第65話 新しいスタートと強敵登場?
秋トーナメントから二週間。
私達の周囲は、それまでと比べると格段に賑やかに、そして華やかになった。
まず、一番の変化はマヤヤさんが近くのマンスリーマンションに引っ越してきたこと。
「こっちにいる間は、ずっとうちに滞在して下さっていいのに」
「いや、流石にそれは拙いと思うんだ。風ちゃんもいい気持ちはしないと思うし、富樫先生にも示しがつかないしね」
そう言って、家具付きの短期物件を借りてくれたのだ。
スープの冷めない距離、というか、程よい距離感で付き合って下さるのがとてもありがたい。
しょっちゅう差し入れをくれたり、食事に誘ってくれたりするので、食費も凄く浮いて、その分をカードに回せるようになったし。
次に、ネコちゃんがほぼ毎週お店に通ってくるようになったこと。
「マヤヤさんが、こっそり定期券を買ってプレゼントして下さったんです~」
「こっちもネコちゃんにイラストを依頼しているから、持ちつ持たれつ、だよ♪」
ということらしく、土日はほぼ毎週。たまに平日もやってくる。
学校や友達関係は大丈夫かな? と思ったんだけど。
「その辺は心配しないで下さい。私、漫研なんですけど、ノルマはバッチリこなしてますし。『アナザーワールド』をやるようになって、本物を見られて、もうイメージが溢れて筆が止まらないくらいなんです!」
だって。
実はネコちゃん。
Xでも『アナザーワールド』推しの絵師として割と知られた存在だったらしく、絵が凄く上手。
フォロワーも結構な数がいて、馬鹿兄が足を引っ張っているのは変わらないけれど、着実に味方も増えているようだ。
マヤヤさんが動画でイラストを使うようになってからは、今まで知らなかった層からの人気も上がっていると聞く。
マヤヤさんや店長さん、そしてお店のレベルの高いプレイヤーさん達に揉まれてカードの腕も上がっているし、この間は異世界配信にもデビューした。
そのレポート漫画(偽)描いて、Xに掲載。バズっているというのだから。
ホント、凄いバイタリティーだ。
オクルスさんとも上手くいっているらしい。
「同担だから気が合うんですよ~」
とはネコちゃんの言葉だけど、オクルスさんの方も、
「彼女には、とても良くしてもらっています。それに、こちらでの生活は学びが多くて」
と、楽しそうだ。
片目を淡いアッシュブロンドのワンレンで隠して微笑む姿は、翼を隠していても天使のごとき美少年。
二人が仲よさそうに並んでいる姿を見るのは、なんだか和む。
「向こうと比べると、差と粗が見えすぎて辛いのが難ですが」
「それは同感。こっちの半分でも向こうの生活が快適になると、やる気も増すんだけどね」
なんてフォルティオスと話しているくらいだから、向こうは相当に大変なのだろう。
せめて、こっちではゆっくり息抜きしていってほしいものだ。
そして、フォルティオス。
あの日。私達が一緒にホームページの小説を読んで以来、彼の雰囲気が変わった気がする。
何が変わったか、と言われると少し表現に困るのだけれど、あえて言うなら明るくなった。
というか、前向きになった?
