↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
10/22

第10話 異世界での初バトル 後編 

 試合開始から、僅か三ターン。

 盤面は、もうどうしようもない所まで行ってしまった。


「……今の、なんですか?」

「『デス・コード』。コンタクトしていないキャラクターを、全て捨て札にする術だ。ソルシアは、こういう大掛かりな魔術が得意でね」

「確かに、そう聞いてましたけど……」

「手札の全差しもよくないよ。カウンターがないと、相手に解ってしまう。ブラフでもいい。一枚手札に残して、相手を牽制するのもテクニックだ」

「…………はい」


 フォルティオスが残ったのは、せめてもの救いだと思う。

 彼には、パワーがたくさん残っている。

 でも、彼をサポートするキャラクターがいない。


 敵と味方を参照して能力を上げる彼は、今、敵の分しか能力値が上がらない。

 相手のフィールドに残っているのは四人。


 攻撃力1400。防御力1400だ。


 防御力1800のシエロさんには、敵わない。


「降参してもいいけど、最後まで戦い終えた方が経験値が上がるから、もう少し頑張って」

「はい…………」


 店長さんは、シエロさんにパワーを四枚。

 残りのキャラクター二人にも、一枚ずつパワーを与えて終了した。


 私は泣き出したい思いを抱えながらも、一枚ドローする。

 出てきたのは、スペルカードだった。


「あ、これって……」


 雄太との対戦を思い出す。


『へえ、このカードって、そう使うんだ』

『スペルは積極的に使えよ。出し惜しんで負けたら、終わりだからな』


「ねえ、フォルティオス」


 カードを握る手が、ギュッと音を立てた。


「なんだい。マスター」


 たった一人、フィールドに立つ私の戦士に呼びかける。


「この試合は、多分、負けると思う。でも、このまま負けたくないの。私の全部を出し切りたい。信じてくれる?」


 我ながら、多分、ぐしゃぐしゃの顔をしていたと思う。

 目のが滲むし、鼻もくすぐったい。

 でも、まだ少しでも勝機が残っているのなら、諦めたくなかった。

 負けるのが当たり前だと思いたくなかった。

 フォルティオスの力を、ちゃんと引き出して『勝ち』たい。


『シエロと対等の場に立ちたい』


 彼の願いを叶えたい。

 そう、心の底から思う。

 自分の中にこんな熱い思いがあるなんて。


「ああ。信じてる。君の思い通りに」

「ありがとう。店長さん。行きます!」


 大剣を構え、戦闘態勢を取る彼に頷いて、私はたった一枚。

 手元に残ったカードを掲げる。


「何か、起死回生の手を引いたかい? どうぞ。受けて立つ」

「敗北が決まっても諦めぬ、その意気やよし! 来い。子猫! 小僧!」


 店長さんの手札は一枚。

 カウンターがあったら終わりだけど、そんなことを気にしている余裕はない。


「ファストスペル! 『コープスダンス』!」


 私が呪文を唱えると、キャラクター達が捨て札置き場から戻ってくる。

 さっきまでよりもさらに淡い、幽霊のような存在だけど。


 彼らはフォルティオスの周囲で手を繋ぎ、輪を作る。

 フォルティオスに、力が光の容をとって加算されていくのが解った。


「…………ごめんよ。僕が不甲斐ないせいで、君達を守り切れず。でも、君達の力、無駄にはしない!」

「コープスダンスを、そう使うのか」

「ほう。面白い」


 シエロさんが感心した、というように息を吐いた。


『コープスダンス』は、エーヘルシトのキャラクターが一人いれば、0コストで使えるファストスペル。


 任意の捨て札されたキャラクターを、一ターンだけ場に呼び戻すというもののだ。


 呼び出された彼らは、コストを払わずに敵の攻撃を防御するインターセプトのスキルを持ち、敵の攻撃をガードしてくれる代わりに、ターンが終わればダメージ置き場に置かれ、敗北要件を増やしてしまう。

