行動開始。
美雪を救出するにしても、シャドウのチカラが不可欠な主人公達。美雪に残された時間はあとどれ程なのだろうか!?
シャドウのチカラの解放の鍵。それは妹が持っていて、小物であり、本人が入手経緯を覚えていない物。というのが一番可能性が高いとシャドウが言うので、美影先生にそれとなく妹に探りを入れてもらったところ、ある物が出てきた。
「で、シャドウ。これ…どうやって使えばいいの?」
美影先生から手渡された『ヘアピン』を調べながら尋ねる。綺麗な青い色のガラス玉が着いた、ごく普通のヘアピンにしか見えない。
そうそう、言い忘れていたが、美影先生の怪我は、昨夜のうちに完治した。昨夜だけでも、何度も驚く事があった中でも、一番の驚きだ。だって、目の前で無かったはずの腕が生えてきたのだから。美影先生がこの星の『人間』では無い事がハッキリと分かった瞬間でもあった。
「まぁ、考えられるとしたら…、ちょっと貸してみ?英之。」
その美影先生が、生えたばかりの手でヘアピンを握り潰した。パキッという音がした後、先生が手の中のヘアピンを、ボクの影、つまりシャドウの中に落とす。すると、シャドウが一瞬七色の光に包まれ、大きく波打つように揺れ動き、何事も無かったかのように元の場所に(床)戻る。
「先生…、これはいったい?」
「受け取った時に分かったんだが、青いガラス玉じゃなく、青い液体が入ったガラス玉だったんだよ。だから中身を出してシャドウに触れさせれば変化があると思ったんだが…成功したのか?」
「えええ!?もし使い方が違ったらどうするんですか!?」
「ご、ご主人様…、大丈夫です。あぁ、チカラを感じます。恐らく、封じられていた術もこれで使えると思います。」
心配するボクの言葉に、シャドウがそう答えてくれながら、腕にあたる部分を伸ばしたり曲げたりしていた。しかし、テレビで見るようなボディービルがやるポーズを次々にとるのは、意味があるのだろうか?
《ちょっと恥ずかしいとか思ったりしな…いのだろうね。》
「…ご主人様…、思考がダダ漏れです…。オイラ傷つきやすいですから…ご容赦願います。」
「あ〜…そうなの…。はい…キヲツケマス」
壁に何度も頭を打ち付けるシャドウに、少し引いてしまう。そこまで落ち込まなくてもいいと思う。
「英之、シャドウ。早速で悪いが、時間があまり無い気がするんだ。今夜には敵地に乗り込みたいのだが、心の準備はいいか?」
いつもの強気な美影先生とは違い、申し訳なさそうにボク達にそう語りかける様子に、ボクは小さく息を吐きこう言った。
「…先生。しっかりしてください。いつもの調子で指示を出してくれればいいんですよ。先生は、ボクの先生なんだから。ちゃんとついて行きますから。」
自分で言ってて、少し青臭いセリフだとは思ったが、先生にはちゃんと気持ちが伝わった様子だ。その顔には、先程までの申し訳なさそうな感じは無く、いつもの頼り甲斐のある鬼の美影先生の顔があった。
「よし!敵地まで少し遠いので、これより向かう事とするぞ!英之、ビビって漏らすんじゃねぇぞ!」
《あ、いや。もう少し優しくお願いしたいです…》
そしてシャドウよ、昨夜までの先生に対する悪態はどこへいったんだ?エイエイオー!しなくていいから。どうでもいい事で息が合っている二人に、少し呆れてしまう。さぁ、行きますか。
〜 長崎県 佐◯保市 〜
自宅からバスや電車を乗り継ぎ、比較的大きな街の駅へと着いた。この街には初めて来たが、海有り、山あり、それでいて拓けた街でもある。ボクの住んでる街で、こんなにたくさんの人は見た事が無い。という程に人も多かった。建物も高くて首が痛くなったしね。ボクの住んでいるところは、まぁ平坦な街だからね。
「よし、ここまで来たらあと少しだ。ここからはバスで向かう。目的地は、テーマパークだ。」
「そのテーマパークに敵が?」
「いや違う。まぁ、遊覧船で有名なところだが…知らないか?まぁ、その遊覧船のコースの途中にある島に、『入り口』があるとだけ言っておこう。一般には知られていない事だしな。基本的に上陸禁止、瀬渡し禁止の島だ。」
「な、なるほど…瀬渡し?って何ですか?」
「気にするとこそこか!?…、まぁ私も一度だけしか乗った事がないから、偉そうに言うつもりは無いが、そうだな、釣り人を島まで運んでくれる船の事だ。むぅ…あそこで釣れたイカは美味しかった…。」
先生の言う瀬渡しは理解出来たが、釣りが好きだったとは驚きだ。ボクもイカ食べてみたいな。家族でどこかに行った記憶が無いボクにとって、先生の言う釣りの話しは刺激的だ。帰りに釣り出来ないかな?
