第37話 救世主の課題
【極秘チャンネル@アナザーワールド】
『「リンカー」バトルの配信を開始します』
『対戦カード 朱炎 VS レディM』
『パートナーカード 進藤鈴音 & フォルティオス』
「最近、極秘チャンネルの開催頻度多いな。前は月一~二回くらいが普通だったのに」
「挑戦者はまたレディM? 最近、この子の対戦ばっか」
「今度の相手は朱炎かよ? トップ勢に目をかけられすぎだろ」
「K、マヤヤ、朱炎って、さすがに待遇が違いすぎる。フォルティオス持ってるだけでこれか」
「レアカード一枚でトップリンカーと連戦できるなら、そりゃズルいって言われるわ」
「秋トーナメント予選もフォルティオスで無双したらしいぞ」
「でもさ、相手が応じなければ対戦はできないんだし、逆に向こうから対戦を申し込まれてるなら、それだけ何かあるんじゃね?」
「今は素人でも、この環境で怪物たちに鍛えられ続けたら、一気に化けそうだ」
「始まるぞ」
異世界での『リンカーバトル』をやることそのものは、実は嫌いじゃない。
むしろ、立体映像のリアルバトルは楽しくさえある。
これで、対戦が配信されてさえいなければなあ、とは思うんだけど、それは言うまい。
『気を反らすなよ、美空! 相手は下手な小細工の利かない天華デッキだぞ!
着実に場を整えるんだ! 赤のキャラクターたちを盗られるな』
「分かった。ありがとう」
ゲーム序盤、私はいつものようにキャラクターを確実に増やし、支配することに専念した。
『天華』は守りに長けた勢力と聞く。実際、上段進化した鈴音さんは耐久力二千にもなる。
フォルティオスが彼女を倒すためには、最低でも場に敵味方合わせて十人のキャラクターが必要になる。
後攻三ターン目でパートナーを出す店長さんやマヤヤさんの展開力に比べると、承恩さんの場の動きはゆっくりだ。
二ターン目に出てきたのは、軽いコンタクトキャラクターと――
「あれ? 鈴音さんじゃない?」
チャージ2を持つ、別のネームキャラクターが一人。
宮地静さん。
メイン以外のネームキャラクターがここで出てくるのはちょっと珍しい――ではなく。
鈴音さんが出てこないからといって、油断はできない。分かってる。
昼に喰らったような大型除去スペルを撃たれたら、一瞬で場が壊滅するのだから、先手必勝でいかないと。
「フォルティオス! お願い!」
「任せて!」
三ターン目の開幕に、私はフォルティオスを出した。
補給線もまずまずの状態にできている。
横取りされないようにパワーを配置しつつ、フォルティオスにカードを集め、盤面を整えた次のターン。
まず最初に使用されたのは、『神託』というスペルカードだった。
このターン、ネームキャラクターをコンタクトした場合、そのコストが手札に戻るというもの。
何それ、ズルい。
そして、満を持して出てきたのは鈴音さんと――
「え?」
またも鈴音さんではない、別のネームキャラクターだった。
「……陽子」
「彼女も知り合い?」
「一応は。天華きっての戦闘力を持つ女性だよ。弱いキャラクターは彼女の前に立ったら、戦う前にその炎に焼かれてしまう」
焔巫女 満樹陽子。
一人一契約のパートナーカードだから、陽子さんがしゃべったりするわけではなかった。
でも――
『ツートップ。
そうだよな。普通にアリだ』
雄太の噛みしめるような声が耳に響く。
「ツートップ?」
『主力が二人いて、互いに補い合いながら戦うデッキだ』
「そんなこと、できるの?」
『いざという時のダメージソース減らしや、パートナーが出せない時の代役にもなる。
事故率は高くなるけど、ちゃんと計算すれば普通にできる。というか、ネームキャラクター一人っていうデッキの方が、普通は珍しいんだ』
「名付けて巫女萌えデッキ。このデッキはツートップ体制でね。加えて、他のネームキャラクターもそれなりに入れてある」
「私には戦闘力があまりありませんので。苦手なところは、友にお願いしていますの」
目を細めて笑う承恩さんの言葉を引き継ぎながら、鈴音さんも静かに微笑んでいる。
既に彼女も二段目。
スペルはもう、簡単には通じない。
私が今まで出会ってきたデッキは、一人のキャラクターを集中して強くするタイプだったけれど、こういうやり方もあるのだと、ちょっぴり目からうろこが落ちた。
どのパワーに何を挿したか覚えておき、コストを無駄にしないようにするとか、欲しいキャラクターが手札に来ない時には臨機応変に戦い方を変えなければならない難しさはあるけれど、確かにこれは有効な方法だ。
「陽子に七支刀をセット。アタック!」
「キャラクターでガード!」
『馬鹿! 止めろ!』
「駄目だ、マスター!」
「あっ!」
ガードを命じたキャラクターが、ボッと火だるまになって燃えてしまった。
