第12話 雄太視点 異世界配信バトル視聴 中編
【配信準備中 今しばらくお待ちください】
『新規バトル、きたあああああ』『しかもシエロVSフォルティオス!』『本当にフォルティオスが来るのか?』『実物持ってないと使えないだろ?』『製品版か伝説のβ版か』『噂の例のVF持ってるJKか』『JKって公開されてたか?』『初心者の女の子って初報はあった』『顔出ししないのか』『レディってプレイヤーネーム設定なしのデフォルトだろ』『そりゃ出さないだろ。あんな騒ぎがあった後だぞ』
『プロフェッサーKが直々に相手するの豪華すぎ』『日本チャンプによる初心者講座』『という名の公開処刑』『カードだけで七桁の女』『そのカード俺によこせ』『始めたばっかの奴が持ってても宝の持ち腐れだよな』『またそれかよ。本人が引いたカードなんだからいいだろ』『どうせすぐ売る』『売るなら俺に寄越せ』
画面には、無責任なコメントが漣のように流れていく。
「勝手なこと言いやがって」
俺は毛布をかぶり、膝を抱えながら、今まさに始まろうとしている配信画面を見つめていた。
トップランカーのみが参加を許される極秘チャンネルの配信バトルに、何故、美空が。
しかも、店長と一緒に参加しているのか分からない。
そもそも『レディM』が美空であるという保証など、何もない。それでも、俺は確信していた。
美空がフォルティオスを引いた、この日。この状況で店長がフォルティオス使いと対戦するなら、相手は美空以外にいない、と。
「美空は初心者だぞ! それをいきなり、こんな所に晒すなんて、師匠は何を考えてるんだよ!」
思わず口から零れた責め言葉は、もちろん相手には届かない。
彼らは、自分達とは『別の世界』にいる。
今まで、わざと考えないようにしていたソレに、俺は気づいていた。
いや、気づかされていた。
【配信 開始】
やがて配信が開始され、盤面が動き出す。
俺は画面に目をやった。
初手のカードが配られると同時に、音声が繋がるのが常。
「やあ、マスター」
「フォルティオス!」
その瞬間、コメント欄が盛大に揺れ出した。
『フォルティオスがしゃべったああああ!』『マスターって呼んだぞ』『すげええ、PVと同じ声だ』『イケメンは声までイケメン』『しかもやっぱ、VF仕様。星の救世主のイラストだ』『羨ましさがすぐる』『そうだよな。VF引いただけじゃなくて専用ナビつきかよ』『俺のミリカもしゃべってくれねえかな?』『いいなあ~~』
でも、俺にはその大半が耳に、というか、目に入っていなかった。
フィルターがかかっているけれど、一声聞けば分かる。
あの警戒心のない、のほほんとした口調は、間違いなく美空だ。
『バトル始まったぞ』『女の子先行』『Kが有利譲ったんやろ』『初手ディーラーととうもろこし少年か』『普通だな』『悪くないスタート』『青タッチするの?』『初心者に二色は難しくない?』『単色は逆に展開が難しい』『ドロー+1を優先したか』『アリ寄りのアリ』『フォルティオスを出すならエーヘルシト優先も正解』『基本に忠実』『間違ってはいない。目新しさはないけど』
この時にはもう、疑念は確信に変わっていた。
デッキのカード構成は、全て俺が考えたものと同じだ。
『レディM』は美空。
美空が、師匠と戦っている。
俺が作ったデッキで、俺には手の届かない世界を。
『横で本人が教えてるのズルくね?』『向こうにもシエロいるだろ』『パートナーシステムなんだから仕様だよ』『羨ましい』『他の感想ないの?』『いいなあ~』『あ、プロフェッサー、支配しないキャラ残した』『ヤる気だ。あれ』
美空は初心者だ。
対戦は、まだ俺としかしたことがない。
だから、基本に忠実に場を整えていく。
でも、師匠には一切の遠慮も手加減も見えない。
『K、初手から回すなあ』『アグレッシブきた』『初心者相手にそれやる?』『いや、手加減して変な癖つけさせる方が駄目だろ』『うわ、もう場が広がってる』『青リンク3、ドローもチャージもあり』『なんでも始められるな』『美空ちゃん、完全に置いていかれてるじゃん』『盤面の差がひどい』『これが日本チャンプ』『動きが別ゲーなんよ』『初心者とトッププロを戦わせる企画がそもそもおかしい』『心折れるぞ』『フォルティオス持ってるんだから、このくらい超えてもらわないとな』『カードが強くても使い手がこれじゃあな』『始めて何日だと思ってるんだよ』
初日だよ。
俺は、誰にも届かない言葉を呑み込んだ。
まだ、生まれて初めて『アナザーワールド』のカードに触ってから半日。
一日だって過ぎていない。
なのに、何故、美空は向こうにいるのだろう。
小学五年生から『アナザーワールド』を始めた俺にも届かない、『向こう』に。
