第25話 目指す頂 後編
カードゲーム『アナザーワールド』において、一番大事かつ戦況を決めるのは、戦士にして手駒であるコンタクトカードでも、スペルでもない。
「それは、マスターがキャラクター達に与えるパワーだよ。彼らは僕達の世界において、リンカーが与える力なくしては成長することも、動くことさえできない。
故に、パワーコントロールを制した者がゲームを制する。
それをまず、一番最初に覚えておくんだ」
店長さんは、最初の指導の時にそう告げた。
雄太が言うには、店長さんもパワーコントロールの達人で、魔術結社と呼ばれるソルシアのスペルや、シエロさんのパワーカードを剥がす特殊能力で、相手の場を乱すのが得意なのだという。
その店長さんの先輩だというマヤヤさんもまた、『緑の魔女』という名の通り、ファンタズマの魅了やスペルを使ったパワーコントロールを得意とする、と少しだけ聞いた気がする。
でも、実際に聞くのと喰らうのとでは大違い。
「一体、何が起きたの?」
『ファンタズマのプロジェクトスペル、『ハロウィンパーティ』だ! 敵の場、自分の場、全てのパワーを吹き飛ばすカード!』
「え? そんなカードがあるの?」
正直、ズルいと思った。
敵味方問わずパワーカードを吹き飛ばすと言っても、自分の番でパワーを使い切ってから使えば、実害はゼロ。
カウンターできなければ、相手の場はガタガタになる。
それに。
「マスター。気を付けて。加奈子は、自分よりパワーが少ない相手からダメージを受けないんだ」
フォルティオスが教えてくれた。
有力なネームキャラクターは皆、それぞれ特有の能力を持っている。と。
「え?」
「彼女が十分にパワーを蓄えたら、多分、僕以外には止められない。さっきの彼女のセリフのように、簡単に踏み潰されてしまう」
「そんな!」
「はーい。こっちは終わり。どうぞ~」
マヤヤさんは明るい口調でターンを返してくれるけど、パワーが全部吹き飛ばされているので正直言って何もできない。
補給線が残っているのが、せめてもの救いかな。
フォルティオスに多めに力を与えて、仲間も増やして終了した。
『アナザーワールド』では、キャラクターの精神力が最大行動回数となり、その精神力の分だけ力を蓄えられる。
加奈子さんとフォルティオスの精神力は1だけフォルティオスの方が上。
ファンタズマは攻撃と防御が高い分、精神力が低めなことが多いんだって。
力の数が攻防判定を左右するなら、加奈子さんを迎え撃ち、倒せる可能性があるのはフォルティオスだけだ。
でも、そんな私の浅慮や焦りを、マヤヤさんや加奈子さんが見落とすはずもなく。
「あのねえ。マヤヤのメインデッキはね、ワントップ強化型なの。
メインである加奈ちゃんを、絶対に墜とさないで守るぞ! がコンセプト。
戦場に立った加奈ちゃんは、強いぞ~~~。という訳で、武器カード。『御守り』あーんど『妖刀ムラマサ』!」
金色の目を輝かせながら、加奈子さんを強化していく。
「あ、これはカラコンだよ。バトルの時は、こっちにしてるの。
加奈ちゃんと、お・そ・ろ・い」
ホントに鬼が二人いるみたいで、怖い。
ちなみに『御守り』は精神力を+1。
そのうえ、本来なら一人に一つしか付けられない武器カードを、もう一つ付けられるようにするパーマネント+1を持つカード。これで加奈子さんの精神力はフォルティオスと同じになった。
そして、『妖刀ムラマサ』は――
『美空! 『妖刀ムラマサ』は、パワー一枚につき攻撃と耐久に+100するんだ。止めろ! フォルティオスでも止めきれなくなるぞ!』
「止めろ、って言われても……。あ、これ使えるかな? 『次元ラビリンス』!」
『次元ラビリンス』は一ターンだけだけど、キャラクターを異次元に吹っ飛ばすイメージのファストスペル。
主力の攻撃を止めたり、リンクファクター不足による効果失敗を狙ったりするものだけど。
「うんうんうん。いいねえ。ナイス選択。
でも、ダメ~。『九字祓』」
「え? 失敗? カウンターされた?」
『『九字祓』は、全てのスペルを止めるスペルだ。赤――天華は、そういう妨害や守備に長けてる。スペルをカウンターされるのは当たり前と思うしかない』
「そんな~」
その後も終始、向こうのペースでゲームは続いて。
「はい、『ミッドナイト・キス』。フォル君のパワー、二枚捨て札ね」
「酷い!」
「ターン、終了? じゃ、『邪眼』。このターン、フォル君にはパワーをセットできません」
