第44話 帝国という国
新しいカードを整理しながら、デッキの調整や準備をする。
もうすぐ秋トーナメント。
久々の東京だ。
あ、今更ではあるのだけれど、私達が住んでいるのは北関東と言われる某県の中堅都市。
東京駅から快速で一時間ほど。県庁所在地なので、普通に生活する上で不便は何もない。
だから、割と出不精な私は、東京に行くことも年に数回くらいだった。
ましてや池袋なんて、どのくらいぶりだろう。
クラスの友達には毎週遊びに行く人もいるけれど、私は夏休みにちょっと遊びに出て以来だ。
少し、おめかしというか、恥ずかしくない格好はしていこう。
「東京、というのはこの国の首都だ、と言っていたね。美空」
「うん、そう。
この間のデートの時には駅前に驚いてもらったけど、東京はもっと凄いよ。
人も、お店もね。きっとビックリすると思う」
秋トーナメントの会場はサンシャインシティ。あそこには、ここよりももっと大きいプラネタリウムもあるし、水族館も遊園地もある。
トーナメントが終わったら、この間の約束の続きで遊ぶのも悪くないと思う。
「そうなのか。
そう言えば、向こうで真奈香と会った時、彼女はニューヨーク、という街にいると言っていた。とても賑やかな所なんだって?」
「うん。私も一度しか行ったことはないけど、アメリカは日本とはまた全然方向性が違う国だから」
お姉ちゃんの結婚式はこちらでやったけれど、アンドリューお義兄さんのご両親は来られなかった。
だから、ゴールデンウィークに合わせてお姉ちゃん達が向こうに引っ越した時、私も呼んでもらって、ご挨拶してきたのだ。
とても気さくで優しい方達で、ホームステイみたいにして仲良く過ごさせてもらった。
お義兄さんはフォジオンエンターテイメントのアメリカ支店の社員で、幹部育成の一環として日本に赴任し、お姉ちゃんと知り合った。
いわゆる職場結婚だ。研修と実務経験を終えて本国に戻ったので、多分、マヤヤさんが言った通り、お姉ちゃんが日本に戻ってくる可能性はあまりない。
今どきは、打ち合わせとかが必要ならオンラインで大体何とかなるしね。
「向こうの世界は、どう? エーヘルシト。帝国は中世だって聞いたけど」
「帝国以外はこちらとそんなに変わらないよ。
天華の領域もネクサスの領域も、大半がここと似たような感じだ。ファンタズマだって、そこまで未開の地ってわけでもないし」
「フォルティオスは各勢力の領域にけっこう行くんだね?」
「インベイダーが出て、要請があれば、どこにでも」
普通の人間が他勢力の領域に行く時には面倒な手続きがあるらしいけれど、フォルティオスは基本フリーパスなんだって。能力者だけが使用できる転移ゲートを使って、呼ばれた所に行って戦うのが主な仕事だと笑う。
「仕事が終わったら直ぐに戻れ、と言われているけれど、どの勢力も事後処理が終われば少し時間をくれるからね。各領域の名所とかを見て回るのは、数少ない楽しみかな」
「いいなあ。私は東京が精一杯。後は、アメリカに行った時以外は、修学旅行で京都と北海道に行ったくらいだよ」
勿論、仕事だし、話の内容を聞くに楽しいことばかりでもなさそうだけど、明るく流しておく。
「帝国は完全に中世なの?」
「そうだね。電気もないし、水道もない。
そもそも食生活もあんまり重視されていないんだ。住民の二割、支配階級の半数がアンデッドだから」
「アンデッド!」
思わず声が出た。
私達にとって、アンデッドというとどうしてもホラー映画のイメージが強いけど、アンデッドが普通に国の一員というか、逆に要職についているというのが想像つかない。
「特に優秀な人物の中から選ばれた者は、死後、特別な術式を受けてアンデッドになる。
基本的には生前と全く同じらしいよ。能力者は能力も生前とほぼ変わらず使える。
そして、肉体が激しく損傷するか、魂が喪われない限りは永遠に生きられる。
ただ、新陳代謝が全くなくなるから、飲食が必要なくなる。お酒も特殊な加工をしたものでないと酔えないって」
だから、食文化が育たないんだ、というフォルティオス。
育ち盛りの男の子に、それは可哀相すぎる。
「兵士も大半がアンデッドだけど、こっちは命令を聞くだけの、ほぼ人形かな。
肉体が喪われるまで戦い続けるから、集団戦闘だと圧倒的に強い。ただ、それ以上の物量には弱いから、インベイダーには苦慮していたみたいだ」
敵勢力の能力者を捕まえてアンデッドにするなんてこともしていたので、他の四勢力からは帝国はかなり嫌われているという。インベイダー対策の為に、今は一時的に手を組んでいるらしいけれど。
シエロさんや加奈子さん、鈴音さんが『帝国』に対する不平不満を隠そうとしないのは、教え子であるフォルティオスをぞんざいに扱うこと以外にも、そんな根深い闇があるからなのかもしれない。
「帝国から出るってできないの?」
シエロさんや加奈子さんが、フォルティオスに何度もこっちに来い、と露骨な勧誘をかけていたのを知っている。
給料なし、休みなしのブラック職場は、見限っちゃってもいいんじゃないかと思うのだけど。
でも。
「あちらこちらに迷惑がかかるからね。十八歳になって成人の儀が終わるまでは様子見かな」
そうできない事情もありそうだ。
完全な部外者の私には、まだ口出しする権利はない。
なら、せめてこっちにいる間は、息抜きして楽しませてあげよう。
「じゃあ、秋トーナメントが終わったら、またデートしてね」
「君が誘ってくれるなら喜んで」
それから、フォルティオスと相談して新しいデッキを組んだ。
メインがフォルティオス。
タッチが赤のカウンター型で、とにかくフォルティオスを守るのは変更なし。
その代わり、今回はフォルティオスをサポートするネームキャラクターを入れてみた。
具体的にはオクルスさんだ。
フォルティオスの攻撃を確実に通す為の露払い役をお願いする形。フォルティオスは一枚しか入らないので、その分、オクルスさんの一段目を三枚、二段目を二枚入れている。
いざという時には、彼に前に立ってもらうこともあるかもしれない。
「こっちでオクルスと肩を並べて戦えるのは嬉しいかな」
フォルティオスは彼のカードを見て、嬉しそうに目を細めていた。
そんなこんなで、準備や学校などに忙しく過ごしているうちに、マヤヤさんからのLIINが届く。
『やっほー! 明日、そっちに行くよ~。また泊めてくれるかな~?』
『オッケーです!』
秋トーナメント前々日のことだった。




