第13話 雄太視点 異世界配信バトル視聴 後編
ソルシア得意の大型殲滅スペルを撃たれた場は盤面は完全に更地。
美空のフィールドにはもう、フォルティオスしか残っていなかった。
俺は、あの場にいないことに少し感謝した。
もしいたら、絶対に店長に食ってかかっていたからだ。
同時に、あの場にいないことを悔やんだ。
もし俺が側にいれば、アドバイスしてやれたのに。
全差ししないこと。ドロー源を守ること。ソルシアのアイコン構成。
美空を一人で戦わせずに済んだのに。
『一人ぼっちじゃん』
コメント欄にも流石に同情の声が流れていく。
『盤面えぐい』『三ターンでこれ』『公開処刑になってるぞ』『これは心折れる』『だから初心者相手にデス・コードはやりすぎだって』『実戦なら待ってくれない』『でも配信でやる必要ある?』『フォルティオス所持者の実力がこれか』『やっぱ宝の持ち腐れ』『相手は初心者』『お前は初対戦で日本チャンプ相手に三ターン耐えられるのかよ』『カードが泣いてる』『フォルティオス本人が残ってるんだから泣いてないだろ』『むしろ守ってる感じがしていい』『手札0、盤面フォルティオスだけ』『投了しないのか』『最後までやれって』『K、厳しすぎないか』『ここで辞めるならリンカーなんて無理ってことだろ』『厳しいけど、多分それを見てるんだろうな』
止めていい。
俺が側にいたら、きっとそう言っただろう。
でも、あいつは投了せずにドローを続ける。
カードが美空の手に渡った瞬間ふと、空気が変わった気がした。
『一枚引いた』『何だ?』『何か引いたな』『一枚で返せるカードなんてある?』『エーヘルシトのスペルならワンチャン』『次元ラビリンスとか』『リンクファクター1だぞ』『でも、その手札一枚をKも警戒してる』『いや、Kは余裕だろ』『あ、なんか言ってる』『フォルティオスに話しかけてる? 小さい声』『何言ってるんだ』『音声拾ってくれ』『「全部を出し切りたい」って聞こえた』『投了しないのか』『もう無理だって』『最後までやるのは嫌いじゃない』『負け確定なのに時間使うなよ』『チュートリアルなんだから試す方がいいだろ』『フォルティオスも頷いた』『この二人、妙に息合ってるな』
固唾を呑んで見守る俺達の前で、美空が引いた最後のスペルが発動する。
「コープスダンス!」
『コープスダンス!?』『ここで?』『防御用だろ、それ。ガードしかできないやつ』『次の相手ターンを耐える気か』『でも、このターンの終わりに戻したキャラはダメージ送り』『四体戻した』『ダメージ4増えるぞ』『自殺では?』『待て』
それは、俺が考えて教えたコンボだった。
すぐに手に入るコモン、アンコモンの中で、唯一『フォルティオス』に使えそうだったもの。
『フォルティオスの能力』『あっ』『他キャラ参照か!』『なるほど』『コープスダンスで一時的に数を増やしたのか』『そう使うのかよ』『初心者が自分で気づいた?』『横でフォルティオスが教えたんじゃないの?』『でもフォルティオスも驚いてただろ』『これ、普通に面白いぞ』『敵四体で+400、戻した味方四体で+400』『基本1000だから1800』『シエロの防御と同値』『同値じゃ落とせない』『一発届かないじゃん』『惜しい』『初心者だからルール勘違いしてる?』『攻撃力が同じなら相打ちだと思ったのか?』『まあ、シエロもフォルティオスを倒せないから次のターンに持ち越し』『フォルティオス、気づいてる声してない?』『止めないのか』『マスターの指示に従った』『アタック宣言』『パワーもシエロに剥がされるぞ』『二枚取られた』『でも、まだ一枚残ってる』『攻撃は通る』『通っても倒せない』『無駄じゃん』『それでも一発入れたいんだろ』『行け、フォルティオス!』
