夢。
主人公の父親は、美影の正体を知っているのだろうか?と疑問にも思えてしまう状況だが、様子から察するに、その可能性は低そうだ。今のうちにと、妹の協力を得て、美影を移動させる主人公だが…
電話した時は散々な事を言われたのだが、それでも来てくれた妹のおかげで、美影先生を何とか連れ出す事に成功した。とはいえ、即席でこしらえた、美影先生のダミーも、そう長くは持たないだろう。
「美影先生、それで…、どこに隠れます?ウチじゃマズいだろうから…。」
「いいえ、お兄ちゃん。詳しい事情は知らないけど、お父さん達にバレたらマズいのなら、自宅が安全かもしれないよ?一番有り得ないくらいバカげた考えだから、お父さん達みたいに頭の良い大人なら探しもしないと思うけど?」
「な、なるほど…、それにウチにはあまり二人とも帰らないからね。あ、ありがとうみぃちゃん。まだ…、詳しい事は話せないけど、いずれ話すからね…。」
「べ、別にいいわよそんなの…。お兄ちゃんが困ってるの、放っておけなかっただけだもん。それに、変に嘘つかれて、ごまかされるよりもいいから。」
本当に、どちらが歳上なのか分からない程しっかりしている妹に協力してもらい、無事に自宅へと美影先生を連れ帰る事に成功した。やはり無理をしていたのか、美影先生は、部屋に入るなり倒れ込んでしまった。
妹の勧めもあり、美影先生には妹の部屋で休んでもらう事になった。何でも、たまに母が、ボクの部屋をゴソゴソとやっているそうなので、学校に行っている間に見つかる可能性があるとの事。
妹が美影先生をベッドに寝かせた後、ボクに手招きをして、部屋の外に出るようにと促してくる。色々と説明しなくてはいけないのだろうな。とそんな事を考えながら、その妹の後に続く。
「ね、お兄ちゃん…、実は…、お兄ちゃんが帰ってきたら聞いてもらおうと思ってた事があるんだけど…、お兄ちゃんの部屋…、行ってもいい?」
「え?…、う、うん。それは構わないけど…。じゃ、じゃあ部屋、行こうか。」
今回の美影先生の件で色々聞かれるのだろうと思っていたが、全くの見当違いだったようで逆に驚いてしまった。しかも、こんな風に妹から、何かを聞いてほしいとか言われるのは、初めての事でもある。
ボクの部屋に入るなり、ベッドに腰掛けて黙り込んでしまう妹。話しがあると言っていたが、それほど言い難い事なのか?と勝手な詮索をし、もしかしたら血が繋がってない事に関係ある相談なのか?と考えてしまう。
《も、もしかして…、ボクの事を…す、好きだとか?かな…うひゃ!ど、どう答えてあげればいいんだ…。ぼ、ぼ、ぼ、ボクも好きなんだよ…。うはぁーー!!有り得ん!》
「あ、あのね…。」
《うひゃー!!キタ!!!!》
「最近…変な夢を見るの。」
「ひぇっ!?」 《し、しまった〜、変な声が出た。》
「お兄ちゃん?ちゃんと聞いてよ。」
ボクのアホな妄想とは裏腹な表情を見せる妹のその言葉に、兄として最低だなと反省する。
「ご、ごめんみぃちゃん。ちゃんと聞くから話してみて。」
「そんなかしこまった感じの話しじゃないのよ。でも気になってね。その…、夢を見るの。毎回同じ夢なんだけどね。それが…、少し怖い感じで、よくうなされて夜中に目が覚めるの。」
話しの内容からして、そんなに怖いとういう感じは受けなかったのだが、妹の時折見せる表情が、本人にしか分からない恐怖を、ボクにもなんとなくだが伝えてくれる。その夢の内容はこうだった。
暗い場所に自分が横たわっていて、上下左右の視覚からの情報は皆無なんだそうだが、背中に感じるわずかな感触から、自分が横たわっているのが分かったらしい。そして、起き上がろうとするのだが、身体が全く動かせない状態だったそうだ。
それでも起き上がろうともがいていると、小さな点に見える光が現れ、ゆっくりとそれが大きくなり、それが分裂したかと思うと、凄い速さで自分の周りをグルグルと勢いよく回り始めて、こう語り掛けてきたそうだ。
『闇に染まりし影を照らせ。そなたこそが影を目覚めさせる力となる。永きに渡り封印された力を解き放つ時が迫っている。そなたの役目を果たすのだ。鍵はそなたなのだから。その命と引き換えに、役目を全うせよ。」
頭の悪いボクでもなんとなくだが理解出来る。妹の命と引き換えに、何かの封印を解き放つ事だという事が。ただ、引っかかるのは、『闇』『影』という言葉だ。これはボクの憶測だが、ボクや美影先生が持っていた傀儡と、何か関係があるのではないか?という事だ。
