第50話 新しい出会い達
私に声をかけてくれた根岸都さん。通称ネコさんとの初戦は、私の勝利となった。
これは仕方ない。
相手は初心者用の構築済みデッキだし、同じ黄色のエーヘルシト。
カウンターも強力な除去スペルもないとなれば、フォルティオスに負ける要素はないもの。
早々に場に降り立ったフォルティオスに、むしろネコさんは感動の眼差しを向けていた。
味方のキャラが倒されても、どこかうっとり。
「ああ! 本当にフォルティオスって強くてカッコいいですねえ~」
といった調子だった。
「ありがとうございます! 本当に楽しかったです」
「ネコさん、一人でいらしたんですか?」
「はい。近くに『アナザーワールド』を一緒にやってくれる人はいないので。
部活の友達も、まだカードゲームは少し怖いって言ってました。
私はフォルティオス見たさに突撃してきちゃったんですけど。
でも! 来た甲斐はありました!」
「じゃあ、良ければ一緒に回りませんか? 私も連れがまだトーナメントに参加中で、一人なんです」
「ぜひ!」
私はその後、ネコさんと行動を共にさせて貰って、二人でカードゲーム祭りを満喫した。
声優イベントを覗いてから、物販ブースで少しパックを買い足す。
それからまたフリー対戦スペースに戻って、ネコさんのデッキ構築のお手伝いをした。
私が店長さんや雄太、マヤヤさんにして貰ったみたいに、助けたいな、って思ったのだ。
「ネコさんは、やっぱりエーヘルシトのデッキがいいですか?」
「はい! フォルティオスは無理でも、フォルティオスと同じ勢力で戦いたいです」
「女性戦士よりも、男性の方がいいです?」
「どっちも好きですけど、やっぱり男性の方が萌えますかね。
フォルティオスと関係性があると、より楽しそう。
あと、美空さんのデッキに入っていたモノウイングの天使さん、かっこいいなって思いました!」
「オクルスさ……、オクルスはフォルティオスの副官、って話もあるみたいですよ」
「え? そんなアナザーストーリー、HPに載ってましたか? けっこう読み込んだつもりでしたけど」
「あ~。そんな設定があるみたいだって、噂を聞いただけなんです」
危ない、危ない。
つい、いつもの調子で話してしまうところだった。
ネコさんの話によると、公式のホームページには、そんなにたくさんではないけど『アナザーストーリー』としてキャラの裏話とか、設定が載ってるんだって。フォルティオスの話も何本か。
後で読みに行ってみよう。
「ピピシブにオリジナルの小説やマンガを上げている人もいますから、そんなところから流れてきた話かもしれませんね。でも、いいなあ。そういうの♪」
「じゃあ、オクルスさんメインで組んでみますか? 新弾のカードなので、手に入りやすくもあるでしょうし」
「はい。その方向でお願いします!
私の貰ってきた構築済みデッキもエーヘルシトのなんですが、少しはパーツを使えますか?」
「構築済みデッキは女性キャラがメインですから、使えるカードを残しながら組み替えてみましょうか」
構築済みデッキを分解し、キャラクターカードなどを揃えていく。
雄太や店長さん、マヤヤさんに教えて貰ったとおりに、アイコンや役割を揃えながら。
そうこうしているうちに、フリー卓もだいぶ混み合ってきた。
トーナメントの参加者もだいぶ数が減り、ドロップした人たちがフリー卓に流れてきたのだろう。
今は対戦をしていないので、一応、邪魔にならないように端っこの卓にいたつもりなのだけれど。
「おい。ネコ! 邪魔だ。どけ!」
「えっ?」
突然、楽しい雰囲気をぶち壊す怒声が降ってきた。
ビクン! と、本当に子猫のように背中を丸めるネコさん。
恐る恐るといった様子で振り返った、その視線の先には、一人の男性が腕組みをしながら仁王立ちしていた。
「あ……お兄ちゃん」
ネコさんがお兄ちゃん、と呼んだ人物に、私も見覚えがあった。
さっき、一回戦で対戦した人だ。
初心者に威圧をかける馬鹿。
「そもそも、なんでお前がここにいんだよ! お前みたいなうすのろのグズは、『アナザーワールド』やるなって言っておいた筈だ!」
「だって、だって私も『アナザーワールド』やりたかったんだもん! ずっと、ずっと!!」
「だから、俺が家を出たのをいいことに始めやがったのか?
