第49話 真っすぐな眼差し
トレーディングカードゲーム『アナザーワールド』。
秋トーナメント第二回戦。
「負けました。ありがとうございます」
「ありがとうございました」
私は、あっさりと敗北。二回戦敗退となった。
「事故ってたみたいですね。噂のフォルティオスを見てみたかったような。でも、出てたら多分、負けていたような」
白、ネクサスのデッキを使う対戦相手さんは、そう言って苦笑していた。
そう。敗北の原因は、フォルティオスが手札に来なかったこと。
オクルスさんの方はなんとか来てくれたのだけれど、軽さと速さが主な特徴である白デッキを抑えきれなかったのだ。
(「本当に良かったのかい? 僕が前に出なくって」)
「うん。私、本当にフォルティオスに頼りきりだったって、身に染みた。
勉強になったよ。デッキの作り方も、なるべく早くフォルティオスを引く方法も、もっとよく考えて工夫しなくっちゃ」
第一回戦の対戦で、私は一つ、気付いたことがあった。
「フォルティオスって、今までの対戦でいつも初手に来てくれていたけど、あれってフォルティオスの特殊能力だったりするの?」
(「違う、と言ったら嘘になるね。パートナーカードを呼び出すのは、僕というより、パートナーを持つ『リンカー』の力だけど」)
リンクした相手に、パートナーカードは呼応するという。
今まで、全ての対戦でフォルティオスが初手に手札に来てくれたのは、多分、そのせい、というか、おかげだったのだろう。
でも、それはある種の積み込みに近いズルかもしれないと、私は思ったのだ。
「これからの対戦、よほどのことがない限り、無理に前に出てこなくていいよ。いかにフォルティオスを早く、確実に引くかも、デッキ構築や実力だと思うから」
(「解った」)
そんな会話を対戦前にした。そして、結果は敗北。
私に優勝の実力がないことは解っていたけれど、やっぱり悔しくはある。
でも、これは誰でも体験することなのだ。デッキ事故とか、引き運とか。カードゲームをする以上、どうしても避けられない。
だから、私も自分の力でなんとかできるようにならないと。
「さーて、これからどうしようかな?」
二回戦敗退。そのままドロップして、私はフリーになった。
マヤヤさんと雄太はまだ勝ち上がっている。店長さんは買い物か、フリー対戦か、トレードか。人混みの中では、ちょっと探せない。
お昼も過ぎたし、外に出て何か食べてから買い物しようかな。それとも、フリー対戦卓に行こうかな。
そんなこれからのことを考えていた時。
「あ、あの! すみません!!!」
「はい?」
背後から声をかけられて、私は振り返った。
そこには一人の女の子が、手にデッキケースを持って立っている。
女の子、と言っても、多分十五歳くらいだ。
私とそう変わらない。でも、多分、年下かな、と感じる。
ストレートの短いボブ。顔立ちにも幼さがあって。
身長155cmの私よりも少し小さいし、声にも態度にも緊張が見えた。
「もしかして、レディM、さんですか?」
「えっと、多分、はい。そうです」
レディMというのは、異世界オンライン対戦でのハンドルネーム。
自分で登録しないと、デフォルトで男性はミスター、女性はレディに、名前の頭文字が付くのだそうだ。
私はまだ、自分のHNというかプレイヤー名を付けていない。さっきの対戦もレディMで登録。今日のイベントが終わったら、ちゃんと考えようと思っているけれど。
「あの! 私、根岸都といいます」
「あ、北条美空です。ご丁寧に」
ペコっと丁寧に頭を下げてくれる女の子につられて、つい本名を名乗っちゃった。
まあ、相手は女の子だし。
「私、さっき初心者講習会を終えたばっかりの超完全初心者なんですけど、対戦、お願いできませんか? 生フォルティオスが見てみたいんです!」
「いいですよ」
丁度フリーバトルに入ろうと思っていたところだし、タイミングもいい。
私はなんの躊躇いもなく頷く。
「え? ホントに! いいんですか?」
「私も初心者に毛が生えたようなものですけど、それで良ければ!」
「ありがとうございます!!」
私は都さんと一緒に、フリーバトル用のスペースに入った。
数十個のテーブルが並べられたエリアは、自由対戦やトレードに使っていいことになっているらしい。
その一角に席を取り、私はデッキケースを鞄から取り出した。
「対戦の前に、もしよろしければご覧になりますか? フォルティオス」
「本当ですか!?」
「見世物じゃないですけど、多分、彼もいいと言ってくれると思うので」
私はフォルティオスの同意を確認した後、デッキからフォルティオスのカードを取り出す。
パートナーカード、とマヤヤさん達が呼ぶ、私とフォルティオスを繋ぐカードは、VFと呼ばれる全面イラスト、キラ仕様。
カードゲーム界隈のことが何も解らない私でさえ、『すごく綺麗』と解る、別格の存在感がある。
彼女、都さんは、
「ふわああっ~~。こ、これが本物の生フォルティオスなんだあぁ」
それだけ告げると、感極まったような眼差しでカードを見つめていた。
「あ、あの。写真に撮ってもいいですか? 絶対にネットに載せませんし、悪用もしません!
