第42話 新しい仲間と異世界の謎
秋トーナメントの予選が終わり、少し静かになった私達の日常に、小さなイベントがやってきた。
「『アナザーワールド』の新弾エキスパンションが発売されるよ。
買うかい?」
「はい!」
「勿論です」
「解った。一箱ずつ確保しておいてあげる。後はカードゲーム祭りの会場で買うといい。
購入特典でプロモがつくこともあるし」
「ありがとうございます」
待ちに待ったその日、店長さんは約束通り、学校帰りの私達に、まだシュリンクのかかった真新しい箱を渡してくれた。
「新しいカードと出会うって、なんだかドキドキするね」
「そうだな」
店の奥でテーブルを借り、私達は早速、開封ショーを始める。
お店では気配を消していても目立つので、フォルティオスはカードのまま。
でも、こちらの様子は解るらしいので、一緒に見て貰う。
「今回の新エキスパンションのタイトルは『星海の落とし子』。
その名の通り、『天使』がフィーチャーされているみたいだね」
店長さんも自分用のボックスを剥いている。
数箱分。
そもそもの資本力が違うし、店にもある程度シングルを出さないといけないから仕方ないとは思うけど、大人買いは羨ましい。
今日は同じように新弾を楽しみにしていた人達が集まって、テーブルごとにパックを開封していた。
当たった、外れたと悲喜こもごも。
でも、みんなとても楽しそうだ。
新しいパックを開ける瞬間って、何とも言えない快感があるよね。
『アナザーワールド』は美麗なイラストが売りでもあるから、テーブルの上は色とりどりの花が咲いたよう。
「お、VF出た。……普通のだな。ネクサスだけど」
(「早乙女明日香。天使との混血少女だよ。空を飛ぶのが得意で素早い。攻撃が当てづらいって聞いた。直接の知り合いではないけれど」)
先制攻撃と幻惑の特殊能力を持つ、今回のメインビジュアルキャラクターの一人だ。
能力も強いし、イラストも綺麗だし、多分、引きとしては大当たり。
でも、雄太の声には少し残念そうな色が滲む。
VFが当たったのは素直に嬉しいけど、雄太は多分、パートナーカードの出現を期待したのだ。
解る気はする。
「雄太君。早乙女明日香のVFなら一万五千円で買い取るよ」
「あ~、少し考えます。その時はよろしく」
「了解」
凄いなあ。VF一枚で元が取れるどころか、儲けが出ちゃうんだ。
人気カードゲーム界隈ってホントに怖い。
フォルティオスの一件で解っていた事ではあるけれど。
あ、インベイダーの天使司令官が出た。
『大天使 ルシフェル』だって。
淡い色合いで描かれた天使を見ていると、ふと不思議に思った。
「そういえば、『アナザーワールド』の宗教観ってどうなってるんですかね?」
「宗教観?」
店長さんは首をかしげて見せる。
ソルシアは西洋魔術系だから、そっち方面には造詣が深いんじゃないかと思ったのだけれど。
「ほら、天使って元は聖書が由来じゃないですか?
でも、『アナザーワールド』に『聖書』とか、特定の宗教ってないですよね?」
(「ないな」)
そう答えてくれたのはシエロさんだ。
テレパシー的な声が頭の中に響いてくる。私と店長さんに聞こえているのは確かだけど、雄太には聞こえていないっぽい。
私にはフォルティオスが中継してくれているようだから仕方ないけど、話の進め方には注意しよう。
(「あえて言うのなら、大地を守ろうとする大いなる意志を『星』と呼称し、尊重する。
ただ、その捉え方は各勢力で様々だ。
初代の『救世主』の生誕を記念した『クリスマス』はこちらと近いものがあるし、ハロウィンも、バレンタインデーも祭事として存在する」)
(「『天華』には国生みの伝説があり、神社仏閣などもこちらと同様にあるけれど、そこで祀られている存在は皆、『偉大な能力者』として崇められている。
だから、こちらと同じ意味で人を救う『神』は存在しないと思うんだ」)
フォルティオスはそう囁く。
確かに天華のカードには、日本や中国の仙人や、神話由来のキャラクターも多い。ファンタズマの妖怪系、モンスター系にも、馴染みのある名前があった。
向こうでは、これらは全て『マナの力を扱う能力者』という扱いなわけだ。
「なんていうか、ハロウィンも、カバラも、占星術も、神道も何でもありな上に、宇宙からの侵略者が地球の伝承と同じ名前を持っているのは不思議だなって思って」
「なるほど。それは確かに」
「あと、『アナザーワールド』には共通言語があるんでしょうか? それぞれ違う国の設定なのに、意思の疎通はできているみたいだから」
(「ああ、それはマナの力かな? 共通言語もあるけど、マナを持つ能力者同士は、それぞれ自分の言葉をしゃべっていても、自動的に意思の疎通ができる」)
「インベイダーとも意思の疎通ができているのかな?」
(「できる。普通に。そもそも、奴らが地上に降下してきて我らと対話すること自体が殆どないが」)
考えれば考える程、謎が多い世界だ。
『アナザーワールド』――『アース』は。
(「僕達からしてみると、こちらの世界の方が色々と不思議だけどね。マナは潤沢にあるのに、全然使用せずにこれだけの発展をしているところとか」)
こちらの世界には、向こうから見ると手つかずのマナが存在している。それを私達『リンカー』と共鳴することで、向こうの人達は使用し、力を増強しているというわけだ。
「私達もマナを使って超能力とか使えたらいいのに」
(「それが出来るようになった存在が、貴様ら『リンカー』であろう?」)
「あ、そっか」
以前、お姉ちゃん――公式の人――と話した時に、マヤヤさんが『アナザーワールド』を「超能力と夢の自動販売機」と称したことがあった。
普通の人間が使えない能力を使用できるのも、カードのキャラクターと友達になれるのも、マンガか物語の中の夢でしかなかったのに。
不思議だなあ。
「これが最後のパック。
あ、エーヘルシトの新しいコンタクトカードだ。これってフォルティオスの知り合いだったりするのかな?」
「え? ちょっと見せて!」
ぶわっ! と空気が揺れて、フォルティオスが実体化し、私の手からカードをひったくった。
他のお客さんもいるのに!
気付いた店長さんも青ざめている。
(「こら! 馬鹿者!」)
シエロさんが幻惑術か何かをかけてくれたみたいで、幸い、周囲の人は気付いていない。
「店長さん! すみません。ちょっとお手洗い、お借りします!」
私は慌てて立ち上がると、フォルティオスの手を掴んで、店の奥のバックヤードに駆けこんだ。
「どうしたの? フォルティオス。よりによって店で姿を現すなんて。他のお客さんに知られたら大変だよ」
「すまない。でも、どうしても冷静になれなくて」
「だから、どうして?」
「このカード、僕の友達なんだ」
「友達?」
「どうして、オクルスのカードがここに? まだ、彼と出会って一月にもなっていないというのに」
フォルティオスの手には、エーヘルシトの戦士カードが握られていた。
片目、片翼。
剣を携え、こちらを見つめる天使のカードが。




