ。


「何度も言うけど、私は雄太を信じてる。まだ自分のデッキを自分でいじれる知識も技術もないし、勝利の為に雄太が考えて、とってくれる手段を疑う気はないもん。何をすればいいのか、教えて」

「解った。ありがとう」


 小さく微笑むと、雄太は声を潜めた。

 そして、ひょいひょい、と手招きする。


 バーガーショップに『アナザーワールド』の話をして解る人物がいるとは思わないけど、念の為、私達も顔を寄せた。


「具体的には……こうで……」


 そうして、私達はデッキを一から組み直したのだ。


 夢へと繋がる『二人』のデッキを。

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