「鬼! 悪魔!」
「鬼だからな」
こっちはほとんど何もできず、時間が経つほどにパワーを蓄え、力を増していく加奈子さんに、本当に攻められ、踏み潰されるばかりだった。
まさに蹂躙。でも。
「なんか、凄いね。こういうやり方もあるんだ」
「美空……」
私は、なんだか感動していた。
私のデッキも、マヤヤさんのデッキもワントップ。一人の主力に頼るタイプだ。
そしてマヤヤさんは、その一人をとにかく強化して、守りきる形。
今の、雄太に作ってもらった私のデッキは、フォルティオスが除去されることもある程度想定して、除去されたあとに巻き返す手段を入れている。
でも、そもそもフォルティオスを倒させず、絶対に守り、攻撃を通すためのスペルでサポートする。
守り通す形もあるんだと、目からうろこが落ちたような気分だった。
「マヤヤさん!」
「なあに? みっちゃん?」
「私、マヤヤさんのデッキ、好きです」
対戦中に相手に言うセリフではないことは分かっているけれど、どうしても伝えたくて、口にしてしまった。
私の言葉に一瞬、目を大きく見開いたマヤヤさんは、次の瞬間、零れるような笑顔を見せたあと。
「ありがと。でも、最後まで手は緩めないよ」
「はい! 最後まで頑張ります!」
そう言った。
お姉ちゃんの妹とか、店長さんの弟子とか、初心者とか。
余計なフィルター抜きで、私自身を見てくれたのだと思う。
だから、私は最後まで戦おうと思った。全力を尽くして。
「マスター。だいぶダメージを受けた」
フォルティオスが、悔しげに唇を噛む。
「次に向こうへターンが渡ったら、押し切られるだろう。
向こうもこちらも力も満タン。仲間が増えているから一度でも僕の攻撃を加奈子自身が受ければ、落とせる力はまだある。
でも、こちらが攻撃してパワーが減った状態だと、ダメージを与えられない」
場のキャラクターは、向こうにもこっちにもそれなりにいるから、素の力ならまだフォルティオスが上回っている。
だから、問題は加奈子さんの、自分以下のパワーしか持たない相手との戦闘ではダメージを受けない特殊能力なのだ。
「さっき、もしかしたら、なんとかなるかもしれないカードを引いたの。
カウンターされちゃうかもしれないけど、やってみてもいいかな?」
「僕は、君の指示に従う」
「雄太?」
『やりたいこと、全部やれよ。どうせもう負けイベントだ』
「うん。やってみる」
私のターン。
フォルティオスと加奈子さんのパワーは同数。
このまま攻撃しても、加奈子さんは落とせない。
でも。
「フォルティオス! マヤヤさんに攻撃!」
「加奈ちゃん、ガード!」
「ファストスペル、『皇帝の勅命』!」
「へえ~~」
「何?」
お二人の目が、驚きに揺れた。
私が使ったカードは、キャラクターに一枚のパワーをデッキから直接与えるスペルだ。
装備した人物が好きな相手にパワーを送れる『IPフォン』の効果を参考に、フォルティオスの攻撃回数を増やすため、デッキに入れたもの。
これで、ガードのためのコストを支払った加奈子さんより、フォルティオスの方がパワーで勝るはず。
行けるか!
そう思ったのだけど、パチン! と、フォルティオスの攻撃は光の壁に弾かれてしまった。
「あっぶな! 念のために残しておいて良かった。防御力アップの『硬気術』! 二枚重ねでなければ通ってたよ、今の」
「はあ~。ダメですかぁ~~。赤は本当に守りが強いんですね」
「あと少しだったのに!」
私は肩を落とした。
今のがダメだと、私にはもう通せる手段はない。
フォルティオスも悔しそうだ。
でも、圧倒的有利な盤面でも油断せず、守りの術を用意していたのは、さすがマヤヤさんだと思う。
これが、世界に君臨するトッププレイヤーの片鱗なのだ。
私も、もっとデッキを見直さないと。
「フォルティオス。とりあえず攻撃を続けて。加奈子さんのパワーを剥がそう。時間稼ぎだけど」
「了解」
「もう! みっちゃんのいじわる! 鬼!」
「どっちがですか?」
最終的に、私達の最後の抵抗は本当に時間稼ぎにしかならず、二ターン後、場を整え直したマヤヤさんと加奈子さんに押し潰されてしまったけれど。
「ナイスバトルだったよ。みっちゃん」
「ありがとうございます。マヤヤさん」
お世辞でも、マヤヤさんにそう言って手を差し伸べてもらえたことが嬉しかった。
これで、少しでもプレイヤーとしてのスキルやレベルが上がるといいんだけどなあ。
【配信終了】




