第二話 カードを狙う昏い影
某月某日 X log より
アナザーワールド@まとめ速報 ・15分
【緊急速報】再録新弾『星の呼び声』から、リスト未掲載の新規VFが出たとの報告あり。
しかもカードは、まさかの『星の救世主 フォルティオス』。
画像⇒https://x.example.com/awcard/……
ねこ@フォルティオス推し @fortios_neko ・10分
マジ?
画像は? ソースどこ?
タロサ @カード破産中 ・10分
初報はもう消えてる。
でも画像と魚拓は拡散中。
ほれ。ペタ。
ハルク @青単は正義 ・10分
なんか隠し撮りっぽいな。
画質悪くてテキスト潰れてる。
解析班はよ。
トップを目指すプレイヤー @topwonnerae ・10分
三つ巴も五すくみも、星からの脅威も、たった一枚で全部ぶっ壊した伝説の壊れカードだぞ。
敵も味方も全部自分の力にする奴。
異星からの脅威に立ち向かうっていう『アナザーワールド』の世界観には合ってるけど、さすがに強すぎる。
まさか、そのまま再録せんやろ?
>星の救世主
ときお@アナザー ・9分
再録するなら『救世の戦士』の方だよな。
それでもVF仕様ならヤバいけど。
軽く六桁いくぞ。
ABC @abc-dfg ・9分
『フォルティオス』のVFなら、七桁でも考える奴がいる。
ここに。
アナザートイップ @isecai-ikitai ・9分
だからこそヤバいんだって。
偽物にしてはイラストの完成度が高すぎる。
しかも初報では、プロフェッサーKの店で出たって情報もあった。
あの人の店で偽物は扱わんだろ。
素人A @公式大会参加一桁 ・9分
有識者に聞きたい。
俺、一度もフォルティオスと当たったことないんだけど、そんなにヤバいカードなん?
田宮 @黄色最強 ・8分
超ヤバカード。
>フォルティオス
素の能力値は成長カードとしては平均。
でも敵と味方の数を参照して、理論上ありえないくらいデカくなる。
ナーフされた製品版でも、敵の数だけ攻撃力+100。
味方の数だけ防御力+100だったはず。
アクシア @mafi-yu・8分
しかもスペルや特殊効果のダメージを受けない。
>フォルティオス
素人A @公式大会参加一桁 ・7分
マジか。なんでそんな能力なん?
エーヘルシトのカードやろ?
田宮 @黄色最強 ・7分
初期設定だと、星を護るために作られた『救世主』だから。
六勢力のキャラクター全部に友好判定があるとか、ないとか。
シグナちゃ @天華巫女推し ・6分
ちょい待て。
画像補正したけど、これマジでヤバいぞ。
『星の救世主 フォルティオス』
・このキャラクターは、バトル以外によるダメージを受けない。
・フィールドに存在する他のキャラクター一人につき、攻撃力と防御力にそれぞれ+100する。
ナーフ前のテキストだ……。
遊星のとおりすがり @moto2channera ・5分
なんだと~~~!
今、β版テスト販売時の『星の救世主』がいくらするか知ってんのか?
越後屋の買い取りで280万だぞ。
製品版の『救世の戦士』だって80万だ。
シグナちゃ @天華巫女推し ・5分
それでも安いわ。
>280万
現存が確認されてる『星の救世主』なんて一桁。
しかも、その半分はPEF鑑定済みでケースの中だろ。
実戦で使ってる奴なんて、トップテンにも多分いない。
ランキングを目指す者 @次は白の時代 ・5分
フォルティオスが出てくるかもってだけで、デッキ構築も戦略も変わるからな。
スペルや精神ダメージでも除去できない。
パワーコントロールで動けなくするか、フォルティオス以外を先に破壊するくらいか?