誰も知らない秘密を知った歓びは、まるで空気が抜けた風船のように萎んでいく。
そんな俺の思いなど誰も知らないまま、場は再びの盛り上がりを見せていた。
『は?』『もうシエロ?』『シエロ・スターリーナイト降臨』『後攻二ターン目だぞ』『速すぎて草』『K、容赦ねえ』『初心者講習とは』『日本チャンプの洗礼』『これだからソルシアは嫌いなんだよ』『展開の早さはネクサスと双璧』『その分、耐久弱い』『チャージ基盤が完成してる』『シエロ三枚差し?』『Kのデッキならもっと入ってるだろ』『手札一枚まで使ったぞ』『流石に攻めすぎじゃない?』『でも盤面は完全にK』『フォルティオス出せても、シエロの防御抜けるのか?』『敵キャラ参照で攻撃上がるからいける』『いや、シエロの能力忘れてるだろ』『相手はソルシア』『パワー剥がされて終わり』
『初心者がそこまで知ってるわけ――』『こっちもフォルティオスきたあああああ』
見れば、盤面は最初のキャラクター確保から、戦闘準備へと移行しつつあった。
両方の場に、主力となるパートナーカードが降臨している。
店長の場にシエロ。美空の場にフォルティオス。
どちらも臨戦態勢だ。
フォルティオスにパワー一枚。シエロにも三枚。
『うお、でかい』『ピカった』『VF演出やべえ』『登場エフェクト、カッコいい。綺麗。ダメ、もうむり』『これ現物を持ってるんだよな』『マジで羨ましい』『カードだけ強くてもなあ』『2リンク2コストで攻撃1100、防御1100は安すぎる』『1000、1000やろ。基本値』『敵が最低1はいるんだから必ず1100にはなる』『防御高い赤でなければ中段は大抵抜けるな』『羨ましい』『でも、その力を発揮させないのが戦略』『そのまま殴ったらシエロにパワー取られるぞ』『はい、初心者終了』
フォルティオスが、微かに動いたように見えた。
俺は思わず声を上げる。
「馬鹿! 止めろ、美空! そのまま行けば死ぬぞ!」
魔術師軍団ソルシアの恐ろしさは、術式とパワーコントロールにある。
俺としか対戦していない美空は、その恐ろしさを知らない筈だ。
でも。
俺の声が聞こえたわけではないだろうに、美空はアタック宣言を止め、パーマネントカードをセットした。
タリスマン。
あれも、俺がデッキに入れたカードだ。
『待った?』『攻撃止めたな』『タリスマン!?』『おお』『知ってたのか』『対策してきた』
『誰かに教わったのかな。マイナーカードだけど使いどころは多いぞ>タリスマン』『これで一段目のシエロは簡単にパワーを取れない』『危なかったな』『初心者なら十分だろ』『フォルティオス使いなら、このくらい当然』『要求レベル高すぎて草』
口の中で、ギリギリと歯が鳴る音がした。
無意識のうちに歯を食いしばっていたらしい。
そうしている間にも、場は動いていく。
『あ、手札、全部使った?』『全差しは駄目だろ』『カウンターありませんって宣言してるようなもの』『初心者あるある』『パワー欲しかったんだろうな』『次のターンに殴りたい気持ちは分かる』
「馬鹿美空。手札全指しなんてしやがって」
美空は知らない。ブラフの使い方も横取りの恐怖も、その先も。
『でも負けフラグ立った』『あ』『ディーラー取られた』『横取りきたあああ』『初心者殺し』『これは泣く』『パワー差してなかったもんな』『ドロー源消滅』『しかもKの場でチャージになる』『美味しすぎる』『0コスト横取りは犯罪』『合法です』『アイコン管理できてない』『初見でそこまで見られるわけないだろ』『だから教えてるんだろ。実戦で』『口で説明されるより一発で覚えるやつ』『K、笑ってるじゃん』『絶対楽しんでる』『初心者をいたぶる日本チャンプ』
『アナザーワールド』だけじゃない。
どんなカードゲームも、マナ、エネルギー、パワー管理はバトルの命。
そしてソルシア使いの店長は、その魔術師でもある。
『いや、まだ何かやる顔だぞ』『シエロ二段目きた』『終わた』『星の賢者シエロ』『攻撃1400 防御1800』『今ならまだ敵数多いからなんとか?』『あれ? パワー二枚使った?』
慣れた動きにかつて幾度も喰らった青の洗礼を思い出す。
師匠は本気で美空に『教える』つもりだ。
「店長! 初心者にやり過ぎでしょう!」
『まさか』『デス・コード? 死の刻印かな』『やめてやれ』『初心者に全体除去は鬼』『手札ないぞ』『カウンターできない』『だから全差しは駄目だって』『デス・コードだ!』『うわあああああ』『更地』『無残』『全滅した』『フォルティオスだけ残った』
俺は、あの場にいないことに少し感謝した。
もしいたら、絶対に店長に食ってかかっていたからだ。
大型殲滅スペルを撃たれた場は盤面は完全に更地。
美空のフィールドにはもう、フォルティオスしか残っていなかった。