ただ、見て心の支えにするだけですから」
「じゃあ、スリーブから出しましょうか? その方が反射とかなくて、綺麗に撮れますよね」
「いいんですか? ホントに!」
私は頷いて、そっとスリーブからカードを取り出す。
彼女は震える手で一枚だけ、カシャッとシャッターを切ると、カードを私に返してくれた。
「ありがとうございます」
「一枚だけでいいんですか?」
「はい。これは待ち受けにして、部屋に飾って、家宝として大事にします。
私、フォルティオスのことが、ずっと、ずっと好きだったんです」
スマホを胸に抱きしめ、微笑む都さん。
あ、なんだかフォルティオスも照れてるみたい。
「でも、十年前に二回しか出なかったカードで、PVやアナザーストーリーで取り上げられている割に、グッズ展開とかが凄く少なくて。
実物のカードを見るどころか、手元にアイテムを置くことさえ難しくて。
だから、今回のVF実装はとっても嬉しくて、泣いちゃいました」
「私が引いたこと、嫌だったりしませんか?」
ちょっと気になったんだけど、都さんはぶんぶん、と勢いよく首を横に振った。
「とんでもない!
フォルティオスをこうしてまた表に出してくれたこと、すっごい嬉しいです。
それに、下手にコレクターさんとかに引かれてたら、ケースの中に入れられて、私達の目には絶対に触れなかったでしょうけれど、こうしてカードとして使って頂けることで、彼も戦士として、救世主として本望というか、嬉しいと思いますから!」
「ありがとう、ございます」
胸の中に、暖かい光が灯ったようだった。
フォルティオスは愛されている。こうして愛してくれる人がいる。
それが、なんだか、我がことのように嬉しい。
「それじゃあ、対戦してみますか?」
「はい。お願いします。あ、でも私、本当にドが付く初心者で、これも初心者用構築済みデッキそのままなんですけど」
「そちらがカードの性能差とか、気にしないで頂けるならぜひ。
もし、これから長く『アナザーワールド』をやって下さるのなら、私も教えて貰ったデッキ構築のコツとか、お話しできるかもですし」
「ぜひ、お願いします! 私の周りにカードを教えてくれる人、全くいなくって。
これが初心者講習会を除くと、初対戦なんです!」
「そんな大事な対戦をさせて頂けるなんて光栄です。よろしくお願いしますね。都さん」
「あ、私のことは、良ければ『ネコ』って呼んで下さい。私のあだ名で、ネットでのHNも同じです」
「ねぎしみやこ、さん、ですもんね」
「はい。ついでに、名前も都で『みゃー』なので」
「じゃあ、私のことも、どうぞ美空と」
「ありがとうございます。じゃあ、美空さん。よろしくお願いします!」
真っすぐに、大好きなモノを見つめる瞳。
初めての世界に足を踏み入れる興奮と感動。
私も雄太との初対戦の時、こんな目をしていたのかな?
(「フォルティオス。今回は早く来ても大丈夫だから。かっこいいところ、見せてあげて」)
(「了解。ちょっと照れるけど」)
そうして、私達は対戦を始めた。
大好きで楽しい『アナザーワールド』を。