手が付けられないからナーフしたのに、なんで戻すんだよ。
>運営
ヒルキウ @黒こそ至高 ・4分
偽物か誤報だと思いたい。
そうでないと、血で血を洗う争奪戦が起きるぞ。
リアルで。
パルス @hacaisin-kouin ・3分
今すぐ逃げろ。引いた奴。
金に目がくらんだ転売ヤーに狙われるぞ。
ABC @abc-dfg ・3分
洒落にならんからやめれ。
>狙われる
オレオレオレ @sagiya-naiyo ・2分
冗談で済めばいいけどな。
とにかく、今は続報待ち。
ミネラルカルシウム @mizugameza・2分
……とりあえず『星の呼び声』買いに行くわ。
ホライゾン @roguhadaizi ・1分
――そそくさと立ち上がる音。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『地球の裏側には、もう一つの。
まったく異なる歴史を辿った、別の地球が在る』
トレーディングカードゲーム『アナザーワールド』のPVはいつもそんな言葉から始まる。
『我々の世界よりも星の力に満ちたその世界の民は、星の力――マナによって独自の進化と変化を遂げ、五つの勢力圏を作り上げた。
超能力を持つ人類が、現代に酷似した機械文明を築いた『ネクサス』。
神や自然の神秘を信じ、その力を借りる者達。天に咲く花『天華』。
マナの効率的な使用方法を術式として研究し、星の力の真実を探求、極
互いに相争い、世界の覇権を手にすることを目指していた彼らの前に、星海から侵略者『インベイダー』が現れた。
空からの容赦ない攻撃に苦慮した彼らは、歴史上初めて力を結集し、一つの術式を組み上げた。
それが、異世界『アナザーワールド』からの召喚術だった。
別世界の住人――リンカーと共鳴することで、彼らは多くのマナを手にした。また、副次効果として、その能力を飛躍的に拡大させることができた。
アナザーワールドの歴史は今、転換の時を迎える』
そんなPVに惹かれて、軽い気持ちでやってみようかな?
そう思って始めようとした『アナザーワールド』だったのに、なんだかとんでもないことになってしまった。
「店長。これ、ちょっとヤバくないですか?」
スマホでSNSを確認していた雄太は、今も青ざめた顔をしている。
画面では私――正確には、私が持っているレアカードの写真が、恐ろしい速さで拡散され続けているのだそうだ。
「ああ。かなりマズいね。
すまない。
僕も予想外のことに、少々テンパってしまって対応が遅れた。投稿と拡散を防げなかったのは、僕の責任だ」
店の奥。従業員の休憩スペースだという所に避難させてもらった私は、正直、まだ状況をよく呑み込めずにいる。
「あの……。なんで、こんな大騒ぎになっているんですか?」
初めて買ったパックから出てきたカードを見た途端、周りの人達の空気が明らかに変わった。
「それ、トレードしてくれ!」
「買い取ってもいい。十万出す!」
「ちょ、ちょっと待って下さい! 何がなんだか……」
「おい! 美空に手を出すんじゃねえ!」
「雄太!」
もみくちゃにされかけた私を、雄太と
「待て! この子は初心者だ。
僕の店で、何も分からない子をカモにするシャークトレードなど許さない」
店長さんが止め、助けてくれたけれど。
「店内の写真撮影も禁止。画像の拡散は、真贋や状況が判明するまで控えてくれ」
「あ。すみません。もう上げちゃった」
「おい!」
既にネットに上げられたカード画像は、瞬く間に拡散された。
オリジナルの投稿こそ削除されたけれど、今やネット上でとんでもないビッグウェーブを巻き起こしているらしい。
「美空ちゃんの顔が映っていないのは、不幸中の幸いかな。でも、僕の店で出たことも書かれていたらしいから、特定されるのは時間の問題だ」
「はい。まさか、こんなことになるなんて」
「だから、なんで一枚のカードでこんな騒ぎになっているんですか? 市販されているカードなんですから、特別なカードなのかもしれないですけど、他にもありますよね?」
私は、おそらく今回の騒動の原因と思しきカードを見やる。
店長さんが「とにかく入れておいて。傷が付くと大変だから」とプレゼントしてくれたスリーブに収められたレアカード。
『星の救世主 フォルティオス』
全面イラストで、皆がVF――ヴィジュアルフレームと呼んでいた綺麗なカードには、凛々しい金髪碧眼の青年戦士が生き生きと描かれている。大剣を構える絵には、他に枠がなく全面イラスト。半透明の枠の中にテキストや情報は書かれているけれど、これ、そんなに珍しいカードなのかな?
