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第36話 保護者達の思い

 閉店後の夜八時。


「そんじゃま、改めて自己紹介させて貰おうか。李承恩だよ。フォルティオスと、その『リンカー』&ナイト君。

 こっちは僕のパートナー、『進藤鈴音』だ」

「初めまして。フォルティオスのマスター様。

 私は進藤鈴音と申します。『天華』の極東エリアで、束ね役のようなことをさせていただいております」


 周囲に関係者以外がいなくなったのを確認して、承恩さんは改めて、そう自己紹介してくださった。

 店長さんと、シエロさん。そして、分かっていたことだけど、実体化して横に美しい笑顔で佇む巫女さんと共に。


「シエロに鬼姫と来て、今度は進藤鈴音かあ。もしかして、西園寺真奈香やヴィネーラ・コルティフォルスとかも来てたりするんですか? インベイダーの大天使ガブリエルとかは難しいにしても」


 トレーディングカードゲームとしての『アナザーワールド』には、二百人以上のネームを持つキャラクターがいるという。

 その中でも、こちらに来られるのは特に力の強い上位陣だけだとも聞いたけれど。

 今、雄太が告げた名は、シエロさんや鈴音さんと同じく、各勢力を代表するような立場の人らしい。


「帝国の皇帝陛下は、あまり『アナザーワールド』に興味を持っていないんだ。

 だから、こちらに来ている帝国兵は本当にごく僅かだと思う」

「西園寺真奈香のパートナーはアメリカにいる。今年のランキングトップだよ」

「インベイダーをパートナーに持つ『リンカー』とは、お目にかかったことがないなあ。K、知ってる?」

「いや、知らないな。僕は少なくとも会ったことがない」

「『アナザーワールド』との契約術式は、『星』がアースを守るために生み出したものと言われております。ですから、インベイダーはその術式を知らない、もしくは使えないのかもしれませんね。

 まあ、その辺の話はさておき」


 色々と事情がありそうだ。

 腰まで届く真っ直ぐな長髪を揺らして、鈴音さんはそう微笑む。

 完璧で、絵に描いたような美人巫女さん。


「フォルティオス。元気そうで何よりです。

 教導が終わってからというもの、帝国は貴方を囲い込み、要請のない時には外にも出さなくなってしまいましたから。心配していたのですよ」

「ありがとう、鈴音。

 陛下は他勢力を基本的に信用していないからね。

 こちらに来ることの必要性を説得し、許可を貰うまでに本当に時間がかかった」

「貴様の派遣の度に膨大な経費を請求しておいて、切羽詰まるまで手を打とうともせん。全く。

 フォルティオス。お前はいい加減、覚悟を決めるべきだ」

「シエロ。それは今、ここで話すべきことではありませんわ。

 せっかくの機会です。後でゆっくり……」

「私には、お前と話すことなど何もない」

「まったく。貴女はいつもそうなのですから」


 穏やかな鈴音さんの態度とは対照的に、シエロさんの言葉は随分と刺々しい。

 天華はソルシアに対して強い勢力だというから、苦手意識のようなものがあるのかもしれない。

 そんなシエロさんの態度を一瞥してから、鈴音さんは続けた。


「まあ、その辺りの話はおいおい。私も、フォルティオスの扱いに思うところがないわけではありませんから」


 不思議な笑みと共に、鈴音さんは私とフォルティオスへ視線を向けた。

 その静かな眼差しを見ていると、まるで神殿の聖域にいるような気がして、不思議と背筋が伸びる。


「フォルティオスのマスター。彼に救いの手を差し伸べてくださり、ありがとうございます。『アース』の民を代表して、などと私が言える立場ではありませんが、御礼申し上げます」