「おっと、英之。あれに乗るぞ。」
楽しい想像に耽っていたボクを、美影先生が強引に手を引きバスに放り込む。突然の事に呆けて、その場で立ち止まるボクを蹴りで奥へと押し込む美影先生。もう少しお淑やかな振る舞いをしてほしいものだ。この調子では、敵と戦う前にボクは先生に倒されてしまうだろう。
〜 テーマパーク 〜
バスを降りた後、テーマパーク内には向かわず、道路沿いにしばらく歩き、小さな橋の脇から土手を降りる。小さな川のようだが、その川下はそのまま海へと繋がっていた。ボクは美影先生の後に続き、その小さな橋の真下に移動する。
「よし、もう少し暗くなるのを待って、コイツで島に渡るぞ。明るい内は目立つからな。」
そう言った先生の差す方を見ると、小さな手漕ぎボートが土手に繋いであった。凄く嫌な予感しかしないのだが、まさか島まで交代せずに…なんて事はないと信じたい。
「ご主人様、心配されずとも、このシャドウがお連れしますので、どうかご安心を。」
「う、うん、ありがとうシャドウ。また思考が漏れてた?」
「…はい。ご主人様は、精神をもう少しお鍛えになった方が宜しいかと。あと…、ハレンチな思考も隠された方が…あ、いえ。失礼しました。」
シャドウの失礼な指摘に反応して、美影先生がボクをジッと見て口を開く。
「英之…私のケツを見ても構わないが、程々にな。」
「み、見てませんから!」
なぜそんなアホで不確かな事を、自信ありげに言い切れるのか?イマイチ先生の思考が理解出来ない。確かに綺麗ではあるが、ボクはケツに興味は無い。そしてシャドウ、毎度ヤレヤレポーズを取らないでくれ。元はと言えばキミのせいなのだから。
「だいぶ日が落ちるのが早くなったな。英之、そろそろ出るぞ。遊んでないで早く乗れ。」
《ぶひ〜っ!遊んでないですっ!まったくもぅ。》
ボートを漕ぎだして半時間。といっても、漕いでいるのはシャドウだ。漕ぎっぱなしで大丈夫か?と尋ねてみたが、シャドウは疲れたりしないらしい。全身真っ黒なので、表情は分からないが、きっと涼しげな顔をして答えたに違いない。このタフさは見習わなければ。
「む、シャドウ、すまないがゆっくり進んでくれ。島が見えてきた。」
美影先生の指差す方へと視線を向けると、それほど突き出ていない島影が見えた。入り口があると言っていたので、もっと大きな島を想像していたのだが、敵のアジトにしては小さい気がする。
「美影先生、本当にあそ「シッ!」」
再確認をしようとしたボクの口に先生の手が押し当てられる。姿勢を低くした先生の視線が島を捉えている。シャドウも手を止め低く構えていた。
ボートが波に押されてゆっくりと島に近付いていく。すると、先程まで肉眼で確認する事が出来なかった、小さな灯りが一つ見えた。灯りが左右に行ったり来たりを繰り返している事からして、どうやら島に誰かいるようだ。恐らく警備だとは思うが、そこまでハッキリと姿は見えない。
「やはり警備がいたか…。あの制服…本部の親衛隊か?」
ハッキリ見えない事にイライラしていたボクの横で、美影先生がそう呟いたのが聞こえた。
《なに!?この距離で見分けられるほどハッキリ見えているって事なの!?》
やっぱり美影先生は地球人ではない。にわかに信じ難かった先生の話しが、段々と真実味を帯びてきた。そして、シャドウを使えるボク自身も、何者なのか分からなくなってきた。
主人公自宅付近より、遥かに賑やかな街。そこから少し離れたテーマパークを目指す事に。そこから更にボートを漕ぎ出し、ある島へと、美雪を救出するべく『入り口』へと向かう。しかし、そう簡単に入れてくれそうも無い様子。戦わずして救出は、やはり無理なのだろうか!?




