↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
54/71

第54話 『先生』との出会い 後編

 先生。


 フォルティオスが、誰かをそう呼ぶのを聞いたのは初めてのような気がする。

 教育係だというシエロさんや、加奈子さん、鈴音さんも名前呼び。

 教えを乞う相手ではあっても、自分の方が年下であっても。

 立場的には対等か、フォルティオスがちょっと上という印象を受けていた。


「どうして、先生がこちらに? 陛下が術の許可を与えたのは僕だけだと思っていました」

「あの大局の見えていない堅物が、許可など出すわけがなかろう?」

「では……まさか」

「勿論、無断で来たに決まっている。

 心配せずとも、あ奴の濁った眼には区別などつかぬ」

「まさか、他にも?」

「氷雪公と道化師、それから探検家くらいだな。ああ、あとルミには私の代わりに色々と動いて貰っている」

「氷雪公まで、来ておられるんですか……」

「頭の奥底まで固まってしまった奴だ。我らの行動が知れれば、叛意としか取られぬ。

 内密に頼むぞ」

「それは、勿論。『星』と我が身命に賭けて」


 だから、フォルティオスが『先生』と呼び、こんなにも緊張した表情を浮かべ、敬意を持って話すのは、本当に特別な人なのだ、と納得できた。

 白いドレスにも、結い上げた白髪にも飾り気は少なく、白衣を着た医師か研究者のような印象を受ける。先生、と呼ばれるように、何かを修め、導く立場の方なのかもしれない。


 前回の鈴音さんの時は、同じ教導官として気安げだったシエロさん達も、口を挟まず、黙って聞いている。


「背が伸びて、身体も大きくなったが、相変わらず無理をしているな。お前は」


『ディアドラ先生』と呼ばれた女性はフォルティオスに歩み寄り、その白い手を彼の頬に伸ばす。


「子どもの頃から、少しも変わらぬ。

 痛みを噛み殺し、自分の中に押しとどめる。

 その態度に、我々がどれほど心配していたか、幾度言っても理解せぬな」

「すみません」

「そうさせたのは我々だし、お前のその精神が、お前をフォルティオスたらしめたのも解っている。だが」


 白、というより白銀の髪に、血のような紅い瞳と唇が際立つ。

 指先も、まるで蝋細工のように真っ白で血の気がない。

 でも、フォルティオスの顔を確かめるように撫でるその仕草にも、眼差しにも、指先にも、確かな優しさが宿っているのを私は感じていた。


「研究所にアレが回されてきた時には、血の循環など忘れて久しい我でさえ、血の気が引いた。

 自分の身を大事にしろ、と幾度も言ってきた筈だぞ」

「申し訳ありません。あの時は、その……あれ以外にオクルスを助ける方法が見つからなくて……」

「解っている。悪いのはいつもテリオスだ。辛かったであろう?」

「今は、もう平気です。それに、こちらの身は分割体ですから、影響も左程は」

「嘘をつくな」

「! 先生……」


 ぱちん、と小さく、でも確かに頬が鳴る音がした。

 軽い、優しいものだから、多分痛みはない筈。

 でも、フォルティオスには効いているようだ。

 彼女の心配と言葉の意味が、多分、十二分に。


「如何にお前の身が完成されていようとも、使命が叶うまで滅びを知らずとも。

 お前は生者。傷つかぬ訳でも、痛まぬ訳でもないのだ。

 その喜びとありがたみを、もっと知るがいい」

「先生……」

「失ってから理解しても遅いのだ。簡単に取り返しがつくものではないのだぞ」

「……はい。解っています」

「いや。お前は解っておらぬ。もう一度、教育が必要だな。

 フォルティオス。私と試合え」

「先生……でも、それは……」

「私はその為にキリアンに無理を言い、ここにやってきたのだ。

 向こうでは、私は簡単に城には上がれぬし、お前と試合をするどころか、会話することさえ今は禁じられているからな。あの馬鹿のせいで……」


 会話の流れからすると、この女性がいう『馬鹿』って皇帝のことなんじゃないかなって思う。

 そして、この女性は『皇帝』に無断でこちらに来られて、『馬鹿』と言えるような立場を持つ女性。

 更に『星の救世主』の先生でもある訳で。

 帝国の最上位階級の人なのかもしれない。


「返事はどうした? フォルティオス?」

