第34話 三人目の『リンカー』
秋トーナメントの予選が始まった。
店長さんの店に集まった予選参加希望者は、ほぼ定員となる約三十人。
そして、東京で行われる本選に参加できるのは三人だけという、なかなかの狭き門だ。
店舗大会の後、さらに地方予選などが行われる大会もあるけれど、今回はこの予選からそのまま全国大会へ進むのだそうだ。冬に行われる世界大会へ向けて、出場資格を得られるチャンスはもうそう多く残っていない。その資格を狙う人達は、かなり本気で来る大会だという。
その日、大会前のカードショップ『エターナルブルー』は揺れていた。
一人の青年。
彼の登場によって。
『やれやれ。どうして君がここにいるんだい? 承恩』
『そりゃあ、もちろん。フォルティオスと、そのマスター君に会うために決まってるじゃないか!』
陽気な笑顔を浮かべる青年が話しているのは、どうやら日本語ではないようだ。英語でも、多分ない。中国系の言葉のように思えた。
ちなみに、店長さんと彼が交わしている会話は私には分からない。
ただ、フォルティオスが同時通訳してくれたのだ。テレパシーもどきみたいな何かで。
『気をつけて、美空。彼は『リンカー』だ』
「え? パートナーを持つ人だってこと?」
『そう。しかも彼は……』
言い淀むフォルティオスの言葉は聞こえないはずだけれど、隣にいた雄太も絶句している。
「なんで、彼がここに?」
「雄太、知ってるの?」
「李承恩。去年の台湾チャンプで、世界トップテンの一人だ」
「去年じゃなくて、今年も、だよ~。一応、春と夏のトーナメントを連覇したからね~」
「……っ!」
自分達の会話を聞き取られて驚いたのだろう。雄太が目を見開いた。
っていうか、日本語をしゃべれるんだ。
雄太が背筋をピンと伸ばすのを見て、店長さんが、はあ、と息を吐き出した。
「他の店員が予約を受けたと聞いた時には、まさかと思ったけど。本当に来るとはね」
それから参加者達を見渡し、改めて青年を紹介する。
「……一応、紹介しておくと、彼は李承恩。
知っている者もいるようだけど、去年と今年の台湾チャンプだ。
席が空いているなら予選に参加したい、と申し込んできた。
申し訳ないが、参加枠が空いている以上、断ることはできない。了承してほしい」
店長さんと同じ黒い髪に、黒い瞳。同じアジア系だから、店の中にいてもそれほど違和感はない。
年の頃は二十代前半、かな?
ジャンパーにスラックス、ロンTというラフないでたちは、エプロンを着けていてもワイシャツにネクタイという、かっちりした服装を崩さない店長さんと並ぶと本当に対照的だ。
「そういうわけで、よろしく!
あ、僕が優勝しても本選出場権もプロモカードも放棄するから、そこは安心して。純粋に、いつもと違うメンバーとバトルしたくなっただけだから」
人好きのする笑顔を浮かべているけれど、参加者達は一斉にざわめいている。
そうだよね。
もし、勝ち上がれる可能性があった人でも、一回戦で彼と当たったら、そのまま負けスタートになっててしまうかもしれないんだもの。
当たりませんように、と祈るように手を組んでいる人だっている。
「じゃあ、試合を始めるよ。スイスドロー五回戦。
本選出場権は上位三名まで。本人も言った通り、承恩が権利圏内に入った場合は、次の順位の者に繰り下げるから」
スイスドローというのは、こういうカードゲームの予選ではメジャーな対戦形式なんだって。
最初はランダムに組み合わせ、その後は勝った者同士、負けた者同士をマッチングしていく。
実力差の大きい相手と何度も当たる可能性を減らし、なおかつ全員が最後まで対戦を楽しめる方式らしい。
最初から雄太や承恩さんと当たったら嫌だなあ、とは思っていたのだけれど。
マッチングをするのが店長さんだからなのか、少なくとも初戦では二人と当たらず、私は全く知らない人と対戦することになった。
いつも店に来る常連さんではないように思う。
大会の時には、予選に参加するためだけに店を訪れる人も多いというから、この人もきっとそうなのだろう。
「よろしくお願いします」
私はカードゲームのマナーどおり、最初に挨拶をして、初めての公式戦に臨んだ。
そして――
「……負けました。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
なぜか、あっさりと勝ってしまった。
初勝利!
相手が軽いコンタクトを次々と並べて数を増やすタイプのインベイダーデッキだったことと、フォルティオスが初手に来てくれたことも幸いした。
ちょっと拍子抜けだったけれど、嬉しい。
だって今まで、鬼がつくほど強いトッププレイヤーとばかり対戦していて、一度もちゃんと勝ったことがなかったんだもの。
「やったよ、フォルティオス! 初めて勝った!」
『うん。いい戦いだったと思うよ。頑張ったね、美空』
「ありがとう。フォルティオスのおかげだよ」
さすがに対戦した相手の前では大喜びできないから、店の隅に移動してから、こっそりとお礼を言う。
今回のデッキはマヤヤさんのアドバイスを受け、フォルティオスを守りながら、味方を増やすことに特化させてみた。
今まで組み込んでいた青から、赤へとタッチ色も変更している。
タッチ色というのは、デッキのメインとなる勢力をサポートする、もう一つの勢力のこと。
呪文などに長けた青も攻撃的で悪くないのだけれど、相手が場を壊す術を使ってきた時、それに対処する手段が乏しい。
なので、とにかくフォルティオスを生かし、守り抜く方向でデッキを構築したのだ。
二戦目は、軽さと速さを武器とする白、ネクサスの速攻デッキ。
三戦目は青、ソルシアの呪殺デッキだったのだけれど、私はその後も、なんとか勝ちを拾うことができた。
早いターンでフォルティオスを場に出し、その後はひたすら守り切る。
相手のスペルは、カウンターで防ぐ。
その戦法が功を奏した形だ。
フォルティオスが場にいて、味方を増やすことができれば、大抵の敵はなんとかなる。
――というより、なんとかなってしまった。
時価数百万円。
壊れカードの名に違わず、フォルティオスは本当に強い。
一枚では戦えないのがカードゲームではあるけれど、それでもたった一枚で盤面を支配する。
『星の救世主』の力を、私は今更ながらに思い知ったのだった。
幸い、三回戦までは負け知らずで上がってこられたけれど、そういつまでも調子に乗ってはいられないのがスイスドロー。
四回戦目。
全勝同士となった私は、とうとう彼と対戦することになってしまった。
「やあ、初めまして。フォルティオスの『マスター』」
にこやかに笑う台湾チャンピオン。
そして――
『……鈴音』
『お久しぶりですね。元気そうで何よりです、フォルティオス』
三人目。
フォルティオスを入れると四人目となる、『異世界人』との出会いだった。