 本来なら、敵の一斉攻撃を阻んで時間を稼ぐカードだ。


 でも。

 フォルティオスの場合には、別の意味と力を持つ。仲間を増やす、という。

 捨て札され、コープスダンスで呼び戻したキャラクターカードは四体。

 フォルティオスの攻撃力と防御力が、400ずつ加算される。


 今、敵のフィールドには四体。


 攻撃力1800にまで上昇。

 防御力1800のシエロさんにも、届く筈だ。


「フォルティオス! そのままシエロさんを攻撃して!」


 一瞬。

 ほんの一瞬だけ、フォルティオスの瞳が揺れた。


 でも、彼は何も言わなかった。

 剣を握り締め、真っすぐに敵へ向かう。


「承知した。マスター。行くぞ! シエロ!!」

「受けてやろう。小僧!」


 この戦い、最初のバトル。

 シエロさんが微かに指を鳴らすと、フォルティオスのパワーが二枚、奪われたのが解った。

 タリスマンの守りは効かないのだろうか。

 でも、大丈夫。

 まだ、パワーは残っている。

 星の賢者シエロさんの攻撃力は1400。

 このターンでフォルティオスが落ちることはない。


「行って! フォルティオス!」

「闇を、切り裂く!」


 上段から振り下ろされた一刀が、光を宿してシエロさんを袈裟懸けにする。

 シエロさんの目に、予想外のものを見たような光が宿った。


「? どうし……て?」


 次の瞬間。

 さらさらと砂が零れ落ちるかのように、シエロさんの像が形を失い、消えていく。

 場から完全に退場すると店長さんのダメージカウントが、2増える。


「勝った、のか?」

「やった! 計算通り!」


 なんだか、フォルティオスは呆然としているけれど。


「もっと喜んでよ。シエロさんを落としたんだよ!」

「……そうだね」


 フォルティオスは、不思議そうに自分の剣を見つめ、それから私を見た。


「君がいたからだ。マスター」

「うん。私達、一矢報いることができたんだ!」


 静かに、でも確かに嬉しそうな笑みを浮かべてくれるフォルティオス。

 私はそれが、とても嬉しかった。


「お帰り、シエロ。今のは?

 負ける局面じゃなかっただろう?」


 シエロさんの影が、店長さんの横に戻る。


「ああ。アタック宣言の瞬間、小僧の攻撃力が異常上昇した。

 我の防御力を100だけ上回ったのだ」

「やっぱり。

 あの表示は、バグじゃなかったのか」

「ああ、あの+100が勝敗を分けた」

「流石だね。僕の目、君の目。そして、彼の目にも狂いはなかったようだ」

「確かに。ただの子猫ではないな。あの娘。

 雌獅子の幼体やもしれん。先が楽しみだ」


 ここからは聞こえないけれど、何か話をしているようだ。


「あ、まだバトル、終わってなかった。ここから立て直せるかな?」


 こちらの場は、手札0。

 フォルティオスのパワー1。

 コープスダンスで戻ってきたキャラクター達は、ダメージカウントに入ってしまった。

 キャラクターは場にも手札にもいない。


 向こうはノンネームだけど、三人のキャラクターとパワー2を残していた。


「とりあえず、パワーを完全に0にしちゃうのは拙いよね。ターン終了」


 店長さんに、ターンを返す。

 このまま時間を稼いで、なんとか立て直せればと思ったのだけれど。


「いい一撃だった。僕の予想も超えたよ」


 楽しそうに。本当に楽しそうに笑う店長さんは、やっぱり日本チャンプだった。


「でもね。バトルは最後まで気を抜いちゃいけないよ」

「え?」


「戦場に戻れ。シエロ。復活の儀式――『イースターの夜』!」

「よくやったな。小僧。子猫。

 褒美に、ここからは本気を出して相手をしてやろう」

  

 店長さんのスペルが魔法陣を描き、 その中から薄靄の光と共にシエロさんが復活する。


「ぎゃあああ! 二体目? なんで??

 しかもパワーが刺さってるし!」

「六十枚のデッキに一枚差しで、欲しい時にカードが来るわけないだろう? 

 僕のデッキには四・三で、七枚シエロが入ってるよ。というわけで、二段コンタクト!」

「嘘! 防御力1800が、もう一回? 助けて! フォルティオス!」

「くそっ!」


 私達の反撃はここまで。


 その後はもう、完膚なきまでに踏み潰されてゲームエンド。

 完敗ではあったけれど。


 試合の後。


「フォルティオス……。

 負けてごめんね。 勝たせてあげられなくてごめんね。

 私、今、とっても悔しい」

「そう思うことはとても大事だ。

 敗北を知らないと、勝利の意味も喜びはわからない。 京也もシエロも僕も、それが身に刻まれている。 戦う者の第一歩を君は今日、踏み出したんだ」


 そんな会話をした。


「なら、私、『リンカー』としてのレベル、少しは上がったかな?」

「ああ。

 でもレベルなんて関係なく、君は最高のマスターだよ。美空」

「フォルティオス」

「これからも、よろしく。頼りにしてる」

「うん。次はもっと頑張るから、こちらこそ」


 敗北の悔しさは今も胸に刺さる。でも。

 フォルティオスが、初めて私をマスターでも、リンカーでもなく。


 美空。


 そう呼んでくれたことが、嬉しい。


 二人で見上げた空は高く、異世界とは思えないくらい蒼いかった。

 眩しいくらいに。悔しいくらいに。


【配信終了】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。