第23話 楽しい(?)お泊り会 後編
おじ様と約束した通り、宿題はキッチリやらされたけど、その後は本当に楽しいホームパーティとなった。テーブルの上には溢れんばかりの御馳走の数々。
「いや~。可愛い子と一緒に呑むコーヒーは美味しいねえ。加奈ちゃん。もう一杯!」
応接間のソファにドーンと腰を下ろしたマヤヤさんは、蕩けるような笑顔で空になったアイスコーヒーのグラスを掲げている。
「お前はコーヒーで酔っているのか? 器用な奴だな」
ため息をつきながらもグラスを受け取り、お代わりを淹れてくれる加奈子さんは優しい。
ついでに言えばコーヒーを淹れるのが上手。
100均で買った間に合わせのペーパーフィルタードリッパーなのに、喫茶店で呑むコーヒーみたいに芳醇な香りと苦み、渋みが感じられた。私はどっちかというと紅茶党だったけど、コーヒーも悪くないと思ったくらい。
「どうしたらこんなに美味しく淹れられるんですか?」
って聞いたら、
「そんなに難しい話ではない。湯温や蒸らしなど、いくつかのコツを覚えれば、すぐにレベルアップする。あの物覚えの悪いフォルティオスでさえできたのだから。
後は、飲む人物の好みを考えて淹れる事位か」
だって。
「コーヒーに興味が湧いたなら、フォルティオスに淹れてもらえ。奴には教導時代、みっちりと仕込んだからな。忘れていなければ、それなりにできるはずだ」
と言われたので、今度教えてもらおうと思う。
私も覚えて、フォルティオスやマヤヤさんに淹れてあげたい。
ちなみにフォルティオスは果物味の炭酸ドリンクが気に入ったみたいで、一口ずつ味わいながら飲んでた。
「向こうでは甘味なんて滅多に口にできないからね。この口の中で弾ける感覚も好きだ」
「やっぱっりお砂糖は貴重品?」
「ネクサスやファンタズマの領域からの流通が増えて来たんで、前ほどではなくなったけど」
アイスコーヒーのお代わりを受け取ったマヤヤさんは、ぐいいっとビールのように呷りながらご満悦。本当に酔っぱらってるみたいだ。お酒は買ってない筈なんだけど。
「こうやっておしゃべりして食事ができるなんて。アメリカではホテル暮らしだから、一人で食べるか、加奈ちゃんと二人だからねえ。やっぱり、食事は大勢で食べるのが楽しいし、美味しい!」
「私も、今はフォルティオスがいますけど、一人で寂しかったので、今日は久しぶりのみんなでの食事。とっても楽しいです」
「それは良かった。もっと食べて。じゃ~んじゃん食べて。
くいねぇ、くいねぇ。寿司食いねぇ」
差し出された寿司桶から鉄火巻きを摘まむ。
「フォルティオスももっと食え。でないと大きく……は、もうならんでもいいが、筋力はもっと付けた方がいい。寿司はやはり苦手か?」
「向こうでは生魚なんて食べることはないからね。ワサビもちょっと」
「慣れてしまえば美味いものだが、まだまだお子様味覚だな。
待ってろ。今、肉を焼いてきてやる。それまでピザでも食っていろ」
「あ、ありがとう」
「生魚が苦手でも、卵やウナギは美味しいかもしれないよ」
「マスターが言うなら……。ホントだ。この卵、いいね。ウナギも。
ゼリー寄せとか煮物は苦手だったけど、これは美味しい!」
本当に美味しいな。涙が出そう。
「あ、それでマヤヤさん」
私は涙がバレないように目元を手で擦ってから、話題を変える。
……聡明なマヤヤさんには気付かれていそうだけど、それはそれで。
「お姉ちゃんと知り合いって、どうして教えてくれなかったんですか!」
「う~~ん。それについてはね。本当に風ちゃんには何にも言われてないからなのよ。
妹の様子を見てきて、とか何にも」
「頼まれて来たとかじゃ本当にないんですね?」
「そう。富樫先生にも言ったけど、フォルティオスのマスターちゃんをフォローしてあげよっかなって、こっちに戻ってきた時には知らなかったんだ。美空ちゃんが風ちゃんの妹だってこと。
美空ちゃんの『北条』って姓を聞いて、そうなんだなって思っただけだから。
京ちゃんも知らなかったみたいだよ」
ちょっと、拍子抜けした。
そういえば、日曜日の午前中に定期確認があってから、お姉ちゃんからテレビ電話が来ていないことを思い出す。時差があるから朝に来ることが多いんだけど、着信履歴にもなかったし。
「お姉ちゃんとマヤヤさんって、どういう知り合いなんですか?
