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第56話 繋がる思い

「我の言いたいことを、理解したか? フォルティオス」


 対戦の終了後、静かな声でディアドラさんはそう告げてきた。

 その背後には、微笑を浮かべたキリアンさん。


「はい」


 お二人と向かい合い、フォルティオスは神妙な声で返事をする。


「これが『帝国』のやり方だ。

 死を克服し、特別なものと考えぬが故に、死に特別な意味を見出さぬ。身体も心も、全ては道具であり部品。それが全て間違っている、とまでは言わぬがな」


 遠く、何かを見つめるようなディアドラさん。

 ネクロマイスターという立場や帝国皇帝への態度を鑑みても、彼女はおそらく、帝国の基本方針であり主力でもあるという死霊術の開発に携わっていた可能性が高い。


「だが、お前の『星の救世主』としての戦い方が、これと同じであってはならぬ。

 インベイダー殲滅兵器として敵を滅ぼすのがお前の役目だとしても。

 それに悩み、痛み、苦しむことを忘れるな」

「解って……います」

「今まで、周囲に人を置かず、いや、置かせてもらえなかったのであろうことは承知しているが。

 だが、それでも敵を助け、味方を増やそうとしたお前の変化は喜ばしい。

 此度も、お前が一人で戦うなら押し切れていた。その自信もあった。

 だが、仲間を信じ、求め、その力を頼ったことで我は負けたのだ」

「僕は、勝った、とは思っていません。

 負けて、いや、勝たせてもらった、と」

「それは謙遜が過ぎる。

 お前はもう少し、自分と自分の『リンカー』に自信を持っていい。我もキリアンも、少なくとも自分から負けるつもりはなかったからな」


 ディアドラさんはそう言ってくれるけれど、本気で勝つつもりがなかったことも分かっている。

 二段コンタクトカードを単体でアンデッド召喚できるなら、多分、もっと強いカードはオクルスさん以外にもいたと思うから。


 全ては『フォルティオス』のための選択と行動だったのだ。


「お前は、帝国を離れるべきだ。可能であるなら早々に」

「先生……」


 そして、彼女はきっと、向こうでは言の葉にできない思いを紡ぐ。


「テリオスはお前の優しさに付け込んでいる。

 だが、奴は一度手にした力を『お前(星の救世主)』を決して手放そうとはしないだろう。

『手に入れよう』とする。

 今までも、そしてこれからも。

 だから、帝国を出ろ。

 覚悟を持て。

 故郷も、友さえも切り捨て、前に進む覚悟を。

 そう、告げるつもりだったのだがな」


 くすり、と小さな笑みが零れた。

 つもりだった。


「僕は、捨てません」


 偶然にも助けられたけれど、フォルティオスと私は別の選択肢を取ることができた。


「鈴音に、皆にも言われたけれど、一人では守り切れないものも、誰かの力を借りれば守れる。それを、僕の『リンカー』とこの世界が教えてくれましたから。

 この『星』の全てを守ってみせる。『星の救世主』として」

「まったく。お前というやつは、本当に……」


 小さく苦笑したディアドラさんが掲げた手のひらから、虹色の光が放たれ、フォルティオスを包み込む。

 全身、特に左目に強く宿ったそれは、すぐに身体に吸い込まれるように消えていったけれど。


「先生、これは……」

「奴は、お前の複製が欲しかったのだろう。

 だがお前という個性と能力は唯一無二。

 同じプロセスを辿ったとしても、決して同じ存在は生まれないということを、我は身をもって知っている。

 故に不要だ。返却する。これで、少しは時間を稼げるはずだ」

「ありがとう、ございます」


 何を『返却』したのかは、私には分からない。

 ディアドラさんがフォルティオスに一番『渡したかったもの』は、多分これではなかったのだろうけれど。

 でも、ちゃんと届いたと私は思う。


「死ぬでないぞ。フォルティオス。

 お前が死ねば、本当に奴の思うつぼだ。

 死後まで永遠に奴の奴隷なら、まだ良い方。

 もっと酷いことを考えている可能性もある」

「もっと、酷いこと、ですか?」

「我を追い出したが故、そこまでの技術はまだ今の奴にはないはずだが、用心はしておけ。

 隙は作るなよ」

「分かりました。心します」


 胸に手を当て、フォルティオスは噛み締めるように感謝と約束の言葉を紡ぐ。

 私もキリアンさんに近づき、頭を下げた。


「ご教授ありがとうございました。誉れ高いドイツチャンプに土をつけるような形になったこと、本当にすみません」

「感謝はともかく、謝罪の必要はない。

 私が必要だと思って、それを成したことだ。

 加えて、私にとっての敗北は君たちがこの戦いから何も学ばぬこと。

 君たちは私とディアドラの出した課題の意図を読み取り、正しい手順をもって正解を導き出した。その時点で『私たち』は十分に勝利している」


 いくつもヒントは出されていた。

 隙も何度かあった。

 今回は本気のバトルというより、指導碁のようなものだったように思う。

 私たちを成長させる為。

 もしかしたらそのためだけに、お二人はわざわざ足を運んでくださったのだ。

 感謝しかない。


「改めて、ありがとうございました」

「キリアンは本当にこういうの上手だよね。やっぱり教授になったほうがいいんじゃない? 

 生徒に慕われそう」

「やめてくれ。これ以上仕事が増えたら、それこそ『アナザーワールド』をやる時間もなくなる」


 くすくすっと、店長さんやマヤヤさんから笑みが零れる。

 キリアンさんだけじゃない。

 今までも店長さんやマヤヤさん、承恩さんが丁寧に教えて育ててくれたから。

 手加減された、とはいえ、ここで初めての勝利を掴むことができたのだ。


「ただね、美空ちゃん。

『アナザーワールド』の『リンカー』がみんな、こういう面倒見のいい人間ばかりじゃないから。能力を自分の利益に使ったり、敗北を認められずに怒る奴とかもいるから、注意は必要だよ」

