第48話 初めての全国大会
池袋サンシャインシティの文化会館の4階。
ワンフロアを借り切って、カードゲーム祭りは開催されていた。
「うわ~。たくさんの人ですね。列も凄い」
「君はあまりゲームやアニメのイベントとかに参加したことがなかった系かな?」
「はい。イベント、っていうのに参加するのも今回が初めてで」
「風ちゃんの妹なのに?」
「お姉ちゃんが嫌がっていたのか、あんまりゲームイベントとか教えてくれなかったんですよ。家でカードゲームをすることも、見せてくれることも全然ありませんでしたし」
コンピューターゲーム系は小さい頃から、けっこう身近だった。
お父さんはイラストレーター兼ゲームデザイナーだったから、話題のゲームはけっこうやらせて貰ったと思う。
ただ、逆にそのせいで、一つの作品やキャラクターに嵌るってことがあんまりなかった気がする。
なので、こういうイベントは本当に初めてだ。
「じゃあ、僕はのんびり一般参加するから、皆は頑張って」
「はい。店長さんもお気をつけて」
そう言って、店長さんは待機列の最後尾へと向かった。
「『アナザーワールド』ブースのメインイベントは秋トーナメントだけど、他にも声優ショーや、初心者講習会、フリーバトルとかもあるから、京ちゃんは京ちゃんで楽しむと思う。だから、こっちはこっちで頑張ろう!」
「はい」
私達大会参加者は、招待状を見せることで別受付から中に入れる。
ちょっとドキドキした。背徳感、じゃなくって、優越感とも違う。
なんとも言えない感覚と共に、私達は中に入り、大会会場へと誘導された。
中には既に100人くらいの人が集まってる。
女性は、ほぼいない。私とマヤヤさん以外は、いないのかな?
カードゲームの大会はスイスドロー形式になることが多いけど、今回は秋トーナメントの名の通り、完全なトーナメント制。一度負けたら脱落の厳しい勝負だ。
「いきなり一回戦でマヤヤさんや、雄太と当たりませんように……」
受付を終えると、祈るような気持ちで私は組み合わせ発表を待った。
幸い、私とマヤヤさんはAブロックとBブロックに完全に分かれ、雄太とマヤヤさんは同じBブロックでも端と端くらいに離れたので、準決勝くらいまでは当たらずに済みそう。
良かった。
「それじゃあ、お互い頑張ろうね!」
「はい! マヤヤさんも頑張って下さい!」
颯爽とした足取りでマヤヤさんは自分のブロックに向かい、雄太も私に声をかける。
「いいか。
おどおどすんなよ。初心者の弱気に付け込む馬鹿もいるからな。
もしヤバいことされたり、解らないこととかあったら、直ぐにジャッジに言え」
「うん。解った。ありがとう。精一杯頑張るから」
私がそう言うと、雄太は小さく手を振って去って行った。
私も自分の対戦席に向かう。
「えっと、私の席は……」
指定された席について暫し。私の前に来た対戦相手は、開口一番、
「なんだ。女かよ」
そんな言葉を吐き出すようにぶつけて来た。
年の頃は私達に近いか、少し年上の印象。
細身で長身、ショートカット。
特に特徴のある容姿ではないけれど、目が少し嫌な感じだった。
私を女だからという理由で見下しているのが解る。
今までの対戦者にはあんまりいなかったタイプだ。
雄太が言ってた『初心者の弱気に付け込む馬鹿』って感じ。
思っても口に出すものじゃないんだよ。そういうことは。
「マヤヤみたいのはともかく、女が増えるとレベルが下がるから嫌なんだよ。
まあ、勝ちを貰ったと思って勘弁してやるけどさ」
ゆらりと、私の背筋に冷たいものが奔る。
首の後ろがぞわぞわっと、粟立つ感じがした。
怒気を孕んだフォルティオスの気配だ。
(「大丈夫、大丈夫だから心配しないで」)
私が必死で宥めたから、抜き身の刃のような怒りは鎮めてくれたようだけれど、まだ許した訳ではなさそうだ。
(「美空。遠慮しないで潰してやって欲しい。大丈夫だ。このデッキなら負けはしない」)
(「フォルティオス、相手のデッキが解るの?」)
(「勢力の気配くらいならね。この男のデッキはインベイダー速攻型だ。僕の得意分野だよ」)
(「ダメ。それ以上はズルだから言わないで!」)
フォルティオスとリンクしているというだけでも、十分にチートなのだ。
普通の対戦では甘えちゃいけない。
私の気持ちを理解してくれたフォルティオスは、そのまま静かに気配を消してくれたけれど、いざ対戦を開始してみれば、手札の中にはしっかりフォルティオスがいる。
相当怒ってるな、これ。
「よろしくお願いします」
対戦開始の挨拶にも鷹揚に頷くだけだった対戦相手は、でも、数ターンで顔色を変えることになる。
「コンタクトします。『星の救世主 フォルティオス』」
「なっ! そんなバカな! マジもんのフォルティオス?」
周囲の視線が一斉に私に集まるけど、とりあえず気にしないフリ。
「ジャッジ! これ、偽物だろ?」
「いいえ。公式から使用を認める裁定が出ていますので、問題ありません」
「そんな……フォルティオスの新規VFを初心者JKが引いたって噂、マジだったのかよ」
また周囲がざわりと揺れる。
「え? この子が『レディM』?」
「VFフォルティオス、対戦に使うってホントだったんだ」
左右の卓のプレイヤーまで、明らかに手を止めて私達の対戦を見ていた。
多分、正確には、私の場のフォルティオスを見ていたんだろうけど。
彼のデッキは、多分アンドロイド系のインベイダー速攻デッキ。耐久力が低い子をコメット爆弾などで流し、補給線を絶ってから軽いコンタクトの速攻で場を蹂躙するタイプ。
でも、数に頼るデッキは、本当にフォルティオスにとってはカモなのだ。
早々に、私の場にはフォルティオスとオクルスさんが並んだし。
インベイダーは攻撃力と引き換えに、防御力と最大行動回数が低い。
それをネームキャラクターの特殊能力で動かして場を蹂躙するデッキだったようだけれど、パワーを持たないキャラの特攻はオクルスさんが止めてくれるし、場を壊すような大きなスペルだけカウンターすれば、後はもうフォルティオスの独壇場だ。
あっという間に相手の盤面が崩壊して、勝敗は決まった。
「ダメージ十点。終了ですね」
「お前。ズルしただろ! でなければ、デッキに一枚しかないカードがそんなに早く出る訳がない!」
「してません。最初にお互いのデッキをシャッフルしたんですから、解る筈です。
ジャッジを呼びますか?」
「くそっ!」
勝敗の確認が終わると、彼は終了の挨拶もなく席を立ち、去って行った。
本当はフォルティオスが自分から来てくれたんだけど、一切のカード操作はしていないし、ズルではないと思う。
ふう、と息を吐くと、周囲からパチパチパチ、と拍手の音が聞こえる。
やっぱり彼の態度は、傍から見ても良いものではなかったのだろう。
「ナイスバトル!」
「いいもん、見せて貰ったよ」
よかった、と思う。彼のような態度がデフォルトだったらどうしようかと思った。
少し安心。
言いがかりにもちゃんとした態度で臨めば、見てくれる人、味方になってくれる人はいるということも、ちゃんと解ったから。
フォルティオスの怒りも解けたようだ。
かくして、私の本選初対戦は無事終了した。
トーナメント優勝までの試合回数は七回。
頂上までの道のりはまだまだ遠い。




