第19話 台風襲来 後編
公開が少し乱れました。火曜日から更新は一日一話、朝更新になります。
私達の視線の先で、知らない世界が繰り広げられている。
光の中。カメラの向こうでは、軽快なトーク。
「でもさ~。カードに生まれて初めて触った日に、初心者の女の子を京ちゃんは配信対戦に誘ったわけ? ちょっと鬼畜過ぎない? 通知を見て、マヤヤ、ビックリしちゃったよ」
「それは、確かに少し反省していますが、後悔はしていませんよ。
さっきも言いましたが、彼女は一人ではない。優秀なナイトもついていますし、僕もいます。逆に、全世界に彼女がカードの所有者であると伝えることで、盗難や売却を企てる悪質な存在を牽制することができますから」
「う~ん。話を聞くと、確かに仕方ない所ではあるかな~?
初心者に教えるチュートリアルにしては、あの対戦はスパルタが過ぎると思ったけど、みっちゃんが絶体絶命のピンチから逆転。シエロに一矢報いた所には、みっちゃんとフォルティオス、お互いの強いリンク。『愛』を感じたもんね」
「ええ。センスも度胸も十分にある、有望新人だと思っています」
そして、その裏側では――
「加奈子が撮影を? 武器以外の物を壊さずに扱えるようになったんだ」
「小僧。久方ぶりに顔を合わせて、最初の言葉がそれか? 声を出すでない。音が入る」
「事実を指摘されて腹を立てるな。
昔、備品のティーカップを八個も壊していた教導時代のお前なら、力加減を誤って撮影機材ごと握り潰していただろう」
「貴様は相変わらず、余計なことしか覚えておらぬ上に、いちいち口にする。黙っておれ、シエロ」
静かで、でもどこか優しい会話の火花が躍っていた。
「ホントに知り合いだったんだ。教育係だったって言ってたよね」
「そう。入れ替わり立ち代わりだったから、ずっと一緒だったわけではなかったけどね」
そう言いながらフォルティオスは、どこか眩しそうな表情で加奈子さんとシエロさんを見つめている。
二人は犬猿の仲だと聞いて、今も実際、一触即発の雰囲気を漂わせているけれど。
「姫ちゃん。カメラ、揺れてる」
「……すまぬ」
「しーちゃんも、大人になって。京ちゃんを困らせちゃダメだよ」
「お前が言うな」
マヤヤさんが、さり気なく収めてくれた。
まあ、コメント欄には、
『え? しーちゃんって誰?』
『Kの彼女?』
なんてものも流れているけど。
店長さん、苦笑いしてる。胃が痛そうだ。
って、私も店長さんの胃痛、気苦労の原因の一端だけど。
「まあ、その辺はさておき~。来週から、日本では秋トーナメントが始まります。
冬の世界大会、ランキングバトルまでに、マヤヤも日本代表の権利を取りに行くからね。
今年はトップテン防衛の為に、ちょ~っと本気出すよ。
京ちゃんは出るの? 春で取ってるよね?」
「はい。ですから、秋トーナメントは参加を見合わせます。
今回は弟子が二人できたので、サポートに徹するつもりです」
「だって。関東エリアのみんな、良かったね。
あ、でも。弟子ちゃん達が出る、ということは、みっちゃんも出て、フォルティオスとバトルできるかも、ってことだよね。わ~、いいなあ。
マヤヤもフォルティオスとバトルした~い!」
「トーナメントの本選で当たれば、そういう機会もあるでしょう。
彼女は、さっきも言いましたが、最初に手元に来てくれたフォルティオスをパートナーとしてデッキに組み込み、一緒に戦うことを望んでいます。
今後、他者と対戦することも増えてくると考えられますので、皆様にはそれをご理解の上、見守っていただければ幸いです」
店長さんはそう言ってくれたけれど――
「うわっ! コメントがいきなり増えたぞ。
『フォルティオスVFをデッキに入れて戦う?』
『悪い冗談』
『傷ついたらどうする』
『七桁のカードをただスリーブに入れておくだけなのも草』
『ケースに入れて金庫にしまっとけや』
『やっぱり分かってない。俺に寄越せ』
酷いのばかりだ。対戦の時でも、ここまでじゃなかったぞ」
本当にその瞬間、コメント数が数倍に膨れ上がった。
いくつかは、
『もしかして対戦できたら、生フォルティオス見られる?』
などの優しいものもあったけれど、大半はフォルティオスという高額カードをゲームに使うことを非難していた。
「僕らの『カード』が、ちょっとやそっとで傷つくはずないのに」
「正論だが、小僧は黙っていろ」
「貴様が出てくると、話がこじれて良くも悪くも大きくなる」
さっきまで明らかに敵対していた二人から、右と左、阿吽の呼吸で責められて、フォルティオスがしゅん、と頭を下げた。
その様子が、本当に叱られた子犬のようで。
可愛い、と思うと同時に、私は本当にお二人がフォルティオスを昔から知っていて、大事に思っているんだなと、少しもどかしい気分になった。
子どもの頃のフォルティオスって、どんなだったんだろう。
「う~~ん。やっぱり、こうなったか。
ダメダメ。みんな、ちょっと落ち着こう?」
画面ではマヤヤさんが腕を組みながら、顔をしかめている。
配信画面を見られないはずだけれど、コメント内容をある程度、把握しているようだ。
インカムしてるし、加奈子さんが伝えてるのかな?
