第38話 それぞれの課題
対戦を終えた後。
「どうです? フォルティオス。
私が言いたかったこと、解って頂けましたか?」
「鈴音……」
異世界バトルフィールド。
そこで向かい合った反省会のような場で、鈴音さんは、私達にそう問いかけて来た。
多分、なんだけど。
俯くフォルティオスは最初から自分の弱点として指摘された事が何なのか、解っていたんじゃないかなって思う。
聞き返したり、教えてと口にしたりしなかったし。
今も、口を固く閉ざして顔を背けている。
「貴女はどうです? 美空さん」
「なんとなくですが。フォルティオスには背中を預ける仲間が必要だってことですよね?」
「はい。そうです。
繰り返し言っていますが、この子の弱点は一人で抱え込みすぎる事。
星の頂点に立つ力を持つが故に、誰も隣に立たない事なのです」
立てない、ではなく、立たない。
そこに私は、フォルティオスが『アナザーワールドのゲーム』ではない世界で抱える苦悩を感じた気がした。
「フォルティオス。
今、貴方に任せられている戦いの多くは殲滅戦。多数の使い捨て兵をただ焼き払うだけのものでしょう。
でも、インベイダーもいつまでもそんなことを繰り返しては来ないと思います。
むしろ今の単純な襲撃の繰り返しは、こちらの戦力や貴方の能力を計り、対抗手段を練っている段階ではないかと思うのです」
「言っておくが、その推察を検証し、各勢力に伝えたのはソルシアだ。帝国はくだらないと一笑に付したがな」
悔しげに唇を噛みしめるシエロさんに、鈴音さんは静かに微笑む。
侵略者インベイダーVS星の五勢力、というけれど。
帝国と他の四勢力の間には、どうやらかなりの軋轢があるみたい。
「現在は『星』の護りと貴方のおかげで、インベイダーからの直接攻撃は限定的なものですが、それにいつまでも甘えてはいられません。本格的な強襲を前に、如何に対策を立て、準備を行うかが勝利の鍵になるでしょう。
私はこの遊戯も、その演習として意味があることだと考えています。
ですから、よく聞いて欲しいの」
「鈴音……」
「この『アナザーワールド』で、誰かと肩を並べ、共に戦う事を学びなさい。
そして、叶うなら向こうでも背を預けられる友を手に入れるのです」
「みんなは、解っているんだろう? 僕にそんなことは望めないって」
「だから、だ。後は本当にお前が決断するだけなのだぞ」
「でも……」
「奴らが『そうできないように』しているのは知っているが、お前の優しさはいつか命取りになる」
「それでもなお、貴方が今の位置に立ち続けるというのならば、せめて信頼できる者を、友を見つけなさい、と言っています。
貴方の置かれている状況でそのような存在を見つけ出すのは、浜辺の砂の中から星を探すように難しいと解っていますが、『リンカー』に出会えた今なら、その可能性はもう0ではないと私は思います」
「『リンカー』との出会いは、力と幸運を引き寄せる。我々はそれを実感しているからな」
「鈴音、シエロ……」
お二人の心配は解っていても、頷くことができないフォルティオス。
私には彼を雁字搦めに縛る『帝国』の黒い鎖が見えるような気さえした。
給料なし、自由時間なしで十五歳の男の子に従属を強いる『帝国』。
どんな所なのだろう。
そして、どうしてフォルティオスはそこから離脱できないのだろう。
「美空さん」
「あ、はい」
俯き、手を握りしめるだけのフォルティオスに優しいため息をついて、鈴音さんはもう一度私に頭を下げた。
「改めて彼をよろしくお願いします。
私の口から細かい事情を語ることはできませんが、貴方の存在は比喩ではなく、フォルティオスにとって唯一の救いであり、希望なのです」
「どうして、ですか? 『リンカー』というのは、一体……」
「それは、いずれ解る。今はただ、お前は能天気に笑って奴の側にいてやればいい」
「え?」
そこで話は閉じられて、それ以上のことを聞くことはできなかった。
フォルティオスも、鈴音さんも、シエロさんも。
どんなに聞いても語ってくれず。
店長さんや承恩さんも困ったように笑うのみ。
私達の心にいくつもの課題と謎を残し、三回目の異世界バトルは幕を閉じたのだった。
その後、承恩さんは店、というか、店長さんの家に一泊して翌日台湾に帰国したらしい。
私達は平日だから見送りには行けなかったけど。
「今回は締め切りを放り出してきちゃったからさ。早く戻らないと」
って言っていた。
後で検索してみたら、台湾ではかなり人気の漫画家さんなんだって。
「台湾からなら日帰りもできるから、また機会を見て来るよ。
秋トーナメントにはカード祭りもあるから、必ず来る。
その時はまた対戦してくれると嬉しいな」
帰り際、そう言って『反魂の儀』の本物のカードをくれた。
使い勝手が良く、結構高価なレアカードらしいので申し訳ないと思ったけれど、今のフォルティオスデッキには入れたいと思っていたカードなので、ありがたく頂くことにする。
そして、
「君には言っておくけど、トップランカー達の間ではさ、君とフォルティオスに接触を図りたい、できるなら手の中に入れたいっていう連中が順番待ちしているような状態なんだ。
Kとマヤヤがガードしているような感じ? 誰もが僕みたいにフットワーク軽く突貫できる訳でもないし、みんな秋トーナメントや仕事で忙しいから、すぐ来るって訳でもないと思うけど、気を付けて」
「気を付けて、ってどういう意味ですか?」
「僕と鈴音は一応、君の、いや、君達の味方のつもりでいるから。
『友情、努力、勝利』だよ」
そんな激励だか、忠告だか、冗談だか解らないような事も囁いていったけれど、一番肝心な事は教えてくださらなかった。
確かな事はある。
フォルティオスが背負う『星の救世主』、その名と宿命は、私が思う以上に重いものだということ。
そして、今までもフォルティオスの言葉の端々から感じていた『帝国』が、思う以上に闇深そうだということ。
以前、この世界にいるフォルティオスは分割意識で、本体は向こうにいるのだと聞いた気がする。
だとしたら。
この世界で私と彼が笑い合っている間にも、もう一人の彼は『帝国』で孤独に耐えているのだろうか?
ならば、せめて今は、私の側にいる彼の力になれるように頑張ろうと思う。
鈴音さんと約束した通りに、彼を助け、守れるように。
「シエロ。これを。向こうの真奈香からの情報です。この共有が、私の今回の来日における一番の目的でした」
「やはり、か。帝国皇帝の考え方は相変わらず吐き気がする」
「ええ。皇帝はあの子の死を願っています。そして『星の救世主』の力を、本当の意味で独占しようとしているのです」
「加奈子や他の連中にも話をしてみる。
だが、肝心なのはあいつ自身の気持ちだ。見捨てろ、というのはやはりできないだろうな」
「ええ。それがあの子ですから」
「皇帝の目の届かないこちらで動きつつ、作戦を詰めていくとしよう。フォルティオス奪還作戦を、な」