「他には、無いかもしれないカードだと言ったら?」
「え?」
「いいか。よく聞けよ、美空」
ため息にも似た息を吐き出しながら、店長さんが私にそう告げた。
首を傾げる私に言い聞かせるように、雄太が説明を引き継ぐ。
「フォルティオスはさ、『アナザーワールド』のメインヴィジュアルにもなっている人気カードなんだけどさ。能力が強すぎて、テスト販売のβ版と初版にしか封入されなかったカードなんだよ」
「そうなの?」
「ああ。簡単に言うと、味方だけじゃなく敵も参照して能力が上がる。要するに、数で囲んでフォルティオスを倒そうとしても、逆に攻撃力まで上げてしまうんだ。
『アナザーワールド』は、防御力以下の攻撃では一切ダメージを与えられない。逆に、攻撃力が防御力を少しでも上回れば、相手を倒せるシステムだ。自分で能力値を上げられることが、どれだけヤバいか分かるか?」
「なんとなく……?」
「しかも、スペル……呪文や特殊能力でも除去しづらい。
発売最初期のカードだけれど、ちゃんと考えて組まれたフォルティオスデッキは、今でもトップを狙える」
「とっても強いカードなんですね」
まだゲームのルールやイメージを掴めていないからピンと来ないけれど、どうやら相当に強いカードらしい。
「加えて『アナザーワールド』は、バランスブレイカー級の能力を持つカードでも、原則として禁止しない。
新しく供給しないことで、使用者が増えすぎるのを抑える方針なんだ。
その結果、初期の強いカードを後発のプレイヤーが入手するのは困難になり、とんでもない値段で売買されることになる」
「とんでもない、値段?」
「これは店の物というより、僕のコレクションの製品版フォルティオスだけれど」
「すげえ。俺、初めて見ました。持ってたんですね」
「β版の方は持っていないよ。あれは現存数が一桁らしいから」
店長さんが大事そうに見せてくれたカードは、硬質プラスチックのケースに入っている。
箔押し加工されたそのカードは、私のカードと同じ人物を描いていると分かるけれど、イラストが枠の中に収まっているからか、少し大人しい感じがする。
「僕の私物で売り物じゃないけど、売るとしたら百二十万くらいかな」
「ひゃく!?」
思わず声が裏返った。
カード一枚に百二十万……。
「君の持っているフォルティオスは、これよりずっと価値が高い。何せ、ナーフされる前のβ版カードと同じテキストだ。能力が桁外れに強い。
しかも、今まで確認されていなかったヴィジュアルフレーム仕様。
ヴィジュアルフレームというのは、通常でもエキスパンションの目玉、十数箱に数枚しか入っていない種類で、普通のカードとは桁違いの値が付く。
多分、オークションなら七桁からスタート。コレクターが競り合い始めたら、いくらの値段が付くか分からない。最終的に八桁になっても、僕は驚かないね」
八桁って、一千万ってこと?
420円のパックから出て来たこの、カード一枚で?
