第52話 先に行く者から愛をこめて
秋トーナメントを制したマヤヤさんが私達の所に戻ってきたのは、表彰式から三十分後のことだった。
私達があれやこれやとネコちゃんのデッキ構築について意見を出し合っていた頃。
「たっだいま~! あれ? なんだか面白そうなことしているね? キリアンも一緒に何してるの?」
けっこうな荷物を抱えて戻ってきたマヤヤさん。後ろには雄太もいた。
「マヤヤさん。優勝おめでとうございます!」
「ありがと。けっこうハードな戦いだったよ。でも、これでとりあえず一安心かな?」
「雄太君も三位とは、頑張ったね」
「はい。でも、あと一歩の所で及びませんでした。まだまだです」
「マヤヤさん以外には全勝だったんでしょ? 凄いよ」
「優勝以外はチャンピオンカーニバルに出られないんだから、三位も一回戦敗退も同じだ」
みんなは褒めてくれるけど、雄太はやっぱり悔しそう。
強くなればなるほど、目指す先は高く厳しくなる。立ち止まったらそこで終わり。
厳しい世界だ。
「まだチャンスはあるよ。確かに成長している自分を信じて、努力を続けるしかないからね」
「はい。あと二回。そのどちらかで必ず!」
「三回、でしょ? っていうか、来月、一番のボーナスステージがあるじゃない」
「え? ボーナスステージ?」
雄太を敗北させたマヤヤさんは、雄太への励ましには口を挟まなかったけれど、重要な情報を教えてくれる。
「そう。女の子にはね。チャンピオンカーニバルへのボーナスステージが年二回あるの。
予選なし、総参加者一〇〇人以内の最短コース。ダブルストーナメントとレディーストーナメント」
「ダブルスですか?」
「そう。レディースは女性のみ、ダブルスは男女混合ペアのみ参加可能なトーナメントね。マヤヤも去年はレディースでチャンピオンカーニバルの資格を取ったよ」
そういえば、随分前に店長さんが女性にはボーナスステージがあるって言っていたっけ。
女性が少ないカードゲーム界隈だから、女性への門戸を広げる為なのだろうけれど。
「みっちゃんと雄太君だったら、ダブルスで十分チャンピオンを狙えると思うなあ」
「レディースに、ダブルス。
もしかして、私にも本当に世界大会参加の可能性があるんでしょうか?」
「僕も君達ならけっこう行けるんじゃないかと思うよ。まあ、その辺の話は後にしよう。
もうすぐ閉場時間になってしまう。
ネコちゃんのデッキをとりあえず形にしないと」
「そうですね。マヤヤさん、雄太。
彼女は根岸都さん。
イベントで知り合った新人さんです。
私と彼女が良くないプレイヤーに絡まれたところを、キリアンさんと店長さんが助けてくれて、今、一緒にデッキ構築をしていたところなんです」
いけないいけない。
つい身内の話になって、ネコちゃんを置いてけぼりにするところだった。
私は二人にネコちゃんを紹介する。
キリアンさんはマヤヤさんと顔見知りみたいだし。
「そっか。なんでキリアンがここにいるのかと思った。
ありがとね、キリアン。
そして、初めまして。ネコちゃん……あれ? もしかして動画によくコメントくれる、フォルティオス推しちゃんかな?」
マヤヤさんは初心者いじめをするような人じゃないし、ユーザーにも優しい。
ネコちゃんもマヤヤさんの動画サイトの常連さんだとは、イベント中にちょっと聞いたけど。
凄いな、マヤヤさん。
登録者数六桁の人気サイトなのに、個別のユーザーさんのことも結構把握している?
「え? あ、はい! そうです。マヤヤさんのチャンネルはいつも楽しく拝見してます! でも、私みたいな一ユーザーのことを覚えててくれたなんて」
「コメントまでくれる女の子はそんなに多くないからね。何々、『アナザーワールド』始めるの?」
「はい。元は生フォルティオスを見られればそれで、ってつもりだったんですけど、お姉様に励まされて。本気で始める事にしました。それで、今、皆さんがデッキの修正案を見てくれていて」
「丁度良かった。先輩。余っている『魔神の目覚め』か『エナジードレイン』はありませんか? メインを『モノウイング オクルス』にするのなら、タッチ色は赤や青よりも緑にしてパワーを飛ばした方が、相性が良さそうだという結論に達しまして」
「エーヘルシトのカードは私が少し出す。だが、ファンタズマのカードは手持ちが少なくてな」
「了解。ま~かせて。新人ちゃんは大事にするのがリンカーの務め。できるかぎり協力するよ!」
「……でも、お姉様からだけじゃなくって、プロフェッサーやキリアンさんからも、けっこうカードを貰ってて。この上マヤヤさんからもなんて、なんか恐れ多くって」
鞄から躊躇いなくカードケースを出したマヤヤさんは、戸惑い気味のネコちゃんの遠慮や弱気を吹き飛ばすように、その背中をポーンと叩く。
「新人ちゃんは、そういうの気にしない!」
明るく輝くような笑顔は、まるで太陽。眩しいくらいだ。
「こういうのは順送りなの。いつか、自分が上達して誰かを助けられるようになったら、助けて貰った分、誰かを助けてあげる。そうやって、カードゲームだけじゃない、世界の輪は続いていくんだよ」
「あ、ありがとうございます!!」
そうしてネコちゃんのファーストデッキは、トップリンカー三人の監修を経て完成した。
エーヘルシトのオクルスさんをメインに、ファンタズマのパワーコントロールも取り入れたデッキ。少し扱いは難しそうだけれど、アイコンを盗られにくいキャラクターで揃えるなどして、事故率が低くなるように工夫されている。
それに、デッキ用に御三方が提供してくれた分だけではなく、周囲のプレイヤーさんも、
「これ、ダブってるから」
「安レアだけど使う?」
「良ければどうぞ」
「あんな馬鹿に負けんなよ」
と、カードをたくさん提供して下さった。
カードを入れる為のストレージボックスをくれた人もいて、ネコちゃんは、感動と嬉しさからかな? ちょっぴりウルウルしてた。
「ありがとうございます! 私、頑張ります! 貰ったカードを無駄にしないで、絶対に強いリンカーになりますから! お姉様やマヤヤさんと肩を並べられるくらいに」
「うんうん。頑張って! みっちゃんの妹分なら、マヤヤの妹分でもあるからね。
応援しちゃう」
そう言ってマヤヤさんは、優勝賞品として貰った新弾のボックスを一箱、どーんとネコちゃんにプレゼントしていた。私も少し分けて貰ったけど、太っ腹。
「え? これは流石に甘えられないですよ」
「いいのいいの。優勝賞品なんて、あぶく銭みたいなものなんだから!
もし、お礼がしたいと思ったら強くなって! いつかマヤヤと対戦してくれると嬉しいな♪」
「はい! 頑張ります!!」
こうしてカードゲーム祭りは、皆とネコちゃんの笑顔で幕を閉じた。
でも、
(「……加奈子。もしかして、あの子……」)
(「そうかもな。アレの本質を見定める直感はファンタズマ並だ」)
(「オクルスが間に合うといいな。彼女となら、気が合いそうだ」)
私の一日も、大会での騒動も、まだ終わってはいなかったのだけれど。




