第9話 異世界での初バトル 中編
『アナザーワールド』は某絶版TCGを元に色々なゲームの要素を混ぜています。
今回は仕組みを判って頂く為に細かくゲーム内容を描写していますが、今後はここまで細かく描写はしない予定です。
バトルフィールド。
そう教えられた場所は、四角い石が敷き詰められた、巨大なチェス盤のようだった。
雄太とバトルした時には、下にガイドのついたクロスが敷いてあったんだけど、流石にそんなものはない。
私と店長さんは巨大なチェス盤の上下、斜め上空に立ってフィールドを見下ろしているような感じだ。
足場はしっかりしているけれど、透明でちょっと怖い。
「焦らなくていいよ。まずはゆっくり、動かし方を覚えて。僕が後攻でいいかな?」
店長さんが、私の不安を読み取るようにそう言って下さった。
「はい。構いません」
「うん。じゃあ、開始だ。よろしくね」
「よろしくお願いします」
『アナザーワールドでは先攻が有利。最初のターンでは攻撃ができないからな。まあ、トップレベルの戦いだと、そう油断もできないけど』
そう教えてくれたのは雄太だ。
店長さんなら、後攻の不利を覆す方法くらいいくらでも持っていそうだけど、最初からそんなにえげつないことはしない、と思いたい。
バトル開始と同時。
空中から、私の手元にカードが八枚配られた。
これが初期手札。私がバトルを行うにあたり使っていい力になる。
キャラクターカードとコンタクトカード。あと、スペルも一枚。
コンタクトカードというのは、キャラクターカードを成長させたカードのことで、メイン戦力として戦ってくれる頼りになる子達。フォルティオスのカードもここに含まれる。
「やあ、マスター」
「フォルティオス!」
私の真横に、ふわりと踊るようにフォルティオスが降り立った。
手札の中にも、彼のカードがある。
「私がフォルティオスのカードを引いたから、来てくれたの?」
「それもあるけど、パートナーは側についてアドバイスできるみたいだ。ほら。京也の側にもシエロがいるだろう?」
フォルティオスの指が示す先。
店長さんのフィールドにも、確かにシエロさんがいる。
店長さんも、もう引いたのかな?
「マスター。まずは仲間を増やして。エーヘルシトを優先するのがお勧めだ」
「うん」
私はカードを見た。
『ディーラー』という名の、ドロー+1の能力を持つ青のカードと、あと、黄色。エーヘルシトのキャラクターカードが数枚ある。
アナザーワールドでは、場に出してすぐキャラクター達が味方になってくれるわけではない、という。
出会い、交信し、力を分け与えて、初めて一緒に戦えるのだ、と。
私は『ディーラー』と、『とうもろこし畑の少年』というエーヘルシトのキャラクターカードを場に出した。
この少年、ちょっと、フォルティオスに似ているかも。
持つ能力は、チャージ+1だって。
「最初のターンは仲間を味方にすることしかできないから、カードを裏返して彼らに力を与えて。そうすれば、彼らは仲間になってくれる」
「解った」
八枚のうち、三枚のカードを使って彼らにパワーを与えた。
味方にする為に必要なパワーも、カードによって違うのだそうだ。上の方に書いてある。
精神力、と言っただろうか?
ディーラーに二枚。とうもろこし畑の少年に一枚。
手札にはキャラクターカードとスペル、あとフォルティオスのカードを残したから、残り三枚だ。
「うわっ!」
どういう仕組みか解らないけれど、力を与えたカード達は姿を人型に変えて実体化した。
実体化といっても、シエロさんの向こうでの姿のような、薄い立体映像だけど。
二人は軽く私にお辞儀をして、足元のフィールドに立ってくれる。
味方になってくれた、ということだろう。
「後はやることがないから、相手にターンを渡して」
「ターン終了します。どうぞ」
「了解」
流れるような仕草で、店長さんもキャラクターカードを出し、パワーを与えていった。
三体ほどのキャラクターを仲間にして、店長さんはターンを終えた。
一つの勢力から仲間にできるのは、一ターンに一枚だけ。
でも、他の勢力をタッチすることで、複数の仲間を味方にすることができると聞いた。
私のディーラーもソルシアだしね。
「ターン終了。どうぞ」
見れば、場に力を与えていないキャラクターカードが残っているけど、いいのかな?