「はい」

「他人のカードを奪ったり、足を引っ張ったりしても意味はないんだけどね~」

「カードが奪えないなら『リンカー』ごと、と思う奴もいないわけではないからな」

「やっぱり、そういう人もいるんですか?」

「いるよ。『アナザーワールド』の力を、できれば独り占めしたい、って思っている奴は。

 野良、と言ったら言葉は悪いけど、パートナーカードを手にして驚いている子を、飴と鞭で手なずけてしまった奴も知ってる」

「それは怖いですね」


 考えるだにゾッとする。

 もし、私が最初に出会った『リンカー』が店長さんでなかったら、そういう輩に絡め取られる可能性もゼロではなかったのだろうし。


「腹心や知り合いが、自分の近くに出るとは限らないからな。

 私も部下のルミに遠くに出られて、最初は困ったものだ。今は連絡手段もついたからよいが」

「ルミさんは、どこに?」


 これはフォルティオスの質問。

 ディアドラさんの部下なら、フォルティオスも多分、知り合いなのかな。


「日本だ。あまりプレイヤーとしては表に出ず、情報収集などをしてくれている」

「ルミちゃんのリンカーはね、ゲーム雑誌の編集さんなの。自分も取材がてらカードやってます、って体でいろいろ調べてるみたい」

「ウォッチャー ルミ・エメラルダが選ぶリンカーらしいね」


 ルミさんというのは、透視能力の持ち主らしい。

 その力で、向こうではディアドラさんの手伝いをしているとのこと。


「ルミさんは三眼族だけど、かわいい人だよ」

「三眼族?」

「能力者は人型のモノばかりではないからな。竜や獣人、精霊もいる。

 まあ、こっちに来ているのは人型を取れるものだけだが」


 巨大な竜がドーン、とこちらの世界にやってきたのを想像した。

 ……怖い。

 普段は姿を消せるとしても、いや、だからこそ怖い。


「まあ、何かあったら連絡してくれ。

 ディアドラは、向こうではフォルティオスとの接触を禁じられているらしいから、こっち経由で。

 ドイツからではすぐに駆け付ける、とはいかないが、ここを経由すれば話くらいはできる。

 電話もLIINもあるしな」

「接触禁止? どうして、ですか?」

「私がフォルティオスを甘やかしていると見えるのだろう。

 まあ、事実だから仕方ない。

 向こうで何かをしようと思うなら、氷雪公に相談するがいい。

 ヘリオス憎しで力になってくれよう」


 氷雪公とは、向こうでいうところの辺境伯のような方らしい。

 ファンタズマとソルシアの境界近辺を治めておられるとか。

 さっきのカード能力と名前からして、相手を凍り付かせる力を持っているのだろう。


「甘やかしついでに、フォルティオス奪還に力を貸してくれる気はないか? ディアドラ師よ」

「シエロさん」


 シエロさんがディアドラさんに呼びかける。

 ディアドラさんとは直接の知り合いではなかったようで、今まで何も口を挟まなかったけれど、帝国の有力者が味方になる可能性があるのなら、ということらしい。

 抜け目がない。


「帝国の国民に害を加えぬなら、考慮してやってもいい」

「先生!」

「ああ、話は終わりだ。疾く行け。私は忙しい」


