入り口、大都市。
やっと島に着いたと思ったら、親衛隊と呼ばれる敵が、入り口を警備していた。先ずはコイツをどうにかしないと中には入れないようだ。さて、これからどうするのか?
島をグルッと回り込むようにして、入り口とは反対方向の岸にボートを接岸する。入り口付近を警備していたのが、本当に親衛隊だったら勝機は無い。と言う先生の判断から、ボク達は島の裏側に来たという事だ。
だが、裏側に回っても、入り口は一箇所しか無いらしいので、どのみちあの警備をなんとかしないと中には入れない。
「ご主人様、オイラも長きに渡りこの者らと戦って来たから分かりますが、この女…美影が言う親衛隊であれば、オイラではどうする事も出来ないかと…」
「シャドウ、私に気を使ってくれなくてもいいぞ。私は直接はお前を知らなかったが、一族が目の敵にしていたのは知っていたのだからな。協力してくれている事だけでも有難いと思っているからな。本当にありがとう。」
ボクも聞き逃してしまいそうだったが、確かにシャドウがあの女呼ばわりから、美影といい直していた。それに対して先生が素直にお礼の言葉を述べたのに、シャドウはソッポを向いて頭部を手らしき部分でカキカキしていた。
《…何照れてんだよコイツ。意外と表情豊かなんだよなシャドウって。まぁ黒いから表情分かんないけど。》
一瞬シャドウがボクの方を振り返って見たが、何を言うでも無く、そのまま前を向いて進みだした。またもボクの思考はダダ漏れだったと知る。大方図星だった故に、シャドウは何も言い返せなかったのだろう。
しかし、シャドウが勝てないとなると、入り口に入る事はおろか、美雪を助ける事も出来ないのではないだろうか。昔から言うように、『一匹見たら百匹いると思え』って。それって虫の事だったか?
とにかく、中にはあんな奴がウジャウジャいるのだろうから、見つからずにってのは無理があると思う。何か作戦でも、と考えていた時に、シャドウが美影先生の肩を掴み、何やら耳打ちしている様子が見てとれた。何を話しているのだろう?
「ご主人様、ほんの僅かですが、お側を離れる事をお許し下さい。必ずやり遂げて戻って参ります。」
シャドウがボクにそんな言葉を残して、ボクの返答を待つでも無くこの場から消えるようにいなくなった。
「英之、私達はこのまま警備の背後から入り口に近付くぞ。シャドウがうまくやってくれる事を期待しよう。」
島の裏手は、表の綺麗な砂浜とはうって変わり、丈の高い草が生い茂り、その先には、手入れされていない『密林』とも呼べる樹々が生い茂っているような、そんな場所だ。その草むらをかき分け、密林の中を手探りで進んでいた。
そして、シャドウが何かの作戦を打ち立てて、それを信じた先生が、ボクを連れ立って更に進む事を促してきている。少し疎外感を覚えるが、今のボクに出来る事なんて何も無い。素直に黙ってついていく事にした。
あれから五分と進まないうちに、先生の止まれの合図で、その場で待機する。樹々の間にも生い茂る草の隙間から、先生が先の様子を伺っていたが、その後ろ手で『コイ』と手招きするのが見えた。
先生の真後ろまで来て先を覗くと、綺麗な砂浜と、小さなテントが見えた。その先では小さくはあったが焚き火があり、その灯りのお陰で、テント内に影が無い事から、中には誰もいない事が分かる。
「英之、様子を見てくるから、少しここで待っててくれ。動くなよ。」
そう言い残した先生が、そのテントに身を屈めたまま近付いて行く。慎重に辺りの様子を伺いながらだ。そして、先生が焚き火の方に向かって手を挙げ、そのまま立ち上がった。そして大声でボクを呼んだ。
何がどうなっているのか分からないが、立ち上がり大声を出す先生の身に何も起きない事を確かめ、ボクは恐る恐るテントに向かった。ちょっと卑怯だとは思ったが、ボク自身弱いから、臆病で慎重なのだ。
「こんなに上手くいくとは思ってもみなかったぞシャドウ。お前のお陰だ。」
「ふん、男ってのは、どいつもコイツもまぁ…」
焚き火の側にはシャドウもいた。しかしさっきまでいたはずの警備の姿が見えない。シャドウが倒したものだと思っていたのだが?