お前みたいなのが近くにいると、俺が楽しめないだろうが!」
「きゃああ!」
「ネコさん!」
馬鹿が腕を引っ張り、ネコさんを椅子から引きずり落とした。
私はとっさに彼女に駆け寄り、助け起こす。
「お前は……」
馬鹿男は、そこでようやく私に気付いたらしい。目を見開くと、嫌な笑みを浮かべた。
「へえ、いい友達ができたみたいじゃん」
なんだか勝ち誇ったように笑った馬鹿は、今度は私に視線を向ける。
……本名は知らないし、HNは覚えてるけど、妹にこんなことをするような相手は馬鹿で十分!
「丁度いいや。あんた。フォルティオスのVF、俺に預けろよ。俺の方が有効に使ってやれる」
「お断りします。お兄さんだとはいえ、妹に、しかも私の友達に乱暴する人に、なんで大事なカードを渡さないといけないんですか!」
まさか、こんなにダイレクトにカードを寄越せと言ってくるなんて思わなかったけど、応じる必要は欠片もない。
私は思いっきり睨みつけてやった。
「お前がフォルティオスを寄越すなら、ネコが『アナザーワールド』をやるのを認めてやってもいい。
友達になったんだろ? 一肌脱いでやるのが友情、ってもんじゃないのか?」
「重ねてお断りします。
渡したって、貴方はネコさんに嫌がらせするでしょうし。
そもそも、ネコさんが『アナザーワールド』をするのに、ううん。何かをするのに、貴方の許可を貰う必要なんてないんですから!」
「美空さん……」
「貴様、下手に出てやればいい気になって……」
どーこが、下手に出ているんだか?
私はネコさんを背中に庇ったまま、思いっきりアカンベェしてやった。
周囲に人が集まってくる。騒ぎを聞きつければ、係の人も止めに来るだろう。
私達は何も悪くない。怒られるのはあっちだ。
でも、頭に血が上ったらしい馬鹿は、そんなことさえ考えられないようだ。
「この! ネコの! 女の分際で!」
「きゃああっ!」
間合いを詰め、殴りかからんとする馬鹿の怒声に、ネコさんが小さな悲鳴と共に身を縮こませた。
もしかしたら、日常的にこの馬鹿兄にこんなことをされているのかもしれない。
私は彼女を庇うように、上から覆いかぶさる。
(「美空!」)
(「フォルティオスは出てきちゃダメ!」)
私は心の中で呼びかけた。
この場でフォルティオスが出てきたら、とんでもない騒動になる。
叩かれるか、蹴られるか。
どちらにしても、手を上げたらあちらが加害者だ。スタッフに言えば、追い出して貰えるだろう。
だったら、一発喰らうくらいは。
そんなことを思って、私は覚悟と共に目を閉じた。
でも、想像していた衝撃はやってこず。
「Schluss damit!」
硬く、鋭い声が耳に落ちた。
そっと目を開け、見上げれば、大きな背中。
私達と馬鹿の間を、遮るようにそれは聳えていた。
「Du bist eine Schande für uns Spieler!」
飛びかかってきた馬鹿の手を捻り上げた、ダークブラウンの髪の男性は、軽く足を払うと馬鹿を床に転がした。
それから、私達に振り返り視線を向ける。
「大丈夫か?」
「え? 日本語?」
振り返ったその紫水晶の瞳は、息を呑むほどに綺麗で、優しかった。