以前に比べると、何にでも凄く積極的になったのだ。
料理や家事を手伝ってくれるだけではなく、勉強にも熱心で。
家にある本を暇を見ては読み漁っている上に、最近は、
「美空。パソコン? を教えてもらえないかな?」
と、パソコンやスマホにも興味を示している。
パソコンは、お父さんが使っていた、今は使っていないものがある。
少し古いけれど、かなりスペックのいいゲーミングパソコンなので、それをフォルティオス用にして、基本的な操作を教えてあげた。
最近は夜になると、いろいろとネットサーフィンしているらしい。
私が教えられることなんて初歩の操作くらいだけど、地頭がいいから、すぐに追い越されてしまいそうだ。
近いうちに、彼用のスマホも用意しようか考え中。
マヤヤさんの援助もあるし、二台契約もできなくはないんだけどね。
ちなみに。
私と彼との関係は、今のところ全く変わらない。
告白されたとか、恋人になったとかもない。
これっぽっちもない。
ほっぺにキスをされたあの日の後、もしかしたら何か変わるかな、と思ったのだけれど、翌日の彼はいつもと全く変わらない、優しいフォルティオスで。
「おはよう、美空。朝食ができているよ」
と、輝くような笑顔でコーヒーを淹れてくれた。
あの時にはマヤヤさんと加奈子さんがいたからかもしれないけれど、本当に一言も、態度も変わっていなかったので、私もあの夜のことは欧米風の挨拶だったのだと切り替えた。
彼に特別な感情がないのなら、気にしすぎるのも失礼だ。
大事な友達で、家族。
今は二人きりで暮らしているのだし、変に関係が変わるよりは、今のままの関係が続く方がいい気もしている。
そして今日は土曜日。
ネコちゃんも来て、マヤヤさんもいて、お店の中は賑やかだ。
「お姉様。来週のダブルストーナメントの方の調整は進んでます?」
最近はすっかりお店のアイドルになって、対戦の誘いもひっきりなしのネコちゃんが、合間にそう問いかけてきた。
「あ、うん。おおよそまとまってはいるよ」
「雄太さんと出るんですよね?」
「そのつもり。お互いにデッキのすり合わせもしているしね」
私は、少し離れた卓で別の人と対戦している雄太の背中を見やる。
雄太はあの日の翌日から、宣言どおり、今までと全く変わらずに私やネコちゃんと接してくれる。
思うところがないわけじゃないと思うけれど、それを表に出さずにいてくれる雄太は強いなって、尊敬するくらい。
ネコちゃんも空気を読める子で、オクルスを見せびらかすようなことはしないでくれているから、今のところトラブルもなくやっている。
表向きは、かもしれないけれど。
秋トーナメントから二週間。
実は来週にはまたカードイベントがあり、そこでチャンピオンカーニバルに関わる大きな大会が開かれる。
ダブルストーナメントだ。
レディーストーナメントと並んで、チャンピオンカーニバルへの最短コースと言われている大会で、男性陣も一緒に資格を取れるから、この時のためにパートナーを探す人もいるらしい。
私も何人かの人に誘われたけど、私が参加するならパートナーは雄太一択。
どうしてもの時だけ店長さん、って感じだから。
周囲に手の内を明かさないように、対戦と調整は閉店後にしようと決めている。
私のデッキがフォルティオスデッキなのは知られているので、雄太がその強みを生かせるように考えてくれていた。
ネクサスか、いっそ黒のインベイダーを使って数を増やし、フォルティオスの能力を上げる方法で、とか言ってたかな?
「ネコちゃんは出ないの?」
「今回は見送るつもりです。まだ普通の対戦もおぼつかないので、相手の方に迷惑をかけちゃうといけないし、参加すると決めると、お兄ちゃんが『俺と出ろ』って言ってくるかもしれないし。他にもフリー対戦イベントがあるらしいので、そっちで腕を磨くつもりです」
普段はカードをやるなって言うくせに、こういう時には駆り出そうとするのも酷い話だ。
「そして、その次のレディーストーナメントには挑戦してみようと思ってます」
「頑張って!」
「はい!」
私の場合、ダブルストーナメントで世界大会の資格を取り逃すと、最後のチャンスはレディーストーナメントしかなくなる。
ネコちゃんと潰し合いたくないし、雄太にとってもいい機会だし、なんとかここで頑張りたいと思う。
とはいえ、ダブルスだって全国からこれを目指してくる人も多いから、油断はできないんだけど。
そうして、閉店後の店内。
ネコちゃんは「また明日」と言って早めに帰宅した。
静かになったお店で、私は思いもよらない話を聞くことになる。
「あのね~。ご報告。京ちゃんとマヤヤ♪ 正式にパートナーを組むことにしました!」
「はあっ?!」
「パートナーって?」
「そしてね~、ダブルストーナメント、一緒に出るんだよ~」
「「ええっ!」」
私と雄太が動揺して目を瞬かせる中。
にこやかな笑顔で店長さんの腕を取るマヤヤさんの目は、悪戯っぽく、楽しげに輝いていた。