そんなことを思いつつ、私の次のターン。
ドロー+1のキャラクターがいるから、手札には二枚のカードが増えた。
キャラクターカードとスペルだ。
もう一人、エーヘルシトのカードを仲間にする。
姫戦士ちゃん。
彼女もチャージ+1を持っているらしい。
「手札を減らさずにパワーを与えたい時は、チャージの能力を使う。デッキから直接パワーにできるんだ。有効なスペルやコンタクトカードがパワーに入ってしまうこともあるけど、あまり気にしなくていい」
デッキから直接パワーを姫戦士ちゃんに与えて、ターン終了。
「エーヘルシトの仲間が二体出たから、次のターンには僕も出られる。出してもらえると嬉しい」
「解った」
コンタクトカードには出現条件がある。
勢力の仲間とのリンク数と、パワー数だ。
フォルティオスの条件は、エーヘルシトのキャラクター二体とのリンクと、パワー2。
確かに、次のターンには出せるだろう。
私がそんなことを思いながら場を見ていると――
「え?」
店長さんの場が、信じられないくらい展開していた。
キャラクターカードの数が、信じられないくらい多い。
え? 何が起きたの?
呆然としていると店長さんがにっこり、教えてくれ。
「アグレッシブ回し、っていうんだよ。キャラクターカードの一部はじゃじゃ馬で、僕達に攻撃を仕掛けてくる。その攻撃を利用して、デッキを回すんだ」
アナザーワールドの敗北条件は、デッキ切れと、ダメージが十点貯まること。
ダメージはデッキに攻撃が入り、キャラクターカード以外のカードが場に出ることで増えるという。
多少のダメージを覚悟してデッキに攻撃を入れさせ、キャラクターを増やすテクニック。
雄太との対戦で少し聞いたような気がするけれど、
『お前はあんまり無理するな。処理できないで死ぬこともあるぞ』
って言われたから、意識していなかった。
凄いな。
やっぱり、ちゃんとしたリンカーは。
「場に出たキャラクターは、コンタクトして強化することで、パワーを与えずに支配下に置ける」
そう言って、店長さんは増えたキャラクターにコンタクトカードを重ね、支配キャラクターを増やしていった。
そして――
「マズいな。もうシエロ降臨か」
「ほら、早く出て来い。小僧。さもないと蹂躙してやるぞ」
弾けるような光と共に、シエロさんが場に舞い降りた。
占星術師 シエロ・スターリーナイト。
シエロさんの登場条件は、ソルシアのキャラクター3とコスト2。
後攻二ターン目での降臨は、早すぎる。
しかも、チャージを持つキャラクターが増えているし。
0コストでコンタクトできるってなに?
でも、流石に手札の消費が激しかったようで、残りは一枚。
デッキからパワーを三枚差して、ターンが終わった。
パワーは全て、シエロさんに集まっている。
次は私の番。
二枚ドローすると、パーマネント――武器カードと、キャラクターカードを引いた。
「マスター。僕を出して。今のシエロなら、倒せる」
フォルティオスの攻撃力は1000。防御力も1000。
シエロさんは、攻撃力600、防御力1000。
でも、お互いにキャラクターカードが増えているから、フォルティオスなら強化されて突破できる筈だ。
「解った。お願い」
私は、とうもろこし畑の少年をコンタクト。
ディーラーからコストを払って、フォルティオスを降臨させた。
コンタクトにも条件があって、性別が同じで、アイコンが示す同じ素質がなければいけないのだそうだ。
条件に合いそうなのは、とうもろこし畑の少年だけだったから。
穏やかで優しい癒し系少年は、渦を巻くようなマナの奔流と共に『星の救世主』へとその姿を成長させる。
なんか、カッコいい。
フォルティオスには、とうもろこし畑の少年から引き継いだパワーカードが一枚。
一回、攻撃できる。
向こうはシエロさん以外にパワーカードが差さっていないから、シエロさんを倒すか、本体に大ダメージを与えられる筈。
でも、これでいいのだろうか。
ふと、雄太との対戦の時の雑談を思い出す。
『店長のシエロ・スターリーナイトは、ソルシアのトップだけあって強いんだ。特殊能力があってさ』
「あ! 待って。ダメ! フォルティオス!」
「マスター?」
思い出した!