「こちらでの戦闘について、僕には決定権がありません。交渉は、どうか僕の『リンカー』に」

「それもそうか。礼を逸したな」


 フォルティオスの促しに、彼女は私の方へ体を向け、深いカーテシーを捧げてくれた。


「お初にお目にかかる。フォルティオスの『リンカー』。

 我は帝国の研究者、ディアドラ・ディクディム。どうか、お見知りおきを」

「あ。私は北条美空です。ディアドラさんは、フォルティオスの先生、なんですか?」

「先生と呼ばれるのは、正確ではない。

 育ての親、と言いたいところだが、親を名乗る資格もない。あえて言うなら制作管理責任者、というところかと」

「制作……管理」

「酷い言い方であるのは重々承知している。だが、どう言葉を選び、繕っても結果は変わらない。

 フォルティオスという存在が、『星』と人が対インベイダー殲滅の為に造り上げた『星の救世主』であることは」


 フォルティオスが、ぎゅっと唇を噛みしめた。

 今までうすうす感じていたけれど、はっきりとは知られたくなかったのだろう。

 どういう経緯を辿ったかは知らないけれど、「造られた」と言われる程だった、自分の成長過程を。


「『フォルティオス』の誕生過程や、我との関係に疑義あらば、ご説明申し上げるが」

「その辺は、別にいいです。必要な事はフォルティオスに聞きますから」

「ほほう」


 だから、私ははっきりと告げる。別に気にならないわけではないけど、どうしても直ぐに知りたいわけではない。

 聞いていいことなら、いずれフォルティオス自身から聞く。

 聞かれたくない事、知られたくない事なら、別に聞かなくてもいい。


「聞いても聞かなくても同じですから。

 私にとって、フォルティオスが大事な友達で、家族だってことは。私にできる全力で助ける。それも変わりません」

「これはこれは……。予想以上の返事だ」


 微かに目を見開いたディアドラさんは、その表情をそっと緩めて、さらに深いお辞儀をする。

 私に向けて。


「『星』が齎した運命と貴女に、心からの感謝を捧げよう。フォルティオスは良い『リンカー』に恵まれた」

「ありがとう……ございます」


 周囲を見回してみれば、店長さんもマヤヤさんも、シエロさんや加奈子さんも、ホッとしたような表情を浮かべている。

 えっと、とりあえずフォルティオスの先生に、認めて貰ったってこと、なのかな?


「その上で、改めてお願い仕る。フォルティオスと、どうしても一戦交えたく。

 向こうで我とフォルティオスが戦うとなれば、どうあっても事は大きくなり、さらには皇帝の耳にも入る。こちらのシステムが、正に絶好なれば」

「それは、構いませんが、どうして? フォルティオスとディアドラさんは同勢力、つまりは仲間同士、でしょう?」

「仲間同士であればこそ。

 私は、どうしてもフォルティオスに渡さねばならぬものがあるのだ」

「渡さねばならぬもの?」


 フォルティオスの問いに答えを返すことはせず、私に目で問いかけるディアドラさん。

 信念と強い意志の籠った瞳に、返す返事は一つしかない。


「解りました。でも、ここだと目立つので、家に戻ってからでもいいですか?」


 私の返事に、紅い唇の端が嬉しそうに上がった。

 瞳も蕩けるように優しい。


「了解した。感謝申し上げる」

「マヤヤも付き合ったげるから、しっかりね。みっちゃん」

「キリアン。ホテルがキャンセルできるなら、僕の家に。その方が騒ぎにならずに済む」

「解った。甘えさせて貰おう」

「雄太。協力してくれる?」

「ああ」

 そうして、ディアドラさんはフォルティオスを見つめる。

「……先生」


「手加減などするでないぞ。フォルティオス。

 其方が相手にするのは、ネクロマイスター、ディアドラ・ディクディムなのだからな」


 こうして決まった四回目の異世界バトル。

 この戦いは、私にとって初めての、そして忘れられないものとなったのだった。


【極秘チャンネル@アナザーワールド】

『「リンカー」バトルの配信を開始します』

『対戦カード ナハティガル VS レディM』

『パートナーカード ディアドラ・ディクディム & フォルティオス』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。