↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
66/72

第66話 ダブルストーナメントのデッキ

翌日、私と雄太は店の端で頭を抱えていた。


「まったく、師匠達は何考えてやがんだよ!」

「う~ん。今回ばかりは私もわかんない。意地悪にしてもほどがあるよね」


 目の前には二つのデッキ。


 ダブルス用に考えていたデッキだったのだけれど、今は完全にバラバラに分解されている。


 このままでは通用しない。


 それを嫌というほど思い知らされたのだ。


 昨夜の店長さんとマヤヤさん。


 悪魔のような、あの二人のタッグデッキに。


     ◇ ◇ ◇


「京ちゃんとマヤヤ♪ 正式にパートナーを組むことにしました!

 そして、一緒にダブルストーナメントに出るんだよ~」


 店長さんの腕を取り、明るく言い切ったマヤヤさん。


 そんな彼女に少し困った顔をしながらも、店長さんは頷いた。


「まあ、チャンピオンカーニバルまで暇ですし、久しぶりに遊んでみようかと思いまして。ああ、先輩の言う『パートナー』は純粋にバトルのためのペアで、他意はありませんから安心してください」

「他意などあってたまるか!」

「同意だ。シエロが私生活に関わってくるなど、考えただけで背筋が凍る」


 店長さんのパートナーであるシエロさんと、マヤヤさんのパートナーである加奈子さん。


 お二人も異口同音、ではないけれど、息の合った同意を示す。


 犬猿の仲ではあっても、こういうところは通じ合ってるよね。


「そういう訳で、チャンピオン二人で組む以上、負けるわけにはいかないので全力でいきます。君達もそのつもりで」

「悪いけど、手加減はしないぞ~」


 呆然とする私と雄太に、そう言い放った店長さんとマヤヤさん。


 そして、その言葉通り、私と雄太のデッキを容赦も遠慮もなく叩き潰した。


 私のデッキは、場に黒のインベイダーを増やしてフォルティオスを強化する構成だったのだけれど、いつものパワーコントロールでろくに動かせてもらえなかったのだ。


 特に辛かったのは、ファンタズマのパワーカードを飛ばす術式で力を失った子達が、シエロさんの特殊能力で次々と潰されてしまうこと。


 パワーカードを失った子が、さらにパワーを奪われると、問答無用で死亡判定になっちゃうから。

 呪法なら天華のカウンター術式でいくつか止められたけれど、特殊能力は止めにくいのが辛い。


 それに……。


     ◇ ◇ ◇


「今のままじゃダメだ。ダブルスでは、もっと根本的に戦い方を変えないといけない」

「うん。強いデッキ二つをただくっつけただけじゃ、ダメなんだね。

 もっと広い視野を持たないと」


 雄太が唇を噛み締める。

 二つの戦闘エリアが互いに干渉し合うダブルスでは、これまでとは違う戦略が求められる。


 それを、お二人との対戦で嫌というほど叩き込まれた。

 戦場全体を見渡し、自分の手番以外でもファストスペルや特殊能力で援護することによって、パートナーを有利にすることができる。

 逆に、相手の弱いところを狙うことだって可能なのだ。

 どちらか一人の攻撃を防いだと思ったら、もう一人がその隙を突いてくる。まるで、最初から私達がどう動くか分かっていたみたいだった。


 ただし、私語や会話は原則禁止。

 だからこそ、パートナーが何をしようとして、今、なぜその行動を取ったのかを読み取る洞察力が必要になる。


 とはいえ、デッキやカードの知識が足りない私には、何をどうしたらいいのか、よく解らない。


「全体術とかも、ダブルスだと使い勝手が難しいよね。全体除去はパートナーにも影響が行っちゃうし、カウンターしたら意味がなくなっちゃうし」


 難しいなあ。


 今日、マヤヤさんは東京でお仕事。

 店長さんは別のゲームの大会運営で忙しい。

 アドバイスはもらえないし、そもそも今回はお二人がライバルなのだ。


 相談するわけにもいかない。


「ん~、お姉様、雄太さん。ちょっと煮詰まってます?」

「ネコちゃん?」


 テーブルで唸り続ける私達に、ひょいっと顔を覗かせて声をかけてくれたのは、ネコちゃんだった。


「あ、うん。まあね。ダブルスデッキを一から考え直してるから」

「おおよそ纏まったっておっしゃってませんでしたっけ?」

「それからまあ、いろいろあって……」

「……そうですか。じゃあ、気分転換なんてどうですか?」

「気分転換?」

