第32話 楽しいデート(?) 中編
ブティックでの買い物を終え、店を出たのは十一時過ぎ。
荷物をコインロッカーに預けた私達は、まず昼食を取ることにした。
そのあと、たっぷり遊ぶために。
「少し早いけど、腹ごしらえしようか。フォルティオスは何食べたい?」
「君の好きなもので……っていうのは、今日は駄目なんだね?」
「そう。分かってきたじゃない」
私があからさまに眉を寄せたのが分かったようで、フォルティオスは少し考えて、
「オムライスが食べたいな」
ちゃんと言葉に出してくれた。
「オムライス?」
「うん。最初に君のオムライスを食べたあと、君、言っていただろう?
自分の作り方は普通で、特別なものじゃないって。
だから、食事処のオムライスを食べてみたいな、って。
もしかしたら、君に失礼かもしれないのだけれど」
「全然オッケー! むしろ、私もオムライスが好きで、よく外へ食べに行くから、美味しいお店知ってるよ。専門店もあるから、行ってみない?」
「専門店? オムライスの?」
「そう! そこのオムライス、すごいんだよ。四十種類もあるの」
「四十? オムライスだけで?」
「行こう! 今ならそんなに混んでないと思う」
私は行きつけのオムライスのお店に、フォルティオスを連れていった。
そこは、定番から和風、季節ごとのバリエーションまで、豊富な種類のオムライスが売りだ。
「すごいな。本当に、こんなにいろいろな種類のオムライスがあるなんて」
「特にこれが食べたい! っていうのがなかったら、ここの名物のふわとろオムライススペシャル、食べてみて。私のとは、本当に比べものにならないくらい美味しいから」
「じゃあ、お願いする」
「ランチセットにしようね。サラダとドリンクバーとデザートも付くから」
「ドリンクバーって、あそこのドリンクが飲み放題?」
私達には当たり前のような一つ一つを喜んでくれるのが嬉しい。
いろいろなドリンクを飲み比べたり、サラダの新鮮さを褒めたりしていたフォルティオスだけど、この店自慢のオムライスが来たときには、子どものように目をキラキラさせていた。
ご飯の上に載ったふんわりオムレツをナイフで割ると、とろりと半熟の卵がライスの上に広がっていく。艶々の卵を特製デミグラスソースと一緒に口へ運べば、至福の喜びが待っている。
「すごいね。舌の上で蕩けるようだ。それでいて、しっかりとした味わいが残るのが素晴らしい。このソースも濃厚でコクがある」
「卵の質にも拘っているらしいからね。ソースはたっぷり時間をかけて煮込むらしいよ。家では出せない味だよね。口に合ったのなら嬉しいな」
「合ったよ。とても美味しい。君のオムライスの次に、だけど」
「え? こっちの方が美味しいでしょ?」
「僕にとっての一番は、君が最初に作ってくれたオムライスだから」
「!」
思わず、顔が上気する。
瞬間沸騰した感じ。
ほっぺが熱い。湯気が出そうだ。
さすが『救世主』。人の喜ばせ方が上手すぎる。無自覚の女たらしなのかも。
フォルティオスって。
「あ……、そうだ! フォルティオス! ここ、デザートのアイスが選べるの。何がいい?」
「アイス! この間、マヤヤが買ってくれたあれかい?」
「そう。オレンジ、バニラ、チョコレート。あ、イチゴもあるみたい」
満開の笑顔でアイスを選ぶフォルティオスは気づかなかっただろうけど、彼に灯された私の熱は、ジュースを飲んでもアイスを食べても、しばらく収まらなかった。
食事のあとは、ウインドウショッピングを楽しみながら駅ビルを歩いた。
いろいろな料理のお店、お菓子屋さん、パン屋さん。アクセサリーショップ、ブティックや靴屋さんもあって、色とりどりのビーズをつないだネックレスのようだ。
フォルティオスは、左右に首を振りながら目を瞬かせている。
「すごいね。これが全部、常設の店なのかい? ネクサスで『デパート』を見せてもらったことがあるけれど、それより華やかで品揃えが多いね」
「このビルの最上層は、展望台とプラネタリウムになってるの。あと、映画館もあるよ」
「プラネタリウムに、映画?」
「プラネタリウムは、人工的に星空を映し出して見る場所」
「星空を、人の手で作るのかい?」
「そう。テレビの映像を、特別な方法で天井に映し出す感じ。映画は、テレビをすごく大きくして、大画面でお話を見るの」
「そんな娯楽があるのか。すごいね、こっちの世界は」
「興味ある? 見てみたい?」
「ぜひ」
「分かった。じゃあ、まずは近い方から。プラネタリウムに行こう。道すがら、ゲームセンターと本屋さんも見られるかも」
「ゲームセンター?」
「えーっと、説明が難しいから、とにかく行こう!」
ゲームセンターは、やり込むとお金と時間が溶けていく場所だから、軽く見るだけにしておいた。
メダルゲームには手を出さず、クレーンゲームを少しだけ。
フォルティオスはバランス感覚や重心の位置を読むのが上手で、引っかけタイプのクレーンゲームは、少し練習して重心や動きを見ると、的確にアームを落として人形やお菓子を取ってくれた。
そして、何よりすごいと思ったのは音楽ゲーム。
「これは?」
「音楽のリズムに合わせて、この撥……棒で、この太鼓を叩くの。こっちのダンスゲームは、光るところを足で踏む感じ」
こっちの音楽に慣れていないフォルティオスには難しいかな、と思ったんだけど。
「すげえ! 三曲連続パーフェクトだ」
「こっちもノーミスだ。兄ちゃん、すごいな」
周囲の人達が目を剥くほど、完璧なリズム感覚を披露したのだった。
でも、実際のところは、というと。
「すごいね、フォルティオス。初めて聞く音楽でしょ?」
「音? 鳴っていたのかい?」
「え?」
「光の指示に従って身体を動かしただけだよ。自分の身体のコントロールは、割と得意なんだ」
だって。
やっぱり、いろいろな意味で鍛え上げられた戦士って、すごいなあ、と思った。
でも、向こうで遊ぶ暇などないと言っていた通り、フォルティオスには『音楽』を聴いて楽しむ、という考えそのものがないみたい。
異世界にも、音楽はあるようなんだけど。
今度、歌番組を見せたりしてみよう。
簡単なピアノ曲くらいなら、私も弾けるし。
一緒にカラオケとか行ってみたいな。
『楽しい』ことを知らないなら、私が教えよう。
そして、一緒に『楽しもう』。
そう、思った。