「あ、いえ。私の方が、いつも彼に助けて貰っていて。でも……『アース』?」

「君達から見た、僕達の世界の総称だよ。君達は『アナザーワールド』と呼んでいるようだけれど」


 アースというのは、英語で『地球』という意味だったはず。

 本当に異世界。パラレルワールドなのだな、と改めて思う。


「彼は子どもの頃から妙に我慢強くて、なかなか人に助けを求めてくれないのです。

 私達は皆、とても心配しているというのに。

 まあ、彼に『救世主』であることを強いる我々に、偉そうなことを言う権利はないのですが」

「鈴音……」


 承恩さんの眼差しが、心配そうに揺れた。


「ありがとう、鈴音。でも、僕は大丈夫だから」

「お前のそういうところを、皆が心配しているのだと知れ。全く。

 少しくらい我が儘を言える、子どもらしい性格であれば、我々の心労も軽くて済むのだが」

「貴方が『良い子』なのに甘えて、皆が望む『救世主』として育つように仕向けてしまった我々が、言えることではないとも分かっているのですが。

 だから、というわけではありませんが――フォルティオスのマスター。いえ、美空さん、でしたか?」

「は、はい!」


 突然話を振られて戸惑う私に、鈴音さんは優しく、本当に優しい笑顔で笑いかけ――


「どうか、彼をよろしくお願いいたします」

「鈴音!」


 私に向かって、深々と頭を下げた。

 慌てた様子のフォルティオス。


「この子は本当に真面目で頑張り屋なのですが、一人で全てを抱え込んでしまうところがあって。シエロの言ではありませんが、私達は本当に心配しているのです。

 それに、ここだけの話ですが、今、彼を抱えている帝国は『星の救世主』を得たのをいいことに、彼をもう、思うさまこき使っていて、私達が抗議しても耳を貸さなくて」


 心配事を連ねる様子は、先生というよりお母さんのようだ。

 フォルティオスが焦るのも分かる。


 お母さんが友達に「この子をよろしく」と頭を下げたような気恥ずかしさなのだろうか?

 少し顔が赤いのも可愛い。


「でも、貴女と出会えたのなら。そして、共にいてくださるのなら、きっと大丈夫。

 お会いして、そう思えました」

「えっと、私が彼のために何ができるか分かりませんが、できる限りのことはしたいと思っています。というか、します。全力で。

 彼は、大事な友達で、家族ですから」

「まあ、打てば響くような良い返事ですね。ますます貴女のことが気に入りました」

「ありがとうございます」

「では、すみませんが、一手お手合わせいただけますか?」

「はい?」


 お手合わせ?

 今までの穏やかな会話から一気にかっ飛んだ展開に、私は少し状況が掴めず、首をかしげてしまった。


「はい。対戦をお願いしたいのです。もちろん、『向こう』での本気のバトルを。

 ああ、彼にはきちんと了承を得ていますので、ご心配は不要ですわ」

「というか、これが一番の来日目的かな?

 僕もKやマヤヤの対戦を見て、うずうずしていたんだ。

 噂の最強カード――『星の救世主』と、本気でやり合いたいってね」


「私と、承恩さんで、本気の、バトル?」


 いや、ちょっと待って。無理。

 さっきだって、手加減して貰っても全然歯が立たなかったのに。

 そんな言葉が喉元まで上がってきたのだけれど――


「フォルティオス。貴方には明確な弱点があります」

「弱点?」

「ええ。自らそれに気づき、改善しなくては、今後、深刻化するインベイダーとの戦いで、遠からず貴方は斃れるでしょう。

 私達も『星の希望』を失います。ですから、貴方と貴方の『リンカー』に、それを理解してほしいのです。受けていただけますね?」


 優しいけれど、決して甘くはない。

 むしろ、揺らぐことのない芯の強さを、私は鈴音さんから感じた。

 フォルティオスを、心から心配する思いも。


 だから。


「分かりました」

「おい、美空!」


 気がつけば、私はそう答えていた。

 教え子を心から心配する鈴音さんの思いを、無下になんてできない。

 雄太は心配そうに私を見るけれど、私が承恩さんの本気のデッキに敵うはずがないのは、最初から分かっている。

 でも、負けから何かを学ぶことが大事だと、フォルティオスは最初の対戦の時に言ってくれた。


 フォルティオスを案じる鈴音さんとの戦いから、何かを学べれば。

 今後の秋トーナメント本選を始めとする『アナザーワールド』の対戦で、フォルティオスの力に頼るだけではない戦い方を、見つけられるかもしれない。


「胸をお借りします」

「ありがとうございます。さすが、フォルティオスの『リンカー』ですね。

 では、後ほど招待をお送りしますから」

「僕も楽しみにしているよ。Kやマヤヤとの対戦で見せた、君達の底力を見せてくれ」


 承恩さんの細い目が、さらに楽しそうに弧を描いた。


「僕も立ち会うよ。

 雄太君。良ければまた、ナビをしてあげるといい」

「分かりました」


【配信準備中】

【極秘チャンネル@アナザーワールド】


『「リンカー」バトルの配信を開始します』

『対戦カード 朱炎 VS レディM』

『パートナーカード 進藤鈴音 & フォルティオス』

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