第63話 王の一撃
ミノス王が動いた。
冠の光が床から離れ、王の右手へ集まった。
紫色の光弾が放たれる。撃った直後に冠が暗くなり、王の指の輪郭が薄れた。
石壁にひびが走り、天井から砂が降った。
「莉奈ッ!」
健一が叫んだ。
光弾が莉奈の胸へ来る。
その後ろには健一と、瓦礫のそばに座った小保内がいた。
莉奈は一歩横のポールを拾い上げ、雷を纏った。
衝突。
金色の雷と紫色の光が、広間の中央でぶつかり合った。莉奈の腕がきしむ。ポールが悲鳴を上げ、足が床を削りながら後退する。
「ぐ……っ」
莉奈はポールを斜めに押し上げた。光弾が逸れ、人のいない北の石壁で爆散する。
石片が散り、粉塵が舞い上がった。
莉奈はポールを杖にして膝を立て直した。握っていた掌の皮が赤く剥けている。指を動かすと、焼けたところが引きつった。
広間が静まり返った。十四人全員が息を呑んでいる。
ミノス王が──手を見つめていた。自分の手を。魔力を放った手を。
震えている。
その視線が、ポールを握る莉奈の焼けた掌へ移った。
「莉奈、南へ下がろう」
健一は焼けた掌から目を離せなかった。自分の手を開きかけ、痛みに腕を戻す。
「君が傷ついて、あいつの話を聞くの? 僕は、嫌だ」
マーサの【測流】が、王から細く漏れる光を拾った。
「今の一撃、自分の身体を支える方の力まで使っとる」
ミノス王の王冠が小さく揺れた。転移の光は、まだ立たない。
莉奈はポールを握ったまま、王の次の動きを待った。
「アンタ、撃ったあと逃げないのね」
ミノス王が言葉を失った。
莉奈は王の手が下がるのを待ち、ポールをまた、一歩横の瓦礫へ立てかけた。
追撃しない。
ダイが叫んだ。
「何をしてる! 今のうちに──」
「追わない」
「なぜだ! あいつは今、魔力を消費した! 弱ってる!」
「今ここで追撃したら、また転移される。ダイ、南への道を見てて。王の手が動いたら、知らせて」
「また撃ってきたらどうする」
「もう一発、同じようには受けられない。だから、みんな目を離さないで」
「話してる間に、天井が落ちたらどうする」
莉奈はそこで初めて、ダイを振り返った。
「汐沢に退路を作ってもらう。輪島が危ないって言ったら、話の途中でもやめる。そこまでは、アタシに話させて」
ダイは輪島を見た。輪島が壁へ手を当てたまま頷く。
ダイは南への足場を空け、王へ視線を戻した。
莉奈は健一にも顔を向けた。
「無理だと思ったら、呼んで。アタシが返事しなかったら、手を引いて」
「呼んだら、ちゃんと戻って。僕は君に、隣へ戻ってきてほしいんだ」
「……分かった」
莉奈は傷のない左手で健一の袖に触れ、それから王へ向き直った。
「さっき撃った理由を、アンタの口で聞かせて。もし、逃げないなら」
ミノス王は東の隅で石壁に背を寄せた。
「私を追い詰めておいて、何を言う」
冠を押さえる指が、まだ震えていた。