もう 驚きすぎて声も出なかった。
「雄太君。悪いけど、今日はもう帰った方がいい。裏口から出て、明るいうちに美空ちゃんを家に送るんだ」
「解りました」
「本当は僕が送るべきなんだけど、今ここを離れると、店の前に集まった連中が二人を追いかねない。僕は表で対応して、君達がここから出たことを隠す。
情報を集めて、美空ちゃんとカードの安全をどうしたら守れるかも、考えてみるよ。
家は、そんなに遠く無かったよね?」
「はい。歩いて20分くらい」
「美空ちゃんは?」
「その隣です」
「分かった。大通りから外れずに帰ること。何かあったらすぐ僕に連絡して」
店長さんはLNNEのアカウントも教えてくれた。
「明日は学校が終わったら店においで」
「ありがとうございます。帰ろう。美空」
「う、うん」
雄太に促され、私は立ち上がる。
ここで帰るのは、ちょっと、というか凄く残念ではある。
せっかく買ったカードで、ゲームをするのを楽しみにしてたのに。
「美空ちゃん」
「店長さん」
店長さんは、机の上に置いてあった私のフォルティオスを、キレイなケースに入れて渡してくれた。
「最初から、とんでもない目に遭わせてしまってごめんね」
ふっ、と細い指先が私の手に触れる。
「でも、君は多分、『フォルティオス』に選ばれたんだ」
「え?」
「これから多分、色々と大変なことになると思う。
でも、カードショップ店員の僕がいうことじゃないけれど、可能なら、手放さずに守って欲しい。
僕も、出来る限りで、力になるから」
「あ、ありがとうございます」
「雄太君、美空ちゃんをしっかり守るんだよ。カードは誰にも見せず、出さずに寄り道しないで帰ること!」
「はい!」
私達は裏口から、二人でこっそり店を出た。
通りの方をそっと窺うと、店の入り口には、私達が入った時よりもはっきりとした人だかりができているみたいだ。
「あれ、まさかフォルティオス効果で集まってきた人?」
「かもな。SNSで店長の店ってことまで書かれてたらしいから」
「怖いね。SNS」
実物のフォルティオスを見てみたい、くらいならまだしも、さっきの人みたいに安く騙し取ろうなんて人もいるのかもしれない。
ホントに、怖い世の中だ。
「おい、美空」
「なあに?」
なるべく人の多い所を、注意深く歩く。
店から家まではそんなに遠くは無い。気を付けて行けば遅くなる前に帰れる筈だ。
前を歩いていた雄太が、ふと、足を止め、振り向いた。
自然、私の足も止まる。
「なんだか、とんでもないことになったけど『アナザーワールド』、もうやらない、なんて言わねえよな?」
私の表情を窺うように問いかける雄太。
その瞳はちょっと潤んでいて、いつもの、割と俺様な様子は影を潜めていた。
もしかして、自分が誘ったからとか、責任とか感じてたりするのかな?
うん、そうだった。
雄太は昔っから、面倒見がよくって責任感も強い。
だから、私も頼りにしていたのだ。
「言わないよ」
「美空!」
「だって、まだ始めてもいないもん。それに、店長さんじゃないけど、せっかく好きになったカードが来てくれたんだし」
思い返せば、私が『アナザーワールド』を始めるきっかけになったPVに出ていたのは、フォルティオスだったんじゃないかな、って思う。
白銀の戦士が、夜空を見上げる優しげな表情を覚えている。
私は鞄の上からカードケースにそっと触れた。
ここにあるのは数百万円のカードかもしれないけれど、私にとっては一緒にゲームをする為に来てくれたカード。
「大事に使っていきたいの」
雄太が、息を吐きだしたのが解った。
音にするなら、多分、ホッ。
「良かった。……なら、これ、やるよ」
そして、私にポーンと何かを投げて来た。
「なに? あ、これ、フォルティオス?」
店長さんが私にくれたのとよく似たケース。黄色で、多分フォルティオスと仲間の騎士が宙を見上げている絵がプリントされてる。
「デッキだよ。フォルティオスを生かす、ってとこまでは、まだいってないけど、とりあえず戦えるように組んでみた。『アナザーワールド』はネームカード一枚だけじゃ戦えないからな」
「ありがとう!」
素直に嬉しかった。
まだルールも何も解らないけれど、これでゲームができるようになったと思うと、ワクワクする。
「騒動が落ち着いたら、ちゃんと教えてやるから。本当にやめるなよ」
「うん」
大事な、ファーストデッキ。
私は鞄を開いて、ケースをしまおうとした。
正に、その時だった。
「えっ!?」
横から、いきなり強い力で、手を引かれたのは。
「美空!! うっ!」
私の異変に気付き、手を伸ばしてくれた雄太も口をふさがれる。
「な、なんだよ。お前ら!」
すぐ側を歩いているはずの人達は、誰一人として振り向かない。
まるで、最初から私達の姿など見えていないかのように。
そして私達は。
昏い目をした男達によって、路地の奥へと引きずり込まれたのだった。