「そんなに大声出したら見つかりますよ。大丈夫なんですか?」
手を取り合い、焚き火の周りをグルグル回り踊る先生とシャドウ。異様な光景だ。というか、この連中は緊張感が無いのか、お気楽にダンスしている場合では無いと思うが。いつそんなに仲良くなった!?
「これはご主人様。ただいま戻りました。ここにいた警備は、母なる海に帰りました。」
「大丈夫だ英之。シャドウが女の影に扮装して、予め掘った海の中の穴に引き込んだのだ。男のエロ心理を利用して、シャドウが海に引きずり込んだのさ。と言う事で、これから中に入るから、覚悟して進むぞ。」
そう言いながら、ボクの肩を軽く叩いてくる先生が、小さな洞窟を指差していた。ボクとしては、あまり他人の命を奪ってほしくないのだが、それは後でちゃんと話し合う事にして、今は美雪を救出する事に集中しよう。
洞窟の中は真っ暗で何も見えないかと思っていたが、意外と月明かりが入ってきていたので、足元はよく見えた。さすがに奥はそうもいかず、美影先生が携帯電話のライトで中を照らしてくれた。そのまま奥まで進む。
洞窟といえば、暗くてジメジメしてて、天井部分から水滴が滴り落ちて…というイメージがあったのだが、この洞窟はそうじゃなかった。カラっとした感じで、サラサラの砂が固まって出来たような感じの内部だ。水分をまったく感じない。そういった洞窟だ。
不思議な感じのないぶをキョロキョロと見回していると、思い切り顔面を先生の背中にぶつけてしまった。どうやら立ち止まったようだ。その背中の脇から、ヒョイと顔を出して先の様子を見ると、そこには鉄製のドアがあった。
先生がドアに手をかけ、向こう側に押し開けると、コンクリートで作られた小部屋があった。その先の壁には、間違いなくエレベーターの入り口にしか見えない、二枚扉があった。先生が小部屋へと足を踏み入れる。
「あ、やっぱりエレベーターだった。…ということは、この島の地下にアジトがあるって事?」
「あぁそうだ。この先は、一族が作った地下都市に繋がっている。が、この入り口からは都市には入れない。ここは数百とある監視塔の一つだ。美雪はここの塔のどこかにいる。探そう。」
そう言った先生の表情が、先程踊っていた時のモノとは違う真剣な顔に戻っていた。お気楽な人かと思っていたが、ちょっと安心した。集中しないとこちらが危ない目にあうからね。
〜 佐◯保地区監視塔 〜
地下に降りるエレベーターの中で、ボクは顎が外れるかと思うくらいに驚いて口を開けてしまっていた。少し降下してそれは起きた。背にしていた壁の部分が透明なガラス張りになり、地下都市の様子が見えたからだ。とても地下にあるとは思えない光景に驚いていたのだ。
天井にあたる部分がどうなっているのかは分からないが、物凄く発光していて、地下都市全体を照らしているのが分かる。それに、眼下に広がる大都会並みの高いビル群。豆粒みたいに見えるが、自動車もちゃんと走っているみたいだ。それに、地上のとは少しフォルムが違うが、列車らしき長い乗り物も動いている。
「せ、先生…これが…。」
「あぁ、我々一族が、遥か昔から築き上げてきた大都市、『クロイ第二惑星都市』だ。」
「ええ!?ここ地球なのに、第二惑星って…。」
「私にそう言われてもなぁ、生まれた時からそう教えられていたから、その呼び方しか知らんのだ。すまん。」
「あ、いえ…そんなつもりで言ったのでは無いですから、大丈夫ですよ。」
とは言ったものの、ボク達の地球の地下に、勝手に自分達の都市を作り、そこに第二惑星とまで名前をつけている。これに不安を感じるなとう方が無理だ。地球乗っ取り計画みたいな、そんな嫌な予感しかしない。
意外にも簡単に始末されてしまった警備の親衛隊。どんなに強くても、男はやはり…ということか。そんな事はともかく、地下の大都市を自分の目で見た主人公は、その景色と、先生が口にした都市の名前で、この先に不安しか感じられなくなってしまう。人の考える事の中で、いい事はそう当たらないものだが、悪い事はなぜ多く的中してしまうのだろうか?主人公の不安も的中しないといいのだが。