「はい。ちょうど今日、こっちのアニメショップで声優さんのミニイベントがあるんですよ。少し早く上がって見ていこうと思ってたので、お二人もぜひ一緒に」

「声優さんのミニイベント?」

「はい。いわゆるアイドル声優さんです。まだ売り出し中ですけど、アプリ版の『アナザーワールド』でも声を当てられている有望な方なんですよ」

「俺は……い……」

「ダメです! あんまり考えすぎると、頭がホントに煮詰まっちゃいますよ。

 少し、外の空気を吸いましょう! 店長さん、すみません。少し出てきま~す」


 ネコちゃんは、ぐいっと雄太の手を引っ張って外へと連れ出そうとする。

 けっこう力、強いな。


「いってらっしゃい。荷物は置きっぱなしにしないようにね」

「はい。後で多分、戻ってきます」


 軽く挨拶して、出しっぱなしのカードを片付け、店を出る。


 店は駅のすぐ近くだから、ネコちゃんの言うアニメショップまでは歩いて五分くらいだ。


「オクルス君。雄太先輩を逃がさないようにお願い」

「了解。すみません。ネコが強引に」

「いや、いい。自分でも煮詰まってたのは分かってたから。ありがとう」


 実体化したオクルスさんが、さりげなく雄太の横につく。


 逃げられないように、かな?


 ついでなので、私もフォルティオスに出て来てもらった。


 せっかくだから、フォルティオスにもアニメショップを見せたいと思ったし。


 彼も心配しているだろうから。


「ありがとう。でも、アニメショップって?」

「虚構の物語を動く映像にしたもの、かな?

『アナザーワールド』のも少しあるよ」

「へえ~」


 この間のデートでは寄らなかったけど、アニメショップは駅ビルの別棟にある。


 最近のアニメショップは、アニメになっていないカードゲームも一部扱っているから。

 キャラクターグッズが展開されているものもあるし。

 一度、見せたいとは思っていたのだ。

 PVアニメとか流れているといいなあ。


 そうしてやってきたアニメショップ。


 賑やかで華やかな色合いの店内は、眩しくて目がくらみそうだ。

 アナザーワールドのグッズもカードもちょこっとある。


「いつ来ても凄いですね。

 フォルティオス様の品もあればいいのに」

「人気はあるんだけどね~。古参のキャラクターだからか展開が少なくって、ホント困っちゃうよ」


 ネコちゃんとオクルスくんはよく一緒に店に来ているみたいだ。

 ラミカやアクキー、缶バッジは女性キャラ多めだ。


 新弾に入っていたオクルス君はまだ難しいとしても、私もフォルティオスのグッズとかあれば買いたかった。


 軽く買い物をして、イベントチケットを貰う。


「……フォルティオスは、古くても強いカードだ。

 特にダブルスみたいにいつもより場が広い場合には、今まで以上に能力が強化される。だから、美空のデッキはそのままでいい。変わるべきは、俺なんだ」


 陳列棚を見つめながら、雄太が唇を噛み締めて呟いていた。


 確かに、敵味方のキャラクター数を参照するフォルティオスは、ダブルストーナメントでは絶大な力を発揮する。


 敵と味方に五人ずつキャラクターがいれば、それだけで攻撃力が2000、防御力も2000。


 防御に長けた天華の最上位、鈴音さんだって耐久力2000なのだから、そうなれば誰も止められなくなる。


 弱いキャラクターの捨て身攻撃はオクルスさんで止めたり、氷雪公で動けなくしたりすれば、雑に戦ってもある程度は有利に戦えるだろう。


 昨夜の対戦でも、雄太が集中攻撃されていた。


 黒でキャラクター数を増やしまくって、一度はかなり攻撃力を上げてくれたのだけれど、パワーカード以下のダメージを受けない加奈子さんと、パワーカードを減らす能力を持つシエロさんにとっては、餌みたいなものだった。


 片方がもう片方に依存するのでは、ダブルスの意味がない。


 互いに補い合い、助け合う形が重要で……。


「雄太。氷雪公みたいに、場全体に影響を与えるカードってない?」

「それは、もちろん色々ある。だから、どれをどう使っていくかを考えなきゃ、なんだ」

「あ、少しカードの話は忘れましょう。

 イベント始まるみたいです」


 店の前のイベントコーナーに、人が集まりつつある。


 私達はネコちゃんの言う通り、足早にそちらへ向かう。


 このイベントが、私達をチャンピオンカーニバルに導くヒントをくれることになるとは、思いもせずに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。