第55話 ネクロマンサーとの闘い
【極秘チャンネル@アナザーワールド】
『「リンカー」バトルの配信を開始します』
『対戦カード 夜泣き鶯 VS レディM』
『パートナーカード ディアドラ・ディクディム & フォルティオス』
異世界での召喚バトルも、これで四回目。
「大丈夫? フォルティオス?」
側に寄り添ってくれるフォルティオスに、私はそう呼びかけた。
「心配しなくてもいいよ。美空。
僕は、戦う為に生み出されたモノ。先生にあそこまで言われて手を抜いたら、それこそ先生に失礼になる」
「うん、そうだね」
『美空。ナハティガル――キリアンの主力戦法は、アンデッド召喚で数を増やすものだ。数で場を圧倒、制圧するタイプだから、フォルティオスを相手にとった場合、向こうはかなり不利になるはずなんだ』
インカムから雄太の声が聞こえる。
雄太は最近、世界ランカー達の戦歴や、得意とする戦法なども調べてくれているらしい。
『とりあえず、場を整えることを優先するんだ。最優先はフォルティオスだけど、オクルスも出来る限り出せるように頑張れ。あと、渡したカードは入れたか?』
「うん。入れたよ。両方」
『それも、できるなら出せるように狙っていけ。予想通りのデッキなら、かなり効く筈だ』
「ありがとう」
同色同士の戦いは初めて。
でも、やることは変わらない、と私は自分に言い聞かせる。
既に三ターン目。こちらの場にはフォルティオスが出たし、向こうの場にもキャラクターが揃ってきている。いつディアドラさんが来てもおかしくはない。
ただ、気になるのは向こうのダメージだ。キャラクターを支配する前に自分を攻撃させる、アグレッシブ回しの手法には慣れている。でも、落ちたコンタクトカードの中に、黄色以外のカードがあるのが気になるところ。
「大丈夫。弱い敵がいくら横に並んでも、僕には意味がない」
「そうだよね」
解っている。ネクロマイスターということは、死霊術で敵を操る能力者なのだろうけれど、数を増やしても、その分フォルティオスの能力が上がるだけだ。
「では、そろそろ動かせて貰おうか」
キリアンさんは静かに告げると、手札を切った。
「コンタクト。ディアドラ・ディクディム」
ネクロマイスター ディアドラ 降臨。
ディアドラさんは多段型ではない、一段で強力なタイプのコンタクトカードだ。
能力は……え?
「彼女の能力は、捨て札とダメージ置き場からコンタクトカードを死霊として呼び出す事。それらを操ること。コストはダメージ置き場に置く必要があるが……」
そう告げて、彼はダメージ置き場から、さっき落ちた白、ネクサスのカードを場に呼び出す。
見覚えがあるカードだった。秋トーナメントの二回戦で当たった人が使ってたメイド長。
確かネクサスのネームキャラクターで、チャージ2とドロー+1とか、インチキな補給能力を持つ人。
ディアドラさんの力で呼び出されたカードは、アンデッドとして扱われディアドラさんの支配下に置かれる。
支払ったコストはダメージ置き場に置かれるけど、補給能力を持つキャラクターが増えたからむしろプラスだろう。
パワーはほぼディアドラさんに集められている。
ターンは終わったけど、嫌な予感しかしない。
「美空! オクルスはまだ出せないか?」
「ごめん! 二段目は来ているけど、一段目が来ないの」
「次のターンに賭けるしかないか」
フォルティオスや他のキャラクターにも、できる限りパワーを与えて終了する。
戦って解った事だけれど、ディアドラさんとキリアンさんの、このアンデッドデッキ。
基本はインベイダーと同じく軽コストのキャラクターを並べていくものだけれど。
恐ろしいのは、使うコストとコンタクトカードのコントロールなのだ。
パワーとして刺したカードの場所、落ちたダメージ、使ったコストを正確に覚えて、くるくると攻撃と復活を繰り返す。
そして、何より自分の勢力のカードでなくてもアンデッドとして呼び出せるのが凶悪で、補給能力や特殊能力を持つキャラクターも、ターンごとに増えていくのだ。
アンデッドたちは全て捨て駒で、ダメージに行っても捨て札になっても、何度でも蘇らせて戦わせることができる。
これがフォルティオスデッキでなかったら、数でパワーを削られて押し切られていたと思う。
こちらも順調に仲間を増やしているから、攻撃力も防御力ももう2000。ちょっとやそっとの敵では倒せない。
「良いパートナーを得て、強くなっているな。お前の成長は、私にとっても帝国にとっても、とても喜ばしい事だ」
ディアドラさんは静かに微笑しながら、指を鳴らす。それは特殊能力発動の演出。
また、捨て札置き場からキャラクターが召喚される。
「だが、お前はここでどう出る?」
「え?」
「うそっ!」
墓地から召喚されたのは、オクルスさんだった。
しかも二段階目。アンデッドデッキではアイコンが合わないので、通常なら出る事はない。
でも、アンデッドとしてなら、そのまま呼び出せるということらしい。
これは、反則だ。
『アナザーワールド』では、同名のキャラクターは、そのバトルフィールドに一人しか出せないルールだ。
キリアンさんの場にオクルスさんがいると、こちらはオクルスさんを出せないことになる。
『そこでモノウイング!? 一段目いらんの強すぎる』
『先に出してレディM側のオクルス封じたか~』
『でもさ、もっと他にも強いキャラいるやろ? なんでわざわざモノウイング?』
「行け。オクルス」
ネクロマイスターである彼女は、アンデッドの攻撃、防御コストを代わりに支払うことができる。
そして呼び出された時点でオクルスさんはアンデッドとして扱われる。
「マスター。頼む。オクルスの攻撃は、そのまま受けてくれ」
「でも!」
「先生は、アンデッドの力を瞬間的に高める事ができる。今の状態だと、返り討ちになる可能性がある」
パワー1枚支払うごとに、攻撃力を100上げられるのだそうだ。
確かに全部使われたらぎりぎり競り負ける可能性もあるかも。
「解った」
直接攻撃されて、かなりのダメージは受けたけれど、なんとかしのいだ。
でも、次のターンに起死回生の何かができなければ、また押し切られる可能性がある。
ディアドラさんにたくさんのパワーが付いて、ターンが終了した。
あれ? オクルスさんはパワーなしで放置?