もしかして、店長さんも?」
「これは、言っていいかな? 美空ちゃん。フェジオンエンターテイメントって会社、知ってる?」
「はい。お姉ちゃんの会社です」
「じゃあ、そこがTCG『アナザーワールド』の発売元なのは?」
「え? そうなんですか?」
ビックリ。
だって、まだ始めて一週間だし、カード会社の名前とか気にしてなかったから。
「うん。
マヤヤはこう見えても、そこそこ人気のある配信者だからね。
時々、公式に頼まれてアンバサダーっぽいことをしたりするんだけど、その関係で知り合ってね。
公式大会のスタッフする風ちゃんと時々私的にも話したりするようになったの」
「知らなかったです」
お姉ちゃんがお父さんの影響を受けてゲーム会社に勤めたのは知ってたけど、コンピューターゲーム系だと思ってた。
「『アナザーワールド』の公式って不思議でね。カードのシステムや異世界転移とか、絶対何か関わってると思うのに、表向きにはノーコメントなの。パートナーを持つ『リンカー』達がこっそり問い合わせても、知らん顔&スルー。
実際にパートナーを目の前で実体化させてみても、上層部は知らん顔。見えません。いません。みたいな感じ。
でも、認識はしているみたいで、『パートナーカード』をデッキに入れても公式戦で問題なく使えるんだよ。まあ、普通の『パートナーカード』は既存VFのキラ増しみたいなものだけどね」
ほら、とマヤヤさんが加奈子さんのパートナーカードを見せてくれた。市販品のVFと並べて。
確かに同じ絵だった。市販品よりもずっとキレイだけど。
「あ、みっちゃんのフォルティオスも、公式戦使用可の返答が来たって京ちゃんが言ってたよ。ただし、公式からは何の告知もしないし、公認もしないって。
嫌な匂いがするよねえ~」
「はい。……お姉ちゃんは、私が『リンカー』になったこと、知ってるんでしょうか?」
「これだけの騒ぎだからね。知っているとは思うけど~」
私はデッキケースからフォルティオスのカードを取り出す。
家にいた頃、お姉ちゃんは家で仕事の話をしたことはほとんどなかった。
雄太がカードの話をしても、特別に何か話したり、くれたりすることもなかったと思う。
それは、仕事の守秘義務とかを考えれば、当然かもしれないけど。
なんだろう。
また胸の中がモヤモヤしてきた。
せっかくマヤヤさんとのあれこれで吹き飛ばされて、晴れ間が見えてきた空に、また暗雲が立ち込めてきたように。
お姉ちゃんは、何を考えているんだろ。
私のこと、どうでもいいのかな?
「マスター……」
パーティーの空気を壊すとは思ったんだけど、なんだか、頭を上げられなくなってきた。
カードを手に肩を震わせていたそんな私を――
「よーし、みっちゃん。気晴らしに、イイこと。しちゃおっか?」
がしっと、強い手が横抱きにする。
「え? マヤヤさん?」
「ゲート、オープン! 行くよ。加奈ちゃん。フォル君」
「やれやれ。フォルティオス。デッキを忘れるな」
「あ、うん」
「え? あの、な、なんですかあああああ!」
「マスター!」
途端に空間が歪んで、覚えのある感覚。
無限グリッド。巡る螺旋。
全てがあいまいで、確かなのはフォルティオスとマヤヤさんの手から伝わる体温だけ。
わけの分からない感覚に振り回されて。
ようやく目が覚めた時、私はまた、あの異世界にいた。
乾いた空気と青い空。虹色のゲート。
そして――
「バトルしよ! みっちゃん」
マヤヤさんの、太陽みたいな笑顔と言葉に照らされて。
【配信準備中】
【極秘チャンネル@アナザーワールド】
『「リンカー」バトルの配信を開始します』
『対戦カード ファンタズマウィッチ・マヤヤ VS レディM』
『パートナーカード 坂上加奈子 & フォルティオス』