私は手札にあったパーマネント。武器カードを、フォルティオスに与える。
姫戦士からコストを払って出した『タリスマン』は、相手の特殊能力の対象にならなくするもの。
「知ってたのかな?」
店長さんが、嬉しそうに肩を竦めた。
「雄太に教えてもらいました。シエロさんには、パワーカードを奪う力があるって」
「そうか。忘れてた」
「忘れるな。馬鹿者。昔も散々、痛い目を見たであろう?」
シエロさんには、2コストを払うことで相手のパワーを奪う能力がある。
支払うパワーがなくなったカードは捨て札されてしまうし、相手のターンでも使える。
フォルティオスのパワーは一枚。
このまま攻撃したら、パワーを支払えず、戦う前に負けてしまう。
「仕方がない。このターンは待つしかないか」
「次のターンに動けるよう、パワーを差しておくね」
私は手札をありったけ、チャージも使ってフォルティオスにパワーを4枚差し、0コストで仲間になってくれる、優しいチャージキャラクターを二体支配してターンを終了した。
店長さんのターン。
くすっ、と小さく、でも冷たい笑みが口元から零れている。
「初心者相手に大人げないとは思うけど、最初に痛い目を見ておいた方が、君達の為だからね」
「え?」
「コンタクト」
「あっ!」
青白い光が私のフィールドに伸び、ディーラーを包み込んだ。
光の繭に包まれたディーラーは場から消え、別の衣装を纏った魔術師となって、向こうのフィールドに行ってしまった。
「横取りコンタクト、っていうんだよ。相手の場のキャラクターでも、アイコンが合えば自分のキャラクターにできる。パワーが差さっているとできないけど」
「そんなあ!」
「常にアイコンに注意する。取られにくいアイコンを使う。基本だよ」
私の場で唯一、先読み――ドロー+1を持っていたキャラクターが奪われてしまった。
さらに、あちらにチャージが増えた。
0コストでコンタクトできるなんて、ズルい。
私のデッキにもフォルティオス以外のコンタクトカードは何種類か入っている筈だけど手札に来ないし。
「まだまだ。呆けている暇はないよ。シエロ、セカンドコンタクト!」
「ああ。いよいよ本気を出すとしよう」
シエロさんのパワーが一枚消えると同時に、その姿が変わる。
今までのどこか軽やかな占術師から、威厳ある魔術師の姿へ。
魔道賢者 シエロ・スターリーナイト。
能力値も上がっている。
攻撃力 1400 防御力1800だって。
「魔術結社 ソルシアの力を見せてやろう」
「え?」
「まずい! マスター。何か仕掛けて来るぞ!」
「何かって何?」
止めようにも私に使える手札は無い。止める方法も分からない。
シエロさんは呪文を唱える。歌うように軽やかに。
二枚のパワーが消え、低い詠唱が私達に『死』を告げた。
「死は、万人に等しく訪れる。奪え。『デス・コード』」
「きゃあああ!」
稲妻のように暗い雷光が、フィールド全体に落ちた。
衝撃に目が眩み、頭を抱えて蹲る。
そして。
衝撃が収まったのを確かめて立ち上がり、息を呑んだ。
「うそっ!」
場は、ほぼ完全な更地になっていた。
向こうのフィールドには、シエロさんを含む四人のコンタクトキャラクターだけ。
そして、こちらに残っているのはフォルティオス。
ただ一人だったのだ。