 あっさり提案に乗るとしっしっと、虫を払うように手を振りフォルティオスに背を向けるディアドラさん。

 その眼差しには照れたような光があって。

 ……本当にフォルティオスがかわいいんだな、って思う。


「大丈夫かな?」

「きっと、大丈夫だよ。皆、私たちよりずっと『大人』だもん」


 シエロさんや加奈子さんと相談というか、話があるようなので、私は先に帰ってきたけれど、彼女たちがすることなら、きっとフォルティオスにとって悪いことにはならないと思う。


 いつもより早めの配信ではあったけれど、戻ってきてみればもうすぐ夜の十二時。

 シンデレラタイムだ。

 今日は朝早かったし、いろいろあったし。

 気を抜くと眠気が襲ってきそう。


「お疲れ様。今日は大変だったね」

「うん。明日は休みじゃないから、あと少し、頑張ってお風呂入る」


 そう思っていたところに、部屋に置いていったスマホの点滅が目についた。

 着信があったらしい。


「あれ? 電話来てた? LIINも?」


 スマホを手に取り、画面に指を滑らせる。

 また配信を見たお姉ちゃんからかと思ったけれど、発信者はネコちゃんだった。


「あれ? 何かあったのかな?」

「どうかしたのかい?」


 LIINには『大変なことになった。日が変わるまでにこれを見たら、遅くてもいいから連絡してほしい』とあった。

 電話もLIINも複数の着信があるから、こちらを気遣ったのだろうけど、何があったのだろうか?

 まだギリギリ『今日』だから、私はネコちゃんに電話をかける。


「もしもし? 根岸さん、ネコちゃんの携帯ですか?」

「お姉さま? ああっ! よかった!! 繋がった。どうしようかと思いました。

 朝になっちゃったらご迷惑でしたでしょうし」


 よほど待ちかねていたと見えて、ワンコールで相手が、ネコちゃんが出た。


「何かあったの? また、お兄さんが嫌がらせとか?」

「そっちは大丈夫です。いつものことですから。

 ただ、あの。その、信じていただけないかもしれないんですが……」

「なに? どうかしたの?」


 最初の勢いはどこへやら。

 もじもじと言葉を探すネコちゃんは、大きく息を吐くと、ようやく言葉を紡いだ。


「家に帰って、ですね。マヤヤさんから頂いたボックスを開けたら、ですね。

 モノウイング オクルスのVFが出たんです」

「え? オクルスさんのVF?」

「はい。そして、ですね。そのカードが光って、ですね。

 今、私の横に本物のオクルスがいるんです!!」

「「なんだって!!!」」

「夢見ているんでしょうか? それともこれって都市伝説のやつなんですか?

 私、どうしたらいいんでしょう! って、お姉様? そばに誰かいるんですか?」

「オクルス! オクルスがそこにいるのか?」

「……ああ、やはり我が直感に狂い無き。フォルティオス様。

 オクルス。ここに」


 長い一日の、最後の最後。

 とてつもない爆弾が降ってきた。

すみません。間違えて早期投稿されてしまったので一部修正の上、上げなおしました。

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