色々な事が想像出来てしまうが、あくまでもこれはボクの憶測に過ぎない。と考えているボクに、妹が話しかけてきていた。
「…ぃちゃん、お兄ちゃん!もう、何黙っちゃってんのよ!ちょっと怖くなるじゃない。ただの夢なんだけど、命がどうとか…ただでさえ怖いって思ってるのに、もぅ。」
「あ、あぁ、ごめんごめん。うん、そうだよ、ただの夢なんだから気にしない事だよ。ほら、気にしてるから同じ夢見ちゃったんじゃない?ボクもよくそういうのあるしね。」
「え…、信じられない。お、お兄ちゃんと同じレベルだなんて…。私…終わったわ…。」
「ちょ、ちょっとみぃちゃん?…お〜い…。お兄ちゃん…ショックだよ…。」
怖がる妹を元気づけようと思いした事で、まさか自分が落ち込む事になるとは思ってもみなかった。
〜 深夜 〜
真っ暗な空間の中、目を開けているのはハッキリ分かるのだが、全く何も見えない。それどころか音さえも感じられない。
《これは…夢?さっきみぃちゃんの話しを聞いたから…同じような夢を見てるのか?》
だが、妹の話しにあったような、背中の感触は一切無い。立っているのか、横になっているのか、浮いているのか全く感覚が無い。視覚としての情報が無いからなのだろうか?いや、身体がどこかに触れているという感覚そのものが無い。
そして、考えを巡らせる事は出来るのだが、声を出す事は出来ない。先程から誰かいないかと叫ぶのを試みてはいるのだが、口がパクパクする感覚がするだけで、声は出ていない。
《これって、目が見えない、耳が聞こえない、そういう人達と同じなんだろうか?だとしたら、こんなに怖い事はない。ボクだったら何も出来ないなぁ。というか…、ボクは今そうなってしまったのか?》
色々な事が頭の中に浮かび、焦りや恐怖にかられた。凄く長い時間そうしていたように思えた。そう、小さな光が見えるまでは。
その光は、時間をかけてゆっくりと大きくなっていた。もしかしたら遠くからこちらに近付いてきているのかもしれないが、それを測る対象物が無いので実際には分からない。
やがて直径二メートルはありそうな円形の光になり、一層輝きを増した時に、頭の中に声が流れ込んできた。
『影を目覚めさせるのだ。鍵は見つけてある。影を完全なるものにするのだ。闇に飲み込まれる前に目覚めさせるのだ。鍵はそなたの近くにある。時間が無い、速やかに解き放つのだ!』
「か、鍵ってみぃちゃんの事を言っているのか!命と引き換えにって、どういう事なんだ!」
《あ、声出たし…。》
『ひぎゃ!?なんで話せる!?…。ゴホン…。い、いいからやるのだ。時間が無いのだ。』
「お前…誰なんだよ!ちょっとうろたえてたよなさっき?嘘くさい威厳保とうとしてるよな?というか、なんか大げさにきこえるんだが?お前の、は・な・し!」
『ふぎゅ〜…そ、そんな事はないのじゃ!さぁ行くのじゃ!』
「ふぎゅ〜って…、それに話し方変わってるぞ?益々嘘くさい…。あ〜、なんかどうでもいいやもう。シャドウの事言ってるんだろうけどさ、正直なとこ、ボクの手に余るからさぁ、封印しちゃおうかと思ってるしね〜。」
『ひぎゃ!?しょんなぁ〜…。そ、そんな事言わずに、お願いしますよ〜。封印解いてくれないと…オイラ自由に動けないじゃない…。』
やっと本性を現した様子の謎の声の主。内容からして、早くシャドウを何とかしたがってるのがみえみえだったから、少しカマかけてみたんだよね。封印の仕方なんて知らないしね。というか、今の言葉が少し引っかかる。
「はぁ、だってさ、あんたの言う鍵って、ボクの妹だったりするんだよ?命と引き換えといわれて、はいそうですか、っていかないさ。それと、自由に動けないって…どういう意味だい?ちゃんと答えないと、本当に封印しちゃうからね。」
『あぅ…。分かりましたよ。そんなにイジメなくても。まず、鍵の命と引き換えってのは冗談です。ちょっとミステリアスで面白いかなって…えへっ。』
「ったくもぅ…、何が『えへっ』だよ。妹が怖がるからやめろよな。で?自由に動くってのは?」
意外にも、声は可愛らしい女の子の声なのだが、とんでもない冗談に少しイラっとしたので腹が立ってしまった。
『はい…えっと…、わたくし、実は、英之様に名前を頂きました『シャドウ』でありますです!よろしくネ!』
妹からの初の相談で、夢の話しを聞かされた主人公。その話しの内容に、まだ憶測ではあるが、妹の身を案じる。そして、本人も同じように夢を見るのだが、その夢の中で語られた真実には!?なんとシャドウの名を語る謎の声の主!!




