↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
57/105

第57話 盾の三秒

「覚醒【光の盾(イージス)】ッ!」


 健一の視界にEPバーが開いた。MPは減らない。守りたいという感情そのものが、盾へ流れ込む。発動した瞬間、バーの大きな一節が消え、残りはまだ白い領域で止まった。


 金子の前に、健一が滑り込んだ。


 半透明の光の膜と、ミノタウロスの拳が激突する。


 一秒目。


 盾の表面に亀裂が走った。EPの減少は、発動時に一節落ちたところで止まっている。


 二秒目。


 健一の靴底が床を削り、両腕から血が滲んだ。削られているのは盾の耐久と、健一の身体だ。


 三秒目。


 盾の耐久が尽きた。光の盾が、ガラスのように砕け散った。


「今や、和田!」


 大阪の声と同時に、和田が右手を上げた。


 金子の身体と、十メートル後方の空間が入れ替わる。


 拳の余波が健一を吹き飛ばした。


 だが、その背中が壁へ叩きつけられる前に、莉奈が割って入った。


 健一を左腕で抱え、右手のポールを床へ突き立てる。


 二人分の勢いを殺し切れず、膝が石床を擦った。


「健一! アンタ、また──!」


「金子は?」


 自分の血より先に、健一は金子を探した。


「ここ! うち、無事!」


 安全圏へ移された金子が駆け戻ってくる。右肩を押さえたまま、健一の前にしゃがんだ。盾を張った掌の皮が裂け、血が指先まで流れている。


「健一くん、手……」


「これくらい平気。それより、金子の肩は?」


 金子は答えなかった。いつもの笑顔もなかった。


 ただ、自分を庇って裂けた掌を、両手でそっと包んでいた。


 莉奈の視界の端で、EPバーが一目盛り上がった。


 健一が【解析】画面を見て、眉を寄せる。


「莉奈、今、なぜかEPが──」


「見るな!」


「え?」


「人の感情、勝手に解析すんなっつってんの!」


「今それ拾うんか」


 大阪の低い声を、ミノタウロスの咆哮がかき消した。


 額の王冠が強く発光する。


 ミノタウロスの傷ついた右腕が、また持ち上がった。砕けた関節を、命令が無理やり動かしている。


 狙いは、盾を失って動けない健一。


 莉奈の右腕に、金色を越えた紫電が走った。


 覚醒【迅雷紫電】。全開で使えば止められる。


 あの巨体ごと、王冠の紋様を焼き切れる。


 EPバーの一節が、発動と同時に消えた。


 渋谷で大きく削ったもの。


 新宿で、健一から聞かされたもの。


 怒りも、悲しみも、孤独も、信頼も──全部、自分の心だ。


「莉奈、駄目だ!」


「違う!」


 健一の声に、伊禮の声が重なった。


「これは、あの子の怒りじゃない。泣いてる。身体を止めてくれって──でも、消さないでくれって!」


 莉奈は歯を食いしばった。


 紫電を一本の細い線まで絞り、振り下ろされる腕の側面へ叩き込む。


 巨腕の軌道が、わずかに外へ逸れた。EP残量はまだ白い領域にある。莉奈はそこで覚醒を切った。


 逸れた腕を、山岸とダイが左右から押し返す。


 小保内は山岸の背中へ両手を当てたまま、先ほどから続く【バフ】を全身へ広げる。


 ダイは自力で踏ん張り、汐沢が崩れた床をさらに溶かして踏み込みを奪う。


 その瞬間、健一の【解析】に、もう一本のEPバーが引っかかった。


 表示名は小保内。残量はすでに半分近くまで落ちている。


 だが、見えた途端に【ハイディング】のノイズが覆い隠した。


「小保内さん、バフを止めて!」


「まだ持ちます」


「MPじゃない。減ってるのはEPです。もう半分近くまで落ちてる!」


 山岸の顔が強張った。


 押し返している腕は、少しでも力を抜けば潰される。


「先輩、知ってたのか」


「新宿で気づきました。言えば、山岸さんは使わせてくれないでしょう」


「当たり前だ。帰る十四人に、先輩も入ってる」


 小保内の表情が、初めてはっきり揺れた。


 山岸の全身へ広げていた【バフ】を、ミノタウロスの腕を支える両腕だけに絞る。振り払われる直前に覚醒を解除し、残ったEPを守った。


 それでも止まらない。


「長くは持たない!」


 健一が膝をついたまま【解析】を走らせる。


 表示されたミノタウロスのHPが、攻撃を受けていないのに減っていた。


「王の命令に逆らうたび、ミノタウロス自身のHPと魔力が使われてる。ミノス王は、自分の魔力を使ってない」


「息子を動かす力まで、息子に払わせとるんか」


 大阪の声から、冗談が消えた。


 倒してはいけない。


 だが、押さえ続けるだけでも、ミノタウロスのHPが尽きる。


 最初の作戦は、完全に失敗していた。


 輪島が床に耳を近づけた。【反響】が巨体の内側で鳴る音を拾う。


「音が二つある」


「二つ?」


「心臓の音と、命令の音。重なってる。でも、攻撃する直前だけ──半拍ずれる」


 佐藤がメモ帳を開いた。これまでの攻撃、王冠の発光、ミノタウロスの心拍を、【編纂(へんさん)】で一列に並べていく。


「三回とも同じです。命令が身体へ届く直前、ほんの一瞬だけ流れが逆向きになる」


 マーサが【測流】を重ねた。


「その瞬間だけ、額から王様へ魔力が戻っとる。あの子が、命令を押し返してるんや」


「何秒ある」


ダイが訊いた。


「一秒もない」


 広間が揺れた。


 ミノタウロスが山岸とダイを振り払い、再び立ち上がる。


 右腕は垂れ下がっている。


 それでも左腕を上げ、十四人を薙ぎ払う構えを取った。


 一秒にも満たない、自分を取り戻す時間。


 健一が十四人を見た。


「まず四本の線を切る。あの子の手足を、あの子に返そう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。