「なんか勘違いしている人もいるけどねえ。カードは基本、ゲームに使うものなの。
バトルの為に作られたもので、みっちゃんもいいこと言ってたけど、大事な仲間で、パートナー。
お金に糸目をつけずに欲しがる気持ちは分かる。でも、無理に奪い取ったり、まして強盗なんて、絶対にダメだからね」
「コレクションとして手元に持っていたい、守りたい、という思いは否定するものではないと思いますが」
「分かっているよ。その辺は。
カード収集って、基本的に『愛』だもの。大好きなカードは欲しい。集めたい。
その気持ちは、よーく分かる」
店長さんはマヤヤさんに反論しているように見えるけど、実は違う。フォローで、サポートなのだと、何故か感じた。
「でもマヤヤは、だ~~~い好きな加奈ちゃんのカードは、VFだろうと躊躇わずに集めるし、デッキに入れるよ。いつも一緒にいたいし、大切だからこそ使いたい。
死んだら一緒にお墓に入れてもらうか、新しいパートナーと頑張ってもらうか考え中だけど。でも、箱の中には閉じ込めておきたくないの。光の中にいてほしい」
彼女は腰のベルトにつけてあったホルダーからデッキケースを取り出し、頬ずりする。
なんだか、その光景を凄く『いいなあ』と思った。
シエロさんと店長さんのそれとは違う。
でも、リンカーとパートナーの深い信頼と絆を感じたのだ。
「確かにそうですね。個々人のカードへの思いを踏みにじるのは違うと、僕もカードショップを経営する者として思います」
「そうそう。
だからね。さっきも言ったでしょ? 冷静になろ?
初心者ちゃんや、他のリンカーをイジメない。
マヤヤとのお約束、守れない子は、ここにはい・ら・な・いよ?」
めっ! と子どもを叱るようなマヤヤさんの仕草には、優しげに見えて逆らい難いエネルギーを感じる。
カリスマというか、オーラというか、パワーというか。
背中がぞわっ、ときたもん。
その力に圧されてか、コメント欄の炎は急速に静まっていく。
なんか、凄いな。ホントに。
「まあ、そういうわけで~。
そろそろ時間なので、本日の緊急生配信は終了しま~す。
日本では明後日から。各国でももうすぐ始まる秋トーナメント。参加を予定しているみんなは頑張って!
京ちゃんも、今日はありがとね! 今年はトップテンに復帰できるといいね!」
「いえいえ。できれば事前に連絡をいただければありがたいです。
先輩こそ、配信に気を取られ過ぎて資格を取り逃すことのなきよう。それはそれで楽になるので、いいですが」
「心配しなくても~、まだまだマヤヤは、みんなの前を走るよ! 可愛い後輩ちゃんもできたしね。全速力でビューンって。
みんなもついてきてね。楽しい『アナザーワールド』を、これからも見せてあげる♪」
パチン、とマヤヤさんと視線が合った。
にっこりと私に向けられた笑顔は、天使のように優しい。
「フォルティオスとマスターちゃんについては、これからも注目していくよ!
では、マヤメイトのみんな。マヤマヤ~♪
高評価とチャンネル登録もよろしくね。マヤヤでした~~!」
そうして嵐のような配信を終えると、マヤヤさんは肩の力を抜いて息を吐き、私に手を振った。
ホントに。
今の今まで知らない、画面の向こう側だけの人だったのに。
彼女の笑顔を見ていたら、さっき加奈子さんが言っていた、
『お前を、いや、お前達を助ける為に決まっているだろう?』
そんな言葉が、すとん、と胸の奥に落ちていくのを感じていた。