アンデッドだからパワーなしでも攻撃できるから、捨て駒であることを考えるとパワーなしはあり、だけど。
『あれ、オクルスにパワー付けないの?』
『夜泣き鶯らしくないプレミだな。わざわざ嫌がらせにモノウイング選んだんじゃなかったのか?』
『追い詰められてからのレディMは侮れないぞ』
私にターンが移った時、私は何となく『解った』気がした。
ディアドラさんの、伝えたかったこと、が。
手元に残していたカードを翻す。
「そちらのオクルスさんにコンタクト! こちらに取り返します!」
「!」
『ほら、盗られた』
『取り戻した、ともいう。元々握ってたんやろし』
パワーを与えられていないキャラクターは、敵の場であっても、コンタクトして味方にできる。横取りコンタクト。
それはネームを持つキャラクターであっても、条件が整っていれば可能だ。
二段目のコンタクト条件は『オクルス』のみコンタクト可能。
アンデッドとして場に立っていたオクルスさんは、本来の姿に戻ってフォルティオスの横に立つ。
ふっ、と、ディアドラさんが微笑したように見えた。
もしかしたら、キリアンさんも。
「あと、オクルスさんに護りの勾玉をセットします」
護りの勾玉は天華のアイテムカード。文字通り、守りに使うコストを1下げてくれる。
これで、オクルスさんは敵のアンデッドからの攻撃を0コストで止める事が可能。
そしてオクルスさんはパワー0のキャラクターからのダメージを受けない能力者だから。
アンデッドの波状攻撃は完封できる。
雄太が持たせてくれた秘密兵器、その1だ。
「俺も使うから解るけど、攻撃力の高いアンデッドやキャラクターを使い捨てにするデッキは、キャラクターにパワーを付けない事が多い。だからオクルスがこれ付けて立てば敵は殆ど止まる。役に立つ筈だ」
って。デッキに入れる時、雄太がそう言っていた。
そして、最後にもう一つ。
「氷雪公、ウェントウス・フォン・アインツレイドをコンタクト。
全てのパワー0のキャラクターの攻撃、防御宣言を無効化します」
特殊能力を持つネクサスのコンタクトカードの一つであるこの人物は、場に登場するだけで効果を発揮する力を持つ。
具体的には、彼の力で弱いキャラクターは凍らされてしまうということなのだろう。自身の戦闘力がそこまで高いわけではないけれど、氷雪公の名にふさわしい能力だ。
『氷雪公www アンデッド軍団まとめて止まった』
『モノウイングに護りの勾玉もありだな。パワーなしのアンデッドは0コストで止められる。使い捨ての弾にもパワー刺さなきゃならんの、地味にきつい』
『前はフォルティオス頼みだったのに、今回は他のカードも仕事してるな』
こっちも雄太がアドバイスしてくれて足したカード。
キリアンさんが肩を竦めてみせたのが解った。
「これは、やられたかな?」
「そのようだ。運と実力を併せ持つ、本当にいい『リンカー』を得たようだ」
その後は、二人にパワーを集めて終了。
ディアドラさんにしかパワーが刺さっていなかったから、他のキャラクターは動くことができなくなった。
次のターン、墓地から持ってきた強めのキャラクターにパワーが刺さったりもしたけど、素の力であれば、終盤のフォルティオスを落とせるキャラはそういない。
最終的には、フォルティオスの攻撃でディアドラさんにとどめを刺すことになった。
自身もアンデッドであるディアドラさんは、自分の能力を自分に全て使って攻撃力を2000まで上げたけど、フォルティオスを崩すことはもう、できない。
「先生……」
「躊躇うな。
お前は『星の救世主』であろう?」
「はい」
振り下ろされた剣の下、ディアドラさんが静かに散って。
初めて、私達はこの異世界フィールドバトルで、勝利を収める事ができたのだった。
『初勝利おめ! ずっと見てたからちょっと嬉しい』
『なして、あそこでプレイミス?>夜泣き鶯』
『だよな。ナハティガルなら横取りされるの解ってただろ』
『まあ、隙はあったけど、そこ拾って勝ちまで持ってったのはレディMだぞ』
『K、マヤヤ、朱炎、ナハティガル……これ、ただの対戦企画なのか?』
「……美空」
「うん、解ってる」
私達は、ちゃんと受け取ることができただろうか?
ディアドラさんが渡したかった『思い』を、ちゃんと。
『あ~、俺、なんとなく解ったかも、だ』
『何が?』
『今回のリンカーバトルの意味がさ』
『意味?』
『今回の、だけじゃない。今までのバトルも、そう考えると意味が通じるわ』
『だから、なんだっての?』
『都市伝説の実現、とだけ言っとく。もしかしたら『アナザーワールド』十年目。
何かが大きく動き出そうとしているのかもしれん。
俺も……選ばれたいな』
『配信終了』