美空がフォルティオスに攻撃を命じた。
「行って! フォルティオス!!」
『アナザーワールド』では攻撃と防御が同じ数値では相手を倒せない。
僅かでもいい、上まわる必要がある。
今のままではフォルティオスはシエロを倒せない。
美空はそれを知っているだろうか。
知らないかも知れない。俺はちゃんと教えていなかったから。
『初バトルきた』『シエロ受けるのか』『他のキャラで防御すればいいのに』『Kも見届ける気だな』『攻撃1800、防御1800』『これはシエロ残る』
「行って! フォルティオス!!」
「闇を、切り裂け!」
『うおおおおお』『演出かっこよ』『え?』『は?』
美空の指示のまま、フォルティオスが踏み込んでいく幻影が見えた。
その瞬間、あり得ない光が奔る。美空から不思議な光が放たれたように見えたそれは。
攻撃力+100
小さくて、でも勝敗を変える力として剣に宿った。
次の瞬間、攻撃を受けたシエロが消える。
煙のように。
『シエロ消えた?』『落ちたぞ』『なんで?』『攻撃力1900になってる』『+100どこから来た』『計算合わない』『敵4、味方4、基本1000で1800だろ』『タリスマンに補正はないぞ』『バグ?』『特殊版の隠し能力か?』『そんなわけあるか』『β版テキストに何かある?』『公開されてた能力とも違うぞ』『リンク補正?』『何とリンクしたんだよ』『まさか、プレイヤーも一人に数えた?』『そんなルール聞いたことない』『大賢者もビックリ』『フォルティオス本人も驚いてる』『本人も知らない能力って何だよ』『Kのダメージ2増えた』『本当に倒してる』『初心者が日本チャンプのシエロ落としたぞ』『うおおおおおおお』
コメント欄の空気が変わった。
一気に美空を、いや、美空とフォルティオスを称えるもので溢れ出したのだ。
『やるじゃん!』『計算間違えてたのに勝っただけだろ』『でも、コープスダンスの使い方を考えたのは本人だぞ』『タリスマンも忘れなかった』『一枚のトップでシエロまで届く盤面を作った』『謎の+100込みだろ』『そこを差し引いても、さっきまで更地だったんだぞ』『普通にすげえ』『大金星だな』『フォルティオスが嬉しそう』『「君がいたからだ」だって』『完全にパートナーじゃん』『カードに選ばれただけはあるのかもな』『認めるの早すぎ』『でも、ちょっと見直した』
俺はそれを嬉しいと感じながらも、どこか冷めた目で見つめている自分に気づいていた。
美空のデッキを組んだのは俺。
コープスダンスとフォルティオスのコンボを考えたのも俺。
なのに、あの場に、あの賞賛の中に、俺は立てない。
分かっている。
あの絶望しかない場で道を切り開いたのは、美空とフォルティオスだ。
称えられていい。誇っていい。
でも。
涙が止まらなかった。
俺も、あの場に立ちたかった。
一緒に戦いたかった。
『まだ試合は終わってないぞ』『レディ側、手札0』『フォルティオスのパワー1』『コープスダンス組はダメージ送り』『K側は三体残ってる』『でもシエロはいない』『ここから引き次第でワンチャンある?』『Kが油断してターン渡し続ければ』『するわけないだろ』『フォルティオス残すとまた能力上がるぞ』『K、どう処理する?』『調子にのってちょっと立て直す気になってるの草』『諦めてないといえ』『今ので完全に勢い戻った』『でも日本チャンプは、ここからが怖い』
まだ、バトルは終わっていない。
でも無意識に、俺はタブレットの電源を落としていた。
そのままベッドに潜り込んだので、その後の勝敗は知らない。
多分、店長のことだ。
あっという間に場を立て直し、二人を踏み潰したことだろう。
目を閉じて思う。
俺は明日、どんな顔で二人に会えばいいのだろう。
どんなに考えても、答えは出なかった。