そうか。これが陽子さんの特別な能力なんだ。
この間の加奈子さんより、さらに凶悪と言えるかもしれない。
幸い、さすがにパワーの消耗が激しかったようで、攻撃はいったんそこで止んだ。
でも、バランスよくパワーを与えられた向こうは、戦闘準備万端。
次のターンには総攻撃が始まるだろう。
私のターン。とりあえず、減った分を補うため、軽いコンタクトでキャラクターを増やす。
でも、今のままではギリギリ、あと少しのところで防御に長けた天華の守りを崩せない。
スペルはいくつかあるけれど、鈴音さんがいる以上、簡単には通らないだろう。
でも、時間が経てば経つほど、相手の守りは固くなる。
鈴音さんのパワーは二枚。陽子さんは三枚。
一か八か。ここが最後の攻め時なのは間違いない。
『順番が大事だ。ミスるなよ』
「うん。ありがとう、雄太。
行こう! フォルティオス!」
「分かった。マスター」
私は大きく深呼吸して、カードを手に取った。
まずは武器カード『グリフィン』をフォルティオスにセット。
「あら」
「困ったな」
お二人の顔に、わずかな困惑が浮かんだ。
この武器は攻撃力も上がるけれど、一番の特徴は、バトル相手の武器カードを外すことができるというものだから。
「次いで、『フォトンスフィア』。攻撃力プラス二百です」
「それは鈴音の能力で捨て札」
支払ったパワーの数だけ攻撃力が上がるスペルは、捨て札にされた。
「分かりました。では、フォルティオスで攻撃します」
「陽子でガード」
「フォルティオス、大丈夫?」
「心配いらない。僕には、戦闘以外のダメージは入らないから」
フォルティオスの周囲に炎がまとわりついたけれど、言葉どおり効果を発揮することなく消えていった。
ただ、今のままでは耐久力が高い陽子さんには、まだダメージを与えられない。
あと三人、仲間が必要だ。
「『次元ラビリンス』。陽子さんのガードを無効化します」
「それも鈴音の能力で捨て札」
『次元ラビリンス』は効果の高いスペルだけれど、コストが重い。三枚のカードが捨て札置き場へ行く。
コストの無駄に思えるかもしれない。
けれど、これで鈴音さんのパワーを使い切らせた。
「『コープスダンス』! 捨て札から三体のキャラクターを呼び戻して、攻撃力を上げます!」
「これは!」
「やられたな」
陽子さんとフォルティオスの一騎打ちは、なんとかフォルティオスが競り勝った。
陽子さんの姿が、煙のように消えていく。
「よし、やった! ありがとう、フォルティオス!」
「君のおかげだよ、マスター」
ポイントは、鈴音さんの特殊能力を本命ではないスペルに使わせること。そして、パワーに挿したカードの場所を覚えておいたこと。
キャラクターを捨て札に置くことで、陽子さんを撃破するために必要な『コープスダンス』の発動条件を満たしたのだ。
ダメージは増えたけどなんとか、承恩さんのデッキの一角を崩すことができた。
とりあえず、ホッとする。
……まあ、分かってはいるけれど。
ここから先が続かないっていうことは。
「なかなかやるね。やっぱり、君たちは叩きがいがある」
承恩さんの目がはっきりと開かれ、私たちを見据える。
「叩いて、叩いて、鍛えるほどに伸びるタイプだ」
「ええ。だからこそ、今が肝心です。今だからこそ――」
優しげな様子が消え、完全にスイッチが切り替わったように見えた。
お二人とも、なんだか怖い。
「しっかり叩き潰してあげよう。『反魂の儀』」
「きゃああ! なんで陽子さんが、こんなにすぐ戻ってくるの? 酷い!」
「さあ、ここから本気を出すよ!」
結局、私はまたもあっさり叩き潰された。
なんとか一矢報いても、後が続かないのが私のいつもながらの弱点。
そして――
鈴音さんが言った『フォルティオスの弱点』も、なんとなく見えたような気がしたのだった。
「フォルティオス頼みなのは変わらないけど、まあ、確実に上手くなってるかな」
「そりゃあ、トップ勢にあれだけ叩かれりゃあな。上位陣と連戦できるのはズルいと思うけど、この吸収速度を見ると、声をかけられる理由も分からなくはない」
「最初の配信を見返したら、別人みたいだぞ。もう完全な初心者ではないだろ」
「Kとマヤヤと朱炎に鍛えられるとか、数か月後には本当に手がつけられなくなりそう」
「強カード頼りの素人だ、って笑っていられるのも、きっと今のうちだけ」
「次の課題はフォルティオス以外にも、信頼して任せられる相方の選択かもな」
「負けたけど、今までで一番、先が楽しみな対戦だった」
『まったく、あいつは相も変わらず』
『気になるか?』
『それは、まあな。私は奴の生みの親のようなものだし。
私が言うことでないが、あいつはいつまでも帝国にいるべきではない』
『やっぱり、私たちも行くしかないようだな。日本へ』
【配信終